Track.01 swing swing
「シエンさん!!」
バン、とドアが勢いよく開く。突然降り注いできた日の光を恨めしそうに見上げながら、オレンジ色の髪の男性はさぞ不機嫌な様子でその声に反応した。彼は、シエン・テイニー。バーニーズ・タンドにあるクラブ「パープルズ」のオーナーである。
「……あ? 何だよ、こっちは開店前の準備で忙しいんだぞ」
「これ、どういうことですか……!?」
バン、と今度はカウンターテーブルの上に一枚のチラシが叩きつけられる。グラスを拭っていた手を止め、片肘をつきながら彼が持ち込んだ紙をつまみ上げて読み上げた。
《スクールフェスティバル恒例、スペシャルライブ》
《今年の主役は、圧倒的存在感を放つ桜殷島のアイドル・ハニエル!》
《さらに……! スペシャルゲストとして、あのゴーストシンガーがやってくる……!!》
「……なんだあ? これ」
「『なんだあ?』じゃないですよ!! 本当にどういうことなんですか、これ!?」
シエンが指を離すと、ポスターはひらひらとカウンターテーブルの上に舞い落ちた。そこには確かに「イチカ」という文字が刻まれている。
「『どういうこと』って聞かれてもなあ。俺は何も知らねえぞ」
「へ……?」
「だいたい、うちの大事なシンガーをそう易々と売る訳ねえだろ。どこぞの人使いが荒すぎる探偵のガキじゃあるめえし」
あまりにもあっさりと否定された現実に、「じゃあ誰が……いや、それよりどうしたら……!?」と呟きながら、彼はわなわなと震えている。そんな様子を見て、シエンは一つため息をついた。
「……ま、うちに出来ることがあるとしたら、許可なんて出してねえぞ、って言いふらすくらいだな。実際、カレッジの奴らから連絡なんて来てねーし。……どうせその辺のガキが勝手に突っ走って盛り上がってるだけだ。わざわざ俺たちがそんな奴らの肩持って便乗してやる義理はねえ。……だろ?」
「シエンさん……!!」
にやりと片方の口角が上がる。彼は治安の悪いこの街に相応しい態度を持ち合わせているが、従業員想いのオーナーであることもまた真実に違いないのであった。