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反対勢力と初めてのお泊まり会 中編

しばらくすると星路セイジが現れた。


「お世話になります。」

「いらっしゃい、星路くん!ゆっくりしていってね!」

「今日は突然すまなかった。その、うちの風呂釜が壊れてしまって。」

「そうだったんだ!それは大変だったね!」


柳にもう少し泊まりに行く事情を説明したほうがいいと言われて、取ってつけた理由だった。

星路はヒカルがお風呂に入っている間か、寝静まったタイミングで護符を貼ろうと考えていた。

こうしている間にも、オババがいつ攻め入ってくるかわからない。

星路は焦っていた。


「よし、じゃあ…寝るか。」

「え!?まだ5時だよ!?」

「早寝早起きは、健康にいいんだぞ。」

「それはそうだけど…まだご飯も食べてないし…それに、お風呂に入りに来たんじゃないの!?」

「…それもそうだったな。」

「あ、じゃあ、とりあえずお風呂沸かすからちょっと待ってて!」


バタバタと風呂場へ向かうヒカルを見て、“イヌ“がやれやれと言ったようにため息をついて伏せた。

居間には星路と“イヌ“だけになった。


今がチャンスだと星路が護符を居間の目のつきにくいところへ貼ろうとした瞬間、

“イヌ“が彼の手を容赦なく噛んだ。

「っ!?」

驚いた星路は“イヌ“と間をあけて対峙した。

“イヌ“は真っ直ぐに星路を睨みつけている。

そうこうしているうちに、ヒカルが居間へ戻ってきてしまった。


「もうすぐ用意できるからね。…?星路くん、どうかした?」

「いや…その“イヌ“…」

「もしかして噛まれちゃった!?ごめんね、この子、吠えたりする代わりに、

何か嫌なことがあると噛んで知らせてくるんだけど、結構容赦なく痛いんだよね。大丈夫?」

「ああ…」

星路は噛まれた部分を手でさすりながら、恨めしげに“イヌ“を見つめた。

“イヌ“は悪びれもせずに星路を睨み返していた。


「実はさ、この子の名前どうしよっかなって悩んでてさ。

星路くん、よかったら今日一緒に決めてくれないかな?」


「…ポチでいいんじゃないか。」


噛まれたところが痛かったので、星路は投げやりに応えた。

“イヌ“はグルル…と牙を見せて威嚇した。


「それが平凡な名前はあんまり好きじゃないみたいでさ。僕、何回も噛まれたよ。」

ドウドウ、と“イヌ“を優しくなでながらヒカルは言った。

噛まれているのにちっとも嫌そうでなく、むしろ可愛いといった感じでにこやかに“イヌ“を撫でるヒカルは、

すでに立派な“イヌ“の親バカになっていた。


無理やり泊まりにきた以上、ヒカルに付き合うしかないなと腹を決めた星路は

ふむ…と縁側に座り込んで、本格的に名前を考え始めた。


「平凡でない…とすると、響きは日本語より外国語のようなものが良いのか?

