表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/19

忍者の仕事と公民館にて

ヒカル達がハガネの家に遊びにいっていた同時刻、

柳と星路セイジは忍務のため、村から離れたとある街の食品工場に潜入していた。


この食品会社のライバル社から、

この工場では国が使用を禁止している添加物を仕入れて使用している情報を掴んだので、

証拠を抑えるように依頼されたのだ。


“誰にも気づかれないように目的を遂行する“忍びとしての実践訓練だ。

天地村の忍びは学校生活の合間に、このように忍務をこなしながら経験を積んでいく。


この工場は勤続5年以上の従業員しか入ることを許されない特殊な条件があるため、

2人はあらかじめ狙いをつけていた従業員を尾行してロッカールームに入り、

睡眠薬(天地村テンチムラ忍者特製)で眠らせその人物に変装し工場の生産ラインに紛れ込んだ。


ここまでの行程を流れるようにこなし、

2人はベルトコンベアで作業をしながら次のターゲットが来るのを待っていた。


従業員のおばさんに扮した柳は、流れてくるお弁当に梅干しを一定のリズムで加えながら、

これまた従業員のおじさんに扮し隣で玉子焼きをつめている星路に話しかける。


「これちゃんとバイト代出るんでしょうね?」

「中学生が働くのは違法だろ」

ちらっと柳は星路を見て続けた。


「ねぇ、アンタ何でヒカルのこと怒ってるの?」

一拍間があいたが、玉子焼きをつめる手を休めずに星路は答える。


「…怒ってなど、いないが。」

「うそ。みえみえよ。仮にも忍びなら、自分の感情くらい人に気取らせないようにしなさいよ。」


柳が呆れ声でそう言うと、星路は少し考えて言った。

「もしかして、ヒカルにもそう思われているということか?」

「あったりまえでしょ。ヒカル、気にしてるわよ。

彼、村に来る前いじめにあってたんだから、人一倍そういう気配に敏感だと思うわよ。」


星路にそんなつもりはなく、完全なる無意識だった。


昨日自分が守ってやると言っておきながら、自分が彼を傷つけてしまったかもしれないと思うと、

胃の辺りがズンと重くなった。


「まぁわかるわよ。ヒカルをうざったく思う気持ちも。あの子は放課後こんな工場に忍び込んだりしないで、

何も考えずおやつ食べてゲームして屁こいてりゃいいんだから。」

「そんなことは思ってない!あと、お前、女の子が屁こいてとか言うんじゃない!」

「あら、私のこと女の子だと思ってくれてたの、ありがと。じゃあ、ヒカルの何が気に入らないのよ?」


ふぅと軽く一息ついて、星路は答える。

「怖い…のかもしれない。」予想外の答えに柳は目を丸くした。

「怖い!?アンタに怖いものなんてあったの?」

「俺にだって怖いものくらいある。」

 

