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34.火竜遭遇戦

 ノーラが火竜へ向かって駆け出す。

 それと同時にアリアが魔鋼糸を前方へ飛ばし、動きを封じようと火竜の体へ巻きつけた。


 羽と胴体と前足をひとまとめにするように絡みつく魔鋼糸。

 彼女はさらに魔鋼糸へ魔力を流し、より硬く、そしてきつく縛り上げる。


 すると次の瞬間。


「ギュルアアアアア!」


「…っ!」


 火竜は巻きついていた魔鋼糸を無理やり引きちぎった。

 ワイバーンの時とは桁違いのパワーに、思わず息を呑むアリア。

 まさかこんなにも速く拘束を解かれるとは思っていなかった。


 だが、彼女のおかげで火竜に小さな隙ができた。

 その小さな隙をさらに広げようと、レオンが呪符に描かれた魔法陣へ魔力を込める。


「ノーラ!」


 レオンがノーラへ呼びかけると、彼女はすぐに意図を理解して半歩左へずれた。

 直後、破裂音と共に彼女の右脇を紫の閃光が駆け抜ける。

 レオンが放った電撃だ。


 ノーラが走るよりも疾く、槍のような形をした紫電の塊が一直線に火竜へと迫っていく。


「グルルル…」


 火竜は巨大な図体に似合わぬ機敏な動きで体を捻り、それを躱した。


 結局、紫電の塊は何も無い空間を通り抜け、火竜の遥か後方にあった木に当たり、その幹を焦がして消えた。


 レオンの攻撃は火竜に避けられたものの、体勢を崩させてアリアが作った隙を大きく広げることには成功した。


 今が好機とノーラは火竜の手前で強く踏み込み、下段に構えていた剣を振り上げる。


「………」


 そして無防備になった火竜の首元へ、渾身の一撃を叩き込んだ。

 助走をつけて勢いが増しているというのもあって、普通の魔物はおろか、ドラゴンでも受けきれないような威力を持つ一撃だ。


「…!」


 ガキン!という音が鳴り、ノーラの剣が火竜の首の表面で止まった。

 想像以上の硬さにノーラが思わず目を見張る。

 剣が折れたり刃こぼれが生じたりしているようには見えず、それは純粋に力負けしたことを意味している。


 これまで数々の魔物を軽々と葬ってきたノーラの一撃を、目の前の火竜は傷一つ負うことなく受けきってしまった。


 しかし、火竜は未だ体勢が崩れた状態のままだった。


「…今度こそ。」


 火竜を反撃に転じさせまいと、アリアが再び魔鋼糸を伸ばす。

 今度は全身ではなく、前足の動きを封じるように糸を巻き付けた。


 それに合わせて二枚の呪符を手にしたレオンが魔法を発動させる。

 彼の目の前に突如現れた大きな水の塊が前方へ発射され、火竜の前足の付け根辺りに纏わりついた。


「グァルルル…!」


 火竜は鬱陶しそうに水を払いのけようとするが、アリアの魔鋼糸によって前足を塞がれていた。

 その隙にレオンが発動させたもう一つの魔法によって、火竜に纏わりついていた水が急速に熱を失い、氷へと変化して火竜の動きを阻害する。


「よし!頼む、ノーラ!」


 再度訪れた大きなチャンス。

 首は斬れなかったが、柔らかい腹の部分であれば刃が通るはず。

 そう思ってノーラは火竜の脇腹の下へ潜り込んだ。


「………」


 地についた二本の足でしっかりと地面を掴み、全身の力を込めて火竜の脇腹を斬り上げる。


「…!?」


 だが、またしてもノーラの剣は火竜の硬い皮膚に弾き返されてしまった。

 彼女は諦めることなく二度三度と動けない火竜を下から斬りつけるが、何度やっても傷一つつかなかった。


「グルルルルルル…」


 大したダメージはないものの、一方的に攻撃を受けて苛立ったように火竜が喉を鳴らす。

 レオンは火竜の体内にある魔力の動きが激しくなっていくのを感じ取った。


「ギャアアアアアアアゥ!」


