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15.祭りのあとに

「…レオン、話がある…」


 夜、二人っきりになった部屋で、ノーラはレオンの目を真っすぐに見つめながらそう言った。


 ~~~


 討伐隊がパルケアに帰って来てから四日目の朝、街はいつも以上の賑わいを見せていた。

 オークキングの討伐に成功し、街に平和が戻ったことを祝って、この街の領主主導で祭が開かれていたのだ。

 大通りにはたくさんの屋台が出ており、歩いているだけでお腹が空くほどにいい香りが漂ってくる。


「おっちゃん、その串焼き三つ頼む!」


「まいどあり!はいよ!」


 レオンは屋台の店主に金を払い、甘辛いタレを掛けて程よく焦がしながら焼いた肉の串焼きを受け取る。

 そのあまりの香ばしさに今すぐかぶりつきたくなる衝動を抑え、少し離れた場所で待っているノーラとアリアの下へと歩いていった。


「ほい、買ってきたぞ。」


 レオンは二人に串焼きを渡す。


「…ありがと…」


「…フフ…ありがとう。」


 アリアとノーラは礼を言って受け取ると、二人は美味しそうに串焼きを頬張っていた。


「うめえ!うん、やっぱり並んだ甲斐があったな!」


 思わず顔をほころばせるレオン。

 想像以上のおいしさに、三人はあっという間に串焼きを食べきってしまった。


「ごちそーさん…っと、ノーラ、アリア、次は何が食いたい?」


 そんなことを言うレオンに、アリアは小首をかしげて彼の顔を見ていた。


「…アレ…」


 目を輝かせたノーラが指を指す先では、薄く伸ばしたパン生地のようなものにスパイシーなピザの具を餡にして詰め、カリッと揚げた揚げピザが売られていた。


「よっしゃ!待ってろ。ちょっと行ってくる!」


 それを見たレオンは意気揚々と揚げピザを求める人々の列へと向かっていく。


「レオン殿!」


 そんなレオンに後ろから声がかかった。


「ん?」


 知り合いかと思って後ろを振り返ると、腕に包帯を巻いた男がそこに立っていた。

 男の顔に見覚えがなく、誰だったっけとレオンが悩んでいると、男が先に口を開く。


「失礼、私は先日あなたに助けられた騎士のブルーノ・オルモです。その節はありがとうございました。」


 ここまで言われてレオンはようやくこの男のことを思い出した。


「あ、ああ!あの時の!…腕は大丈夫だったか?」


「はい!おかげさまで、あの後教会に行って治癒魔法をかけていただきました。もう少し安静にしていれば元通り動かせる!」


 嬉しそうに答えるブルーノ。

 レオンの呪符では応急処置しかできなかったのだが、大事には至らなかったらしい。


「そうか!そいつはよかった!」


 手遅れにならなくてよかったとレオンは安堵した。


「はい!…ところでレオン殿はこの祭にはおひとりで?」


「いや、ウチのパーティーメンバーと一緒に来た。」


 そう言ってノーラとアリアの方を見るレオン。


「ああ、なるほど。…先日のお礼と言うにはささやかですが、何かごちそうしましょうか?」


 ブルーノがあの時の礼にとレオンに提案してくる。


「お、いいのか?サンキュー!じゃあそこの揚げピザを頼む!」


 せっかくなのでレオンは揚げピザをおごってもらうことにした。


「それでは買ってきますので、お仲間の皆さんと待っていてください。」


 そう伝えると、ブルーノは屋台の列に並ぶ。

 レオンは踵を返してノーラとアリアの待つ場所へと戻った。


 数分後、熱々の揚げピザが大量に入った袋を抱えたブルーノがレオン達の下へとやって来た。


「レオンさん!どうぞ。」


「お…おう…サンキュー…」


 その量の多さに、レオンの声が若干上ずってしまった。

 ブルーノは持っていた揚げピザをレオンに渡すと、ノーラとアリアの方を向く。

 彼はレオンの時と同じように自己紹介すると、二人にも改めて感謝の言葉を送っていた。


「…ええ…」


 ノーラが小さく頷く。


「…私は…何も。」


 アリアは直接ブルーノを助けたわけじゃなかったからか、恥ずかしそうにしていた。


「…っと、すみません、私はそろそろ用事があるので行かなければいけません。お三方、本当にありがとうございました!何かあれば皆さんに協力しますので、その時はぜひ私に言っていただければと思います。それでは!」


 そう言ってブルーノはどこかに去って行った。

 彼の背中が見えなくなったところで、レオンは手に持った大量の揚げピザに視線を落とす。


「どうしようか…コレ…」


 恐らくブルーノはよく食べるタイプの人なのだろう。

 彼の厚意でもらった大量の揚げピザを前に、レオンは頭を悩ませた。


「…食べる…?」


「いや、食べるっつってもこの量は…あ、そうだ!いい事思いついた!」


 そう言うとレオンは自分たちの分だけ揚げピザを袋から取り出し、それを片手にノーラとアリアを連れて歩き出す。


 しばらくして、彼らは街の外へと続く門へとやって来た。


「お、いたいた!おーい、マルコ!」


 レオンは眠そうな顔をして門の前で立っているマルコを見つけ、彼に見えるよう大きく手を振った。


「…ん?おお、レオン!それにノーラちゃんとアリアちゃん!どうした!こんな祭りの日に?」


