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33.黒いドラゴン

「…えい。」


 アリアが掛け声と共に腕を動かし、二体の山岳ゴブリンの首を魔鋼糸で縛り上げる。


「グ…ゲゲッ…」


 糸は山岳ゴブリンの首にキツく食い込んでいき、スポンジケーキでも切るかのようにその頭部と胴体を切り離した。


「オオオオォォォォ!」


 山岳ゴブリンがやられるのを見て憤怒したのか、一つ目のサイクロプスが雄叫びを上げる。

 そしてそのまま攻撃後で隙のできたアリアへと突っ込んできた。


 敵がアリア一人だけであったのなら、この判断は正しかったのかもしれない。


 突如、サイクロプスの目の前にノーラが現れる。

 サイクロプスは怒りに身を任せて前進したことで、ノーラの間合いに入ってしまったのだ。


「………」


 一閃。

 ノーラが横に剣を振るっただけで、目の前にいたサイクロプスの胴体が真っ二つになった。


「よし、後は俺に任せて二人は休んでてくれ。」


 そう言ってレオンは呪符を取り出し、戦闘の後始末を始める。


 バルバード王国とノスキア帝国という二つの国の国境沿いにあるアクエカ山脈。

 バルバード王国側にある山の中腹にレオン達三人の姿があった。


 レオンが魔物の死体の処理を終えると、下山するために歩き始める三人。


「しかしなんつーか、やたら魔物が多いな。…行きはこんなんだったか?」


 しばらくして、レオンがそんなことを言い出した。


「…いや…もっと…少なかった。」


 レオンの意見にアリアが同意する。


 バルバード王国からノスキア帝国へ向かう際に魔物と遭遇した回数は片手で数えられるほどだった。

 しかし帰りはその数が異様に増え、もう既に十回以上魔物と遭遇している。


「それに…何かから逃げてるような気がする。」


 ノーラは道中で遭遇した魔物達に対してそんな感想を抱いていた。


「うーん…キュクロプスはこの前倒したし…俺達の運が悪いだけか…?」


 この山で何か起こっているのかと頭を悩ませるレオンだったが、結局なぜここまで魔物と遭遇する機会が増えているのかはわからなかった。




 その後も何度も魔物と戦いながら山を下ること数日、三人はようやく山のふもとにある安全な道まで出てきた。


「―――」


「………!」


 不意にノーラが後ろを振り向く。


「…?どうしたんだ、ノーラ?」


 つられてレオンとアリアも振り向いたのだが、三人の視線の先には今まで歩いてきた道があるだけで、特に変わった様子はない。


「…いや…何でもない。」


 背後に恐ろしい気配を感じたような気がしたのだが、何もいないのであれば自分の思い過ごしだったのだろうとノーラは結論付けた。


「行こう。」


 そう言って彼女は先へ進み、レオンとアリアもそれに続く。


「―――」


「………!」


 しばらく道なりに進んだところで、ノーラが再び後ろを振り返る。

 今度は気配だけではない。

 何かが空を飛んでいるような風切り音が聞こえてきたのだ。


「何だ?何か飛んでくるような音が…」


 それはレオンとアリアにも聞こえていた。

 二人はノーラと同じく音がする方へと顔を向ける。


 最初、アクエカ山脈の上空を飛ぶ豆粒程の大きさの()()を見たレオンは、鳥の魔物か何かだと思った。


「…鳥…にしてはデカすぎないか?」


 鳥にしては大きすぎるシルエットに、何かがおかしいと気づいたレオンが目を凝らす。


「…いや…あれは…ドラゴン!」


 そんな彼よりも先に、アリアは()()の正体がドラゴンであると看破した。


「嘘だろ…!でもあの色…」


 黒で塗りつぶされたようなドラゴンの体は、空に浮かぶ白い雲とのコントラストで激しく目立っていた。


「アクエカの氷雪竜…じゃねえよな。」


 険しい山々が連なるアクエカ山脈の中で最も標高の高い山。

 この山はニクス山と呼ばれ、ニクス山の山頂付近はかなり気温が低く、一年を通して溶けない氷で覆われている。

 なので、ニクス山には寒い環境を好む魔物が多く生息し、その中の一体に氷雪竜という水色の体を持つドラゴンがいた。


 氷雪竜は比較的穏やかな気性をしており、人を襲うことはめったにないのだが、レオン達の視線の先にいるドラゴンは明らかに氷雪竜とは別物であり、氷雪竜のように穏やかである保証がないため、彼らは警戒を強めた。