 空気が震える程の哮りを火竜が見せると、体に纏わりついていた氷を内側から砕き割った。

 氷の破片が辺りに飛び散る。


「…っ!」


 アリアの背筋を唐突な寒気が襲う。

 彼女は本能的に危険を察知し、火竜の前足に巻き付いていた魔鋼糸を解いて手元に戻した。


 それとほぼ同じタイミングで、魔鋼糸が巻き付いていた左の前足を引くような動きを火竜が見せる。

 一瞬でも判断が遅れていたら、魔鋼糸を逆に利用され火竜に引き寄せられていたと理解し、アリアの頬に冷や汗が流れる。


 体の動きを阻む障害()がなくなったところで、火竜は先程から攻撃を加えてくるノーラを忌々しそうに見た。

 そして、邪魔な羽虫を叩くかの如く、彼女目がけて前足を振り下ろす。


「ノーラ!」


 寸でのところでノーラは後ろへ跳び、それを回避していた。

 固い地面を火竜の前足が叩きつける。

 ドォン!とものすごい音を立てて、土埃が舞い上がった。


 土埃が晴れると、火竜の前足があった場所にはくっきりと足形ができていた。


 叩きつけた前足に手応えがなく不思議そうにしていた火竜は、無事なノーラの姿を見つけると魔力を喉元へと集める。


「マズいっ…!」


「ギャオオオオオオオオゥ!」


 耳をつんざくような咆哮と共に、火竜の口から巨大な炎のブレスが放たれた。


 ドラゴンのブレスというのは、大量の魔力を変換してできる極大なエネルギーの塊だ。

 火竜のブレスは特に強力で、直接当たらずとも少し掠っただけで全てを消し炭にしてしまえるような威力を持っている。


 そんな高エネルギーの炎の塊が、ノーラを飲み込まんとする勢いで襲いかかった。


 ブレスが飛んでくる気配をいち早く察知したノーラは、全力で斜め後ろへ跳ぶことでなんとか攻撃を避けることができた。

 火竜の口から吐き出された高エネルギーの炎は、地面を抉るように削りながら反射し、周囲に散乱する。


 ブレスという大技を撃った反動で動きが止まっていた火竜だったが、周囲にまき散らされた炎が壁となって行く手を阻み、ノーラは反撃に出ることができなかった。


「ノーラ!大丈夫か!」


 呪符を手に握りしめたレオンが心配そうに駆け寄って来る。

 そのすぐ後ろには彼を守るようにアリアの姿があった。


「ええ。…それより…」


 ノーラが前を向くと、炎の壁越しに睨みつけてくる火竜と目が合う。


「前はこんなに硬く…いや、強くなかった…」


 ノーラは過去に二度、火竜と戦った経験がある。

 火竜はこの世で最も強いと言われるドラゴンという種族の中でも上位の存在であり、彼女が火竜を倒した時もそれ程余裕があったわけではなく、どちらがやられてもおかしくないと言えるようなギリギリの戦いだった。

 けれど、火竜の体に刃が通らないということはなかった。


 記憶の中よりも遥かに強い目の前の火竜に、珍しく動揺した様子のノーラ。

 剣を握るその手はいつもより余計に力が入っている。


 自分の全く攻撃が全く通用しないというのは初めての経験であり、それ程までの衝撃を彼女に与えていた。


「…いけそうか?」


 心配そうにレオンが聞いてくる。


「…正直、厳しい…けど…やるしかない。」


 目の前の火竜を相手に勝てるビジョンが思い浮かばない。

 この場から逃げるにしても、火竜はそう簡単に見逃してはくれないだろう。

 そんな中でこのパーティーの最大戦力たる自分の心が折れれば、いよいよ誰も生き残れなくなってしまうかもしれない。


 自分がなんとかしなければという使命感に駆られ、ノーラは揺らめく炎越しに火竜を見据えた。


 決意に満ちたような表情の彼女を見て、レオンが一枚の呪符を取り出す。


「…コイツは【強化】の魔方陣で、対象の身体能力を飛躍的に上げるっつーもんだ。ただし、最長でも二十分しか持たず、効果が切れたら全身の骨や筋肉が傷ついて激痛が襲ってくるってデメリットがある。」


