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14.パルケアの領主

 オークキングの討伐を終えた討伐隊は、陽が沈みかけていたのもあって一晩だけ野営し、次の日の昼頃にパルケアへと帰ってきた。

 街に入る門の前に立っていたマルコは、討伐隊の中にいたレオン達を見つけて安堵の表情を見せていた。


 門を通って街の中へ入ると、ロイが討伐隊をその場へ待機させた。

 近くにいた住民や商人が、足を止めた討伐隊を見て何事かと集まって来る。


「君たちのおかげでオークキングを討伐することができた!皆、よくやってくれた!」


 ロイはこれ見よがしに野次馬達にも聞こえるような大声で、討伐隊の労をねぎらった。

 オークキングの討伐に成功し、魔物の脅威が消え去ったと知った野次馬達の反応は様々だった。

 胸に手を当ててホッとしたようなしぐさをする者に、笑顔で両手を上げながら喜ぶ者に、討伐隊を称える者…

 そんな野次馬達の反応にロイの口元が若干緩んだ。


「皆疲れているようだから、今日はここで解散だ。ゆっくり休んでくれ。」


 ロイの鶴の一声でこの場は解散となった。


「…なんか疲れたし俺らも帰ろうぜ。」


 街に帰ってきたことで緊張の糸が切れたからなのか、どっと疲れが押し寄せてきたので、レオン達は真っすぐ宿に帰って休むことにした。

 宿に着いた彼らは併設してある食堂で食事を済ませると、すぐにベッドに入って泥のように眠った。




 そして次の日、三人は今回の討伐に参加した報酬を受け取るために、冒険者ギルドまでやって来た。

 ギルドの中は同じように報酬を受け取りに来た冒険者でごった返していた。


「お次の方どうぞー!」


 レオン達が待合室で自分達の番を待っていると、ようやく担当の職員に呼び出された。


「はい、レオンさん、ノーラさん、アリアさんのパーティーですね。」


 職員は三人の顔を確認すると、手元にある書類に目を通す。


「ええと、まずはギルドからの参加報酬がお一人につき五万ギロムで十五万ギロム。魔物を倒したことによる追加報酬が十五万ギロム。そして領主様より特別報酬で二十万ギロムが出ておりますので、合計で五十万ギロムです。」