ジョニー、ジョン、エリザベス…ペス!」

“イヌ“は不機嫌そうだ。


「僕もそう思って、西洋風の名前をいくつか挙げたんだけど、却下されちゃったんだ。」

「では、国を変えよう。」

「…あ!そういえば、前の学校でクラスの人たちが、

今、韓国風の名前をペットにつけるのが流行ってる…って言ってたのを聞いた気がする!」


「韓国…?…焼肉…?カルビ!」

「ビビンバ!」

「クッパ?」

「ユッケ!」

「ユッケ!いいんじゃない?!」

“イヌ“がヒカルの手をガブっと手を噛んだ。


「え?だめ?可愛くない?ユッケ」

“イヌ“は焼肉から離れて欲しいらしい。


「ダメか…じゃあ韓国語で、1・2・3は…確かハナ、トュル…」

「ハナ!ハナちゃんは!?どうかな?!」

“イヌ“はちょっと考えているようで、今度は誰のことも噛まない。

「わぁ!良さそうだよ!星路くん!!」

おぉ〜っと2人は盛り上がった。


「そういえばコイツはメスなのか?」

「あ、わかんないや。確認したことなかった。」

星路が確認しようとすると、“イヌ“は今までで一番敵意を剥き出しにした。


“イヌ“、改め“ハナ“はヒカルの横に落ち着いた。

「良い名前が決まってよかったね〜ハナ!ハナちゃん♡」

ヒカルはハナの頬を両手で包んで嬉しそうに言った。

出会ったとき、ハナを変な化け物だと言っていたくせに

この手のひらを返したようなメロメロっぷりはすごいな、と星路は素直に感心した。


「あ、お風呂用意できたみたいだから、星路くんお先にどうぞ。僕はその間、夕飯を用意しておくね。」


星路が風呂から出ると、ヒカルの父が帰宅したので夕食を3人で一緒に食べた。

ヒカルの父は村に来てから畑仕事や村の役場で手伝いをしているので朝が早い。

夕食を食べると早々に2階に上がり床についた。


2人で台所の片付けを終えると、今度はヒカルが風呂へ入りに行った。

ここからが星路にとっての本番だ。

よし、と意気込んで呪符に手をかけると、またしてもハナが星路の手を噛んだ。

「お前はもしかして…これを、貼ってほしくないのか?」


星路は律儀にハナに呪符を見せて向き合い、きちんと説明した。

「いいか。これはな、ヒカルを悪いおばあちゃんから護るために必要なシールなんだ。

だからこれを、お前たちの家に貼らせて欲しい。

怪しいだろうけど、気にならない、見えないところに貼るからな。では、お願いします。」


そう言って、部屋の鴨居の隙間に貼ろうとすると、ハナは星路の足をガブっと噛んだ。


時間が限られている。これ以上ハナに邪魔されてはたまらないと、

やむをえず風で動きを止めようとすると、甲高い声が頭の中に響いた。


『だ〜か〜らぁ!やめろっつってんだよ!!!!』

「??」

あたりを見回しても、ハナと星路以外は誰もいない。

『ほんっと、勘の悪いやつだね。アタイだよ。アタイが喋ってんの。“ハナちゃん“が!!』


ハナがこっちを見据えている。口が動いていないので、頭に直接語りかけているらしい。


『その護符を貼ったら、この家では全員の能力が無効化されちまうだろ。

あのババアの侵入を防げても暗殺されたら意味ないし、何よりアタイがヒカルを守れなくなるじゃないか。』


「お前も…能力が使えるのか?天地村テンチムラの者なのか?」

『まぁ…そこは話せば長くなるから。とにかく、この家ではアタイがヒカルを守ってるんだから、

その護符を貼る必要はねぇーよ。さっさとしまわねーと噛むだけじゃ済まさないよ。』


星路は悩んだが、事実、自然教室でハナはヒカルを守ったので、その言葉に嘘はなさそうだ。

今はこれ以上もめるのは得策ではないと考え、渋々と鞄に護符をしまった。


『それでいい。ヒカルにはアタイが喋れるってこと内緒にしとけよな。』

「ああ。だが…お前は、何者だ?」

『アタイは“ハナちゃん“だよ。しっかし…お前らにはネーミングセンスってもんがねぇなぁ。』

「誰かの能力が具現化しているのか?それとも…」

『企業秘密だ。』ピシャリとハナは言う。

「……。」

『……。』

「女の子…か?」

『今の世の中、性別って重要か?

てゆうか、お前な、ヒカルを守りたかったら周りの大人を信用するな。この村の奴らは全員忍びなんだろ?

知らない間に、お前たち子供は良いように利用されてるかわからねぇぜ。』

「君はどこまで知ってるんだ?」


『何にも知らねぇよ。アタイはヒカル以外の人間はどうだっていいのさ。

お前のことヒカルは信用してるみたいだが、あいつに何かしたらアタイが容赦しないからな。

肝に銘じておけよ!』


そこへヒカルがお風呂から戻ってくる気配がしたので、

ハナは星路に話すのをやめて、元のスンとした表情になり、居間の隅に伏せた。


ヒカルは頭をタオルでふきふきしながら戻ってくる。

「ただいま〜。星路くん、大丈夫?ハナに噛まれなかった?」

「あぁ…ハナは…」


星路はハナの乱暴な口調を思い返しながら言った。


「もう少し、躾を厳しくした方が良いな。」

ハナは星路に飛びかかったが、星路は走って逃げたのでしばらく2人は庭で追いかけっこするカタチになった。

「ハナちゃん、ダメだよ!あれ?でも、2人とも、なんか仲良しになってる?あはは…」


しばらく犬の飼い方を検索しては実践し、ハナに噛まれて、を繰り返しながら

楽しく過ごした2人であった。


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