 そう説明しながら見せられた呪符は所々色あせ、長い間鞄の奥底にしまい込まれていたことが窺われた。


「負担が大きいし、できればコイツは使いたくなかったんだが…」


 苦い顔でそんな発言をするレオン。


 もしこの魔法によって少しでも今の状況を改善できる可能性があるのであれば、彼の言うデメリットを無視してでもノーラはこれを受け入れていただろう。

 けれど、彼女にはそれができない理由があった。


 悔しそうな顔をしながらレオンの方を向くノーラ。


「…でも…私は魔力がないから【身体強化】の魔法は効かない…」


 魔法の中には自らの身体能力を上昇させる【身体強化】という魔法がある。

 これは魔力を持っている人間ならだれでも使うことができ、冒険者の中でも剣士などの前衛として戦う者にとって必須級の魔法だ。


 けれども、生まれつき魔力を持たない魔力欠乏体質のノーラは、体が魔力を拒絶してしまうせいで、【身体強化】が使えなかった。


「いや、それなら大丈夫だ。詳しく説明してる暇はないが、【強化】に魔力の有無は関係ねえ。元々持ってる力を無理やり引き出す魔法なんだ。そのせいで俺には大して効果がねえんだが…」


 しかし、レオンはそれを踏まえたうえで問題ないと確信していた。


「…ノーラ、いつもお前に負担をかけちまってすまねえ。頼む!アイツを倒すためにこれを受けてくれねえか?」


 そう言ってノーラの目を真っすぐに見ながら頼み込むレオン。


「…わかった。お願い。」


 そこまで言うのであればと、彼女はダメ元でレオンの魔法に懸けてみることにした。


 すると、今まで二人の会話を聞いていたアリアが口を開く。


「…レオン…なら…私も。」


 彼女は自分にも【強化】の魔法をかけるようレオンに迫る。


「…いや、アリア。悪いが俺達が【強化】を使っても大した意味があるとは思えねえ。」


【強化】の魔法による効果の大小は、その人が本来持つ身体能力の高さに左右される。

 魔力がなくとも勇者レベルの力を持つノーラだからこそ【強化】の恩恵を最大限受けることができ、自分やアリアには【強化】を使ってもその効果は微々たるものだと知っていたレオンは、彼女の意見を突っぱねる。


「だから、俺とお前はこっちだ。」


 そして、鞄から真新しい新品のような呪符を取り出した。


「…これは…?」


 どのような魔法が込められているかわからなかったアリアは、不思議そうにその魔方陣を見た。


「【思考加速】っつって、その名の通り極限まで思考スピードを加速させる魔法だ。当然コイツもデメリットがあって、二十分経つと頭が割れるような頭痛が襲ってくる。」


 魔力を使う自分たちには、身体能力の強化よりも思考スピードを加速させた方がいいとレオンは判断していた。


「…わかった…それで。」


 レオンの言葉にアリアは首を縦に振る。


「よし…じゃあやるぞ。」


 そう言ってレオンは二つの魔法陣へ魔力を流した。

 直後、静電気でピリッとするような感覚がノーラとアリアの体を駆け巡る。

 ノーラは自分の体が軽くなったように感じ、アリアは普段より時間の流れが遅くなったような感覚を覚えた。


【強化】と【思考加速】の魔法をかけ終えたところで、タイミングよく火竜のブレスによってできた炎の壁が消える。


 これならば目の前の火竜とまともに戦えるかもしれないと三人に希望が見えたところで、火竜との第二ラウンドが幕を開けた。

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