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とまどいの翌日、守れなかった約束

次の日、ヒカルはいつも通り登校した。

(今日休めば、ぜったい登校するタイミングを失う!)


「おはよう」といつものようにクラスメイト達と挨拶を交わすたびに、

自分の様子が変ではないかと心配になってしまう。

みんなの秘密を知ってしまった昨夜。ヒカルは眠れなかった。


(どうしよう…忍者…ってよくわからないけど、オキテ?がすごく厳しいイメージだよな…

みんなのこと忍者って知ってるってわかったら…僕、どうなっちゃうんだろう…?もしかして…)


どこぞの松明たいまつがたかれた忍者屋敷の一室で、松明の火が揺れる中ヒカルは縄で縛り上げられている。


ヒカルの周りを、ベタな忍び装束に身を包んだクラスメイトたちが取り囲む。

「ヒカル…私たちの秘密…とうとう知っちゃったんだね。」

アカリが悲しげに言う。

「知ってしまった以上…もう、里から出すことはできないわ。」

柳の眼鏡が、きらりと光る。

「…お前は知りすぎたんだ…」

星路セイジの手がヒカルの顔面を掴もうと迫る…


「ヒカル…ヒカル?」

自分を呼ぶ声にハッとして、妄想から我にかえると、星路がヒカルを覗き込んでいた。

「大丈夫か?今日は顔色がすぐれないみたいだが…」

「いやっ、そんなことないよ!大丈夫!!」


灯も心配そうな顔で寄ってくる。

「まだケガのあとが痛いんじゃないの?あんまり無理しちゃダメだよ。」

「ありがとう。実は昨日の夜、よく眠れなくて…」


「眠れない時はな、やぎを数えるといいんだぞ!」

話を聞いていた大牙タイガがアドバイスをくれる。

「それを言うなら羊だろ。」

机の上に足を置いたまま本を読むつららが、自分の席からツッコんだ。

「え!?やぎだろ!!?」

「有線でも羊数える番組がある。寝る前にヤギ数えてるのは世界でお前だけだバーカ。」


「落ち着いて二人とも!じゃあ僕、今夜羊とヤギ、交互に数えてみようかな!あはは!」

白熱してきたので、ヒカルが仲裁に入った。


「羊とヤギ…メェーと鳴くのは…どっちだ…?」

ハガネはひとりで真剣に考えている。


「よし!鋼!いいか、俺がやるからよく聞いとけよ!羊はちょっと低くバベェーって感じで、

やぎはそれよりもっと高い、メェーーーって感じだ。」

大牙がリアルに鳴き真似を交互に繰り返す。


そこへ千里が教室に入ってきた。

「びっくりした〜。教室が牧場になってんのかと思ったら、大牙じゃん!」

「千里はどっちがヤギの鳴き方かわかる?」灯が聞いた。

「わかんないし、どっちでもいいかな☆!じゃあ朝の会をはじめま〜す!!」


ヒカルはこのクラスのやりとりを見て、昨晩からひとり深刻に悩んでいたことが、バカバカしく思えてきた。


(よく考えてみれば、人間、誰にでも言いたくないことや秘密はあるものだし、

みんなが打ち明けてくるまでは、僕は何も言わないでいいでいいんじゃないのかな…)


何より、動画に映っていたバッタバッタと悪人を倒していく人たちと、

今ヤギのくだりで盛り上がっている人たちが、同じ人物とは思えなかった。


(そもそも忍者なんて現実離れしすぎてるし…もしかしてあの動画は誰かがCGで加工した

ドッキリっていう可能性もあるよね。そうだったら、きっとそのうち、ネタバレしてくれるよ!)

そう思うと、心が落ち着いてきた。


しかし、数日が経ってもヒカルにドッキリでした!を告げるものはいなかった。


そして、クラスメイトをよくよく観察してみると、

鋼はハサミなど図工の道具を使うときにその場で錬成して使っているし、

灯は理科の実験などアルコールランプに火をつける時、指を擦り合わせて火を起こしていたし、

エアコンの効きが悪いという話になれば、教室の後方で密かにつららが氷の塊を作ってタライに置き、

星路がこっそり風を起こして教室を快適に涼しくしてくれいて、

大牙は連日忘れたお弁当を山鳥や鹿が届けにきてくれていた。


なぜ今まで気づかなかったのか!逆に、気がついて欲しいのか?

(これはもう、知ってるって、言っていいのかな?)

ヒカルはまた頭を抱えた。


外の空気を吸おうとして、席を立ち教室のドアに触れた瞬間、バチッと音を立てて静電気が起きた。

「わっ」

「大丈夫?すごい音したけど。」

ちょうど教室に入ろうとした柳が声をかけた。

「は、はい。最近よく起きるんです。」

「痛そうね。」

「え?音だけで、全然痛くはないんですよ。」

「そうなの?」

柳だけは観察していても、何もおかしな行動は見受けられなかった。

動画の最後には、植物の蔓を操って不良軍団を逆さ吊りにしていた姿が写っていたので、

もしかしたら植物を操れる人なのかなとヒカルは考えている。


「それはそうと。最近ずっと私を観察しているようだけど、何か相談事でもあるの?」

「えっ?いえ、そんな。ジロジロ見ちゃってすみません!」


頭の中を見透かされたヒカルは、慌ててその場を立ち去った。

柳だけは、ヒカルの変化を見過ごさなかった。


「星路、ちょっと話があるんだけど。」

柳は星路を屋上へ呼び出す。

「気づいてるわよ、彼。」

「彼って、ヒカルか?気づいてるって…」

「私たちの、正体に。」

「まさか…」

柳はため息をつき、続けた。

「あんた達ね、気を抜きすぎなのよ!彼を仲間だと思ってる。」

「ヒカルは、仲間だろ。」

「表面上はね。確かに仲の良い友達だわ。でも、この村じゃ、それとこれとは話が別なのよ。

“友達“だとしても、“仲間“じゃないわ。」


「柳…。例え正体がバレたとしても、ヒカルは、俺たちを受け入れてくれると思う。」

「掟はどうするの?部外者に正体がバレたら、私たちは彼を消さないといけないのよ。

その掟を作ったのは、紛れもなくあなたの家でしょう!星路!」


「オババ様が勝手に決めたことだ。俺と現当主である父上は、全く了承していない。」

「そんな理屈が通じると思う?」

「それに柳。“消す“なんて、簡単に言っていいことじゃない。人が死ぬってことは、すごく重いことだ。

俺は絶対にオババ様からヒカルを守ってみせる。」

「それはそうだけど…」

言葉をつづけようとした柳の顔がさっと青ざめた。


星路は振り返ると、オババがすぐ後ろに立っていた。

横にはぐったりと気を失ったヒカルが、オババの手先に抱えられている。


「オババ様…まさか今の会話、聞いて…?」

「…!!ヒカル!!!!」

星路が叫び、風を発動したが虚しく、ヒカルはオババの影にどっぷりと沈んで消えてしまった。




「守れるもんなら、守ってごらん。」

あたりにはオババの甲高い笑い声だけが響きわたっていた。


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