「…すげえ額だな。」


 想像以上の報酬額に驚くレオン。

 どうやら今回は冒険者ギルドからだけでなく、この街の領主からも報酬がもらえるらしい。


 大量の金が詰まった袋がカウンターの上に置かれた。


「サンキュー。」


 レオンが袋を受け取ると、ずっしりとした重みがあった。


「………」


「…どうも。」


 ノーラが小さくお辞儀しアリアが礼を言う。

 用が済み三人がこの場を離れようとしたところで、職員から呼び止められた。


「あ、レオンさん!領主様よりレオンさんはお屋敷に向かうよう言伝を預かっております。」


「え?俺が?」


 まさか領主から呼び出されるなんて思っていなかったレオンは、キョトンとした顔になる。


「はい。なんでも、今回のオークキング討伐に特に貢献した方々と直接お話したいそうで。その際にはパーティーの方もぜひにとのことです。」


 なぜ自分が呼び出されたのかレオンには一瞬わからなかったが、よくよく考えてみれば、魔方陣を使ってオークキングの居場所を暴いたのだ。

 領主からの特別報酬もかなりの額だったし、そのことが評価されたのだと納得すると共に、今まで日陰者だった自分が認められたことに少しばかりの嬉しさが込み上げてきた。


「ああ、なるほど。そんじゃあノーラ、アリア、領主の館までついて来てくれるか?」


「…わかった…」


「…おっけー。」


 二人から了承を得たレオンは、一旦宿に戻って準備をしてから領主の館へと向かうことにした。




「失礼いたします、フィリップ様。」


 領主の館へとやって来たレオン達は、執事風の男に案内されて領主の待つ部屋へと通された。

 部屋の中央に置かれた立派なソファには、白いスーツを着た男が座っている。

 派手な格好なのにギラギラとした嫌らしさはなく、むしろ品の良さを漂わせている彼はきっとこの街の領主なのだろう。


 領主の後ろには、先日の討伐隊でリーダーを務めていたロイが控えていた。


「君達、よく来てくれた。私がパルケアの領主のフリードリヒ・フォン・パーキンスだ。」


 パルケアの領主であるフリードリヒは、レオン達が部屋に入ってきたことを確認すると笑顔で彼らのことを歓迎した。

 白髪交じりのオールバックに髭を蓄えた彼は、見た目通り威厳のある声をしていた。


「ええと…お初にお目にかかります…フリードリヒ様。私…は冒険者のレオンと申します。そしてこちらが…私の仲間のノーラで、こちらがアリア…でございます。」


 緊張もあったためか、慣れない言葉遣いに詰まりながら自己紹介をするレオン。


「ハッハッハ!今回は一応非公式の場だから、そこまでかしこまらなくても大丈夫だ。楽にしてくれ。」


 そんなレオンに、フリードリヒは笑いながらそう言った。


「あ…ありがとうございます。」


「まあ立ち話もなんだ。そこに掛けてくれ。」


 レオン達は言われるがまま、テーブルを挟んでフリードリヒの対面にあったソファに腰を下ろす。


「さて…まずはこの街を守ってくれたことに礼を言わせてくれ。ありがとう!今この街の平和があるのは君達討伐隊のおかげだ。」


 そう言って頭を下げたフリードリヒを見て、レオンは驚いて目を大きく見開いた。

 感謝の念を表すとはいえ、貴族が目上の者以外に対してこうも簡単に頭を下げるというのは聞いたことがない。


「あ…えと…」


 どう声をかけるのが正解なのかわからなかったレオンはオロオロとしていた。

 一方、ノーラはフリードリヒと会うのが初めてだったからか相変わらず無反応で、アリアも特に動揺した様子は見られなかった。


 すると、狼狽えているレオンの様子を見ていたロイの肩が小さく震えだす。


「…フリードリヒ様、そろそろ頭をお上げください。レオン達が困っています。」


 笑いをこらえながらロイがフリードリヒに声をかけると、彼はようやくその頭を上げた。


「ワハハハハ!そうか!困っているか!君はなかなか面白い反応をしてくれるな。」


 そう言って快活に笑うフリードリヒに、レオンには何がそんな面白かったのか理解できなかった。

 きっと彼は貴族の中でも変わりものなのだろうと結論付け、これ以上深く考えないことにした。


「本当は討伐隊一人一人に礼を言って回りたいのだがな。それだと時間がかかりすぎて現実的ではないため、せめて今回の功労者だけでもということで君達を呼んだのだ。君達の活躍は聞いたぞ。特にレオン!オークキングの居場所を特定したそうじゃないか!ロイからも報告は受けているが、その時の話を詳しく聞かせてくれ。」


「わかりました。ええと…」


 それからレオンは討伐隊での出来事を、身振り手振りを交えながらフリードリヒに説明する。

 それに対し、フリードリヒは興味深そうに相槌を打っていた。


「ううむ、そうか。私は君の話を聞くまで、魔方陣を使うのはよほどの物好きしかいないと思っていたのだが…考えを改めねばならんようだな。」


 フリードリヒはそう言うと、顎に手を当てて斜め上の方に視線を動かす。

 そして何かを思いついたのか、レオンに視線を戻してニヤリと笑った。


「レオン、君は今回魔方陣という君にしか使えない力で討伐隊に貢献した。そしてそこのお嬢さん二人も実力は充分。君達は本当に優秀な冒険者だ。そんな優秀な人材はできれば囲い込みたいと思うのが領主の性。どうだ?私の下で騎士になってみる気はないか?」


