Track.11 Parade
スピーカーが空気を震わせ、観客たちの期待の騒めきで会場は包まれる。やがてそれが徐々に鎮まると、砂糖のように甘い声が落とされた。
「空飛び海越えあなたのもとへ! 幸せ……届けちゃうぞ♡」
再び湧き上がる歓声。波及する興奮。
「あなたの天使、ハニエルだよっ♡ 今日は来てくれてありがとー!!」
彼女が大きく手を掲げると、それに答えるように各々が手を振る。それを見て満足げに頷くと、ハニエルはマイクの位置を確認して話し出す。
「今日はなんと……!! スペシャルゲストとのコラボライブです! それではさっそく来てもらっちゃいましょう! お~い!!」
ハニエルは舞台袖の方を向いて、呼び招くような仕草をした。すると、階段を上ってすぐの所に待機していた人物が、一歩踏み出す。
コツ、とヒールがステージを打ち鳴らした。人々が声を潜める。
「……っ、こん、にちは。イチカです」
緊張したか細い声が、マイクを通して会場全体に広がる。
「クラブ『パープルズ』のシンガーです……でした。本日はこのような舞台に立つことができ、とても光栄です。どうぞ、よろしくお願いいたします……!!」
「もう、イチカちゃんってば、固すぎるって~!」
ハニエルがぽん、とイチカの肩を叩くと、イチカは僅かに頬を緩めた。イチカの緊張がほどけると同時に、会場に張っていた糸もゆるく解けていく。
「……一つ、皆さんにお話しておきたい事があります」
安堵したイチカは、一つ小さく呼吸をすると、会場全体を見据え、口を開いた。
「今日のライブを開催するにあたって、私のもとに脅迫状が届きました。《取り下げなんて許さない》《カレッジのライブに出演しろ》《さもなくば殺す》と」
先ほどまでと異なるどよめきが会場内に広がる。少しだけ動揺したのを察したハニエルが、イチカの背中を優しく撫でた。もう一度息を整えて、言葉を続ける。
「今日、私はここにいます。これから、ここで、歌います。ですが、脅されたから来たわけではありません」
観客が息をのむ。
「私の、一夏の亡霊の歌を届けたくて……私は、私の意志でここに来てる。だから――」
脳裏に、夏の音が蘇る。
「――私の歌を、聞いてください」