 祭で賑わっている街の中心ではなく、祭の喧騒なんて感じられないいつも通りの街外れまでやって来たレオン達に、何かあったのかと質問する。


「ああ、お前ら今日はどうせ祭に参加できずに寂しくしてるだろうと思って差し入れを持ってきたんだ。」


 まだ温かい揚げピザの入った袋をマルコに渡すレオン。


「お…おおお!おおおおおお!ありがてぇ…救世主…お前らぁ!救世主から差し入れが来たぞおおおおお!」


「おおマジか!」

「いやっほおおおおおい!」

「ありがとおおお!」


 差し入れを貰ったことをマルコが他の門番に伝えると、門番達から歓声が巻き起こった。


「いやあ、ありがとよ、レオン!お前の言った通り、俺達は今日の祭に参加できなくて残念に思ってたんだ。ま、俺は明日非番だからそこで家族と一緒に祭の屋台を見て回る予定なんだがな。」


 祭は二日間開催されており、どうやら門番達は全員が祭に参加できるよう交代で休みを取っているらしい。


「…なんだ。それなら差し入れなんていらなかったか?」


「ハハハ!そんなことはないさ!お前が買ってきてくれた揚げピザも、明日は屋台が出てないかもしれんしな!」


 レオンの背中をバシバシと叩くマルコ。


「あ、そういやあレオン!聞いたぜ!討伐隊では大活躍だったってなあ!」


 マルコは背中を叩いていた手を止め、その手をレオンの肩へと回した。


「ああ、そのことか。確かにオークキングを見つけはしたが、肝心の討伐に関しては全然だったんだよなあ…ほとんどノーラとアリアに任せっきりだ。」


 オークキングを見つけるという大仕事をしたレオンだったが、討伐に関して変異種はおろか、通常個体のゴブリンを数体仕留めるだけに終わってしまったため、本人的には納得がいってなかった。


「ま、人には人の得意分野ってものがあるんだ。うまく役割分担できればいいじゃないか!それに、お前がオークキングを見つけてなかったら、このお祭り騒ぎもなかったんだ。もっと自信持ってもいいと思うぜ!」


 ガサツに頭を撫でてくるマルコの手を、レオンは「やめろよ」なんて言いながら払いのける。

 彼らのことを知らないものが見れば、仲の良い兄弟がじゃれ合っているかのように思ったかもしれない。


「レオン、この街を守ってくれてありがとよ。」


「ああ。そんじゃあまたな!」


 マルコが優し気な顔でレオンに感謝の言葉を贈ったところで、レオン達はこの場を後にして祭の喧騒へと戻っていった。




「…こんな仮面、誰が買うんだ?」


「…たぶん…貴族。」


「貴族…?ああ、なるほど。身分を隠して平民の祭りに参加するのか。」


 その後レオン達は祭で出ていた不思議な物を売っている露店をひやかし、


「…あまい。」


「…!うまっ!」


「…それ、一口ちょうだい…?」


 甘い香りに誘われるがまま屋台の料理を買い食いし、


「………」


「おお…!」


 珍しい見世物を見て回るなどして、丸一日かけて祭を満喫した。




 宿へと帰ってきた三人は、レオンの部屋に集まっていた。


「いやあ、今日は楽しかったな。」


 ノーラはレオンを見て無言で頷き、アリアは返事をする代わりにうっすらと笑みを浮かべてレオンの方を向いた。


「あ、そうだ。」


 突然鞄の中から何かを取り出したレオン。

 それは祭の露店で売られていたブレスレットだった。


「さっきの露店で同じ柄のブレスレットがちょうど三つだけ売られてたんだ。俺達の仲間の証ってことでどうだ?」


 レオンは自分で言っておいて照れ臭くなったのか、三つあるブレスレットの内二つをノーラとアリアに差し出す。


 アリアはすぐにそれを受け取って自分の腕にはめる。


「…うれしい…ありがとう。」


 彼女は先程よりもさらにいい笑顔をレオンに見せた。


 ノーラはレオンからブレスレットを受け取ったが、ボーッとそれを眺めているだけでなかなか腕に着けようとはしない。


「ノーラ?…ブレスレットは嫌だったか…?」


 不安そうな顔でレオンはノーラの顔色をうかがう。


「…いや…ありがとう…」


 彼女はハッとしたような表情で返事をすると、ブレスレットを腕にはめた。


「そうか、よかった…へへ、俺、今までパーティーを組んでくれる奴なんていなかったから、こういうのにちょっと憧れてたんだよな…あ、もし仲間が増えた時は、アクセサリーじゃなくてもっといいマジックアイテムにでもしようぜ。」


 レオンは嬉しそうにブレスレットを自分の腕にはめる。


「さて、今日はもう遅いし休むか。そんじゃあまた明日。」


「…おやすみ。」


「…ええ…」


 アリアが自分の部屋へと帰っていく。




 レオンがベッドに入ってそろそろ眠ろうとしたところで、不意にノーラから呼び止められた。


「…レオン、話がある…」


 彼女は真っ直ぐにレオンの目を見つめていた。


「…今からか?」


 ノーラは何も言わずに頷く。

 眠たかったので「明日にしよう」なんて言いたいところだったが、いつになく真剣な、それでいてどこか不安げな彼女の表情に、レオンは今から話を聞くことにした。


「…レオン…私は…」


 ノーラは視線を外して少し間を置くと、再びレオンと目を合わせてとんでもないことを言い放った。


「…私は…ノスキアの勇者だった…」

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