 突然の提案に面食らってしまうレオン。

 よく見ると、フリードリヒの後ろにいたロイも若干驚いたような顔をしていた。


「それはまあ…なんと言いますか…」


 身分や出自のあやふやな冒険者を騎士として受け入れる。

 これは破格の待遇だと言ってもいい。

 ましてやレオン達の冒険者のランクは低い方だ。

 こんな提案、普通の領主であればまずありえない。

 何か裏があるのかと考えたレオンだが、ここまでのフリードリヒを見るに、恐らく本当に騎士に誘われているのだろうと思われる。


「その…すみません。私達…のことを評価していただいたのは嬉しいのですが、自分は…騎士ではなく冒険者として生きていきたいのです。」


 少し考えた後、レオンはフリードリヒの誘いを断った。

 最近やっと冒険者の仲間(ノーラは奴隷ではあるが)ができ、幼いころの夢であった『仲間達との冒険』が叶いそうなのだ。

 レオンにとって、今の冒険者生活は捨てがたいものだった。


「ハハハ!そうか。それならば仕方ないな。今回のところは諦めるが、気が変わったら教えてくれ。私は君が騎士になるのをいつでも歓迎しているぞ。」


 口ではそんなことを言っているが、フリードリヒにそこまで残念がる様子はなく、まるで断られるのがわかっていたかのような反応だった。


「さて、今日はとても有意義な時間だった。レオン、ノーラ、アリア!今後も冒険者として活躍してくれるよう祈っているよ。」


「ありがとうございます、フリードリヒ様。」


 少しばかり言葉を交わした後、レオン一行はフリードリヒに見送られながら部屋を出ていった。


 ~~~


 執務室に移動したフリードリヒは、館を去って行くレオン達を窓から眺めていた。


「…見事に振られてしまいましたね、フリードリヒ様。」


 二人しかいない部屋で、ロイがフリードリヒに声をかける。


「そうだな…非常に残念だ。」


 芝居がかった仕草でヤレヤレという顔をするフリードリヒ。


「しかし驚きました。いきなり彼を騎士にしようと言い出すなんて…確かに見どころのある者ですが、なぜそんな提案をしたのですか?」


 先程の提案についてロイがフリードリヒに質問する。


「ああ、あれか。そうだな…私の友人と顔がよく似ていてね。今度会うときに二人並べて見比べてやろうと思ったんだ。」


 少年のような笑みを見せながらそう答えるフリードリヒに、ロイは呆れたような表情を見せた。


「はあ…そうですか…」


「あ!ロイ!お前今、『何を言ってるんだコイツ?』なんて思わなかったか?」


「いいえ、気のせいですよ。」


「いいや、絶対思っただろう!私は知ってるぞ!お前は嘘をつくとき必ず視線を右上に逸らすんだ!」


「…気のせいです、フリードリヒ様。そんなことよりも、そろそろ業務に戻るお時間では?」


 ロイはフリードリヒの机の上に積まれている書類の山を見る。

 そのほとんどはオークキング討伐に関する承認や報告のための書類だ。

 冒険者達と面会するという名目で、フリードリヒは本来やるべき事務仕事を後回しにしていた。


「…オークキングめ!私の街を襲おうとするだけでなく、私の仕事を増やすという精神攻撃まで仕掛けてくるとは…」


 オークキングのせいで増えた書類の山に、そんな心の底からの嘆きがフリードリヒから出てきた。

 彼は顔を上げ、すがるような視線で近くにいたロイを見つめる。


「…ロイ、私の代わりに…」


「遠慮いたします。」


「なあ…」


「遠慮いたします。」


 しばらくしてフリードリヒの様子を見に来た執事の話によると、そこにはうつろな目でペンを動かす幽霊のような領主と、それを無言で見守る筆頭騎士の姿があったとかなかったとか。

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