柳は生まれた頃から修行でも何でもそつなくこなしてきた星路に対し、

一種の憧れとコンプレックスを抱いていた。星路と比べ、自分を凡人だと思ってきた。

凡人だからこそコツコツと植物の知識を蓄え、自分の能力を磨き上げてきた。


それゆえに星路が自分に対して弱音を吐くことが嬉しくもあり、許せなくもあった。

でも、星路を怖がらせるとしたらそれがなんなのか、柳は知りたい気持ちでいっぱいだった。


「ヒカルに…忍者が嫌いって言われたんだ…。」


柳は一瞬聞き間違いかと思い、確認するように言葉をかけた。

「え?うん。知ってるけど。はじめっから彼、そう言ってたわね。

“忍者“の苗字のせいでいじめられてたんだから、そりゃ嫌いでしょうね。」


星路は答えずにもくもくと玉子焼きを詰めている。


「え!?アンタそんなことでショック受けてるの!?」

「大きな声出すなよ!」

星路は少し離れたところで作業している他の従業員の目を気にした。

他の従業員達の意識が自分達から離れることを確認すると、小声で柳に言い返した。

「改めて言われると傷つくだろ!だって俺は“忍者“なんだから!」


「…でも別に、『忍者の裏で動いてるところが辛気臭くて気持ち悪い』とか

『人間離れした能力とかもはや人間じゃないよね』とか言われたわけじゃないんでしょ?」

「なんて酷いことを言うんだ柳!お前そんなこと思ってたのか!?」

「違うわよ!例えよ、例え!私だって“忍び“なんだから。え?ちょっと待って。

星路ってそんなメンタル弱かったの?マカロンじゃん…メンタルマカロン男…。」

「なんだそれは。どういう意味だ。俺はマカロンは好きじゃない。」

「だから例えだってば。」


柳は星路の意外な一面を見て、呆れる反面少し可愛くも思え、笑えてきた。

普段はこんな内面に踏み込んだ話はお互いにしないのだ。

生まれた頃から一緒だったけどあんまり彼のことをわかっていなかったのだとしみじみ思った。


「人が真剣に悩んでるのに笑うなよな。」

「ごめんごめん。アンタ、よくそんなんで今まで辛い修行に耐えてきたわね。

拷問尋問の演習の時だって平気だったじゃない。」

「それは…なんとも思ってないやつに何を言われても平気だ。でもヒカルは…」

「“友達“?」

「……。慕ってくれている人間に言われると堪えるだろ。」

はぁ、と柳はため息をつく。

「星路って、実は忍びに向いてないのね。」

「今頃気づいたか。」

「シッ来たわよ。」

メインターゲットにしている人物、この食品会社の副社長がやってきた。

副社長はスーツを着た営業マン風の男と共に、会議室へ入っていった。


柳は梅干しを詰めながら、反対の手でポケットに入っている装置を起動させ、

あらかじめ会議室に仕掛けておいた録音機能付き盗聴器の電源をオンにした。

音声が聞こえてくるのを確認すると、星路に向かって頷いた。


会話の内容は副社長と問題の添加物を販売する業者のやり取りで、

添加物を受け取る書類に副社長がサインと捺印をする、と言うものだった。

 

本当なら星路がこの後書類を営業マンからさりげなく奪う予定だったが、

音声から電子書類にサインしているようだったので作戦を変更し、

星路は製造ラインを抜け出し、地下倉庫に搬入された添加物を写真におさめ、

一袋現物を持ち帰ると工場の外に脱出して変装を解き、柳と合流した。


「盗聴器回収したわ。そっちはどう?」

「ああ、問題ない。」

「電子書類とはね。こんな田舎でもテクノロジーは進んでるのね。」

「ああ。本部でIT班に報告しよう。」

陽がおちて暗くなった森を風のように駆け抜けながら2人は天地村へ戻っていった。


天地村の公民館は一見普通の地味な建物だが天地忍者の本部の役割を担っていた。

村の忍者は日々の大小の出来事や忍務の報告を毎日本部に報告する決まりになっている。


2人が到着し中に入ると、ちょうど鋼の家での出来事を報告しに、

鋼、つらら、大牙タイガの3人も公民館に来ていた。

大牙のゴリラのようにムキムキした両腕を見て、柳と星路は全てを悟った。


「そっちは大失敗だったわけだな。」

そう言う星路に対し、つららが弁解する。

「失敗はしてない。起こりうる、最悪のことが起きただけ。」

大牙も誇らしげに答えた。

「俺たち全部完璧に対処したんだぜ!問題はない!」

「じゃあアンタは明日からも完璧に両腕だけゴリラな状態で生きていくわけ?」柳が口を挟む。

「たまに戻りが悪いんだよな。ま、どーにかなるって!」

柳は呆れ顔でため息をついた。

「鋼の家は大丈夫か?」星路が尋ねた。

「大丈夫じゃないけど、家族総出で直せば朝までには終わる。

ただ、父さんがリフォームついでに新しい罠を仕掛けるのにワクワクしてるから、多分もう少しかかりそう。」

「ポジティブな家族ね。」柳が感心しながら言った。


そこへ千里センリがやってきた。

薬師丸ヤクシマルを連れてきたよ〜」

猫背にボサボサ頭でくたびれた白衣を着た、まるぶちメガネの男が一緒だった。

薬師丸は大牙を見て面倒臭そうに言った。

「ゴリラがゴリラの腕になってるなら、別に治さなくてもいいんじゃねぇか。」

「薬師丸さ〜ん!そんなこと言わないで〜おねしゃっす!!!!」

大牙が半泣きで訴えると、薬師丸はやれやれと両手を大牙の両腕にかざし、“癒し“の能力でその両腕を治した。

薬師丸は天理村診療所の医者だった。


“千里眼“で全ての様子を見て知っていた千里は、大牙のために薬師丸を連れてきたのだ。

「あざっ〜〜〜す!!!!」大牙は治った両腕を嬉しそうにさすりながら、

上腕二頭筋が映えるポーズをとって喜びを表した。

ハジメ、帰るとき教えろ。」薬師丸は千里にそういうと奥の部屋のソファに横たわって眠り始めた。


その後、ヒカルを家に届けたアカリも公民館へ合流し、本部への報告を終えると、

一同は公民館の玄関ホールに移動した。


千里は灯にヒカルの様子を確認した。

「じゃあヒカルの記憶は、忍者屋敷と犬ロボのくだりは忘れてて、

忍具を見た後は相撲大会とゲームとコントをやったことになってるんだな?」

「そうだよ!」灯が揚々と答える。


「今日でだいぶ親睦を深められたみたいね。」柳が面白そうに言った。

「すごい会だな。」星路は現場にいなくてよかったと思った。

そんな星路を横目で見た柳は、わざとらしく挙手して千里に発言した。

「先生ー、影沼くんもヒカルくんと仲良くなりたいけど、上手にできないそうです。」

「なっ…!?」星路は心底たじろいだ。

千里もまた星路を見透かしていた。その上でわざとらしく「そっかそっかそうなんだー」と言って頷く。

星路は屈辱的だった。しかし、この件に関して星路自身もどうしたらいいのかわからなかったので、

図星でもあった。なので何も言い返せなかった。


「実は…そんな星路くんにぴったりな学校行事があるんだよね!」

「学校行事!?」

星路を差し置いて、他のメンバーはワクワクで千里の次の言葉を待ち構えた。


「そうだ、自然教室に!行こう!!!!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