 黒いドラゴンはかなりの速さで空を飛んでおり、その影がみるみる内に大きくなっていく。

 顔がはっきりとわかるくらいの距離までドラゴンが近づいてきたその時、ドラゴンの目がギョロッと動き、地上にいた三人のことを視界に捉えた。


「ギャウウウウウウウゥゥゥゥ!」


 すると、水平に飛んでいた黒いドラゴンは急に飛行角度を変えて、明らかににレオン達目がけて降下してくる。


「ヤバい!逃げるぞ!」


 少しでもドラゴンから距離を取ろうと走り出す三人。

 しかし、この世の最強種たるドラゴンの飛行スピードに敵うはずもなく、すぐに追いつき追い越されてしまった。


 三人の前方へ、行く手を阻むようにドラゴンが着地する。


「うお…っ…!」


 たったそれだけのことで大地が大きく揺れた。

 三人が臨戦態勢を取る。


 地上へ降り立った黒いドラゴンは、ゆったりとした動作で体を後ろへ向けた。


「…っ…!…何で…!」


 その瞬間、ノーラはあまりの驚きに目を大きく見開いた。


「あの火竜は昔倒したはず…なのに…何で…?」


 目の前にいる黒いドラゴンの右目には大きな切り傷がある。

 ノーラはその傷に見覚えがあった。


 あれは昔討伐した火竜へつけた傷だ。

 あの時は確か、最終的に首を切り落とて息の根を止めたはず。

 そう思ってドラゴンの首元を見ると、一箇所不自然に細くなっている部分があった。

 そしてそこは、記憶の中の彼女が刃を入れた場所と一致していた。


「火竜…ならアンデッドか…?でもアンデッド化して体が黒くなるなんて聞いたことねえぞ…?」


 死んだ魔物を何の処理もせずに放置すると、成仏できなかった魂が死体に入り込み、アンデッドとして復活する。

 魔物がアンデッド化する際、死体の保存状態によっては体の色が変わったり、肉が腐り落ちて骨が剥き出しになったりすることはある。

 けれどもそれは見た目が大きく変わるような変化ではなく、真っ赤な体を持つ火竜が原型を留めぬ程に黒く染まるなどありえない話だった。


 目の前にいる黒い火竜は、三人の姿を見ると口を開く。


「グギャアアアアアアァァァァァァ!」


 威嚇するような咆哮が火竜から上がった。

 ビリビリと空気が震え、周囲に生えていた木々の枝から木の葉が落ちる。


 心臓まで響くようなその咆哮に、三人は体をその場に縛り付けられたような錯覚に陥った。


「…!…来る!」


 嫌な気配を感じたアリアは、自分の後方にある木の幹へ魔鋼糸を飛ばして巻きつける。

 木に巻きつけた魔鋼糸を手繰り寄せながら、その力を利用して大きく後ろへと飛んだ。


 次の瞬間、アリアが直前まで立っていた場所を、重たい風切り音と共に火竜の尻尾が通過する。

 そのまま周囲にあった木々をなぎ倒していった。


 あとの二人はどうなったかというと、反応が遅れたレオンをノーラが脇に抱えて後ろへ跳び、何とか火竜の攻撃範囲から逃れていた。


 火竜と距離が離れたところで、ノーラはそっとレオンを地面に下ろす。


「…すまん、助かった。」


 バクバクと激しく心臓を鳴らしながら、複雑な表情でレオンが言った。


「グルルルルルルルルル…」


 今の一撃で一人も仕留めることができなかったからか、火竜は低く唸りながらノーラ達を睨みつける。


「あんなの…本当に倒せるのか…?」


 火竜というあまりにも次元の違いすぎる敵に、レオンの口からそんな言葉が漏れ出てきた。


「正直、一人じゃ難しい。」


 誰に向けたわけでもない呟きだったのだが、それを聞いていたノーラから厳しい答えが帰ってくる。

 けれど、それに続く彼女の言葉は悲観的なものではなかった。


「…けど、今は一人じゃないから…だからレオン、アリア!サポートは任せる。」


 二人の顔を見ながらノーラが言い放つ。


「…!おう!任せとけ!」


 自らへ気合を入れるようなレオンの声が響き渡る。

 アリアは小さく頷くことでノーラの言葉に応えた。


 三人は未だ唸っている火竜へと向き直る。


 ノーラは両手で剣を構え、アリアは魔鋼糸を前方へと伸ばし、レオンは何枚か呪符を手に取りながら火竜と対峙した。

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