13.逃げたキング
レオン達は助けた騎士達と共に、討伐隊の拠点へと戻ってきた。
他の場所でも魔物が引いたのか、拠点には討伐隊に参加したほぼ全ての冒険者と騎士がいた。
「ん?なんかあったのか?」
騎士達を治癒魔法が使える者の下まで送ったところで、レオンは何やら拠点が騒がしいことに気づく。
どうやらロイやバルドスと一部の討伐隊のメンバーが集まって話をしているようだ。
「クソッ!オークキングの奴、自分達が劣勢だとわかるや否や、他の魔物を盾にして逃げやがった!あと少しだったってのに…」
木の幹を殴りつけるような音と共に、そんな言葉が聞こえてきた。
この声は、冒険者ギルドで真っ先に討伐隊への参加を表明した男の声だろう。
「ううむ…まさかオークキングが逃げ出すとはな…過ぎたことを考えていても仕方がない。それよりも、これからどうするべきかだ。」
オークキングに逃げられた。
これはかなりマズい。
オークキングが生きていれば、再び大きな群れを作って街を襲いに来る可能性がある。
今回の襲撃は退けたとはいえ、全く安心できない状況だった。
「できれば魔物どもを追いたいところだが…アレク!オークキングはどこに逃げたかわかるか?」
男の名はアレクというらしい。
バルドスはアレクにオークキングが逃げた方向を問うた。
「奴らは森がある方へ逃げていった。森の中を探すとなれば、この討伐隊では流石に厳しいだろうな…」
今回の討伐隊は、平原で魔物と戦うことを想定して組まれたものだ。
森の中で特定の魔物を探すとなれば時間がかかるだろうし、装備や食糧などが不足することは目に見えていた。
「それならば、一旦引き返してから新たに森の中で討伐する部隊を編成するしかないのか。ううむ…しかし…」
額に手を当てて唸るロイ。
今回の討伐だけではオークキングの脅威が消えないことに頭を悩ませていた。
一連の話を聞いていたレオン。
ふと、アレクの近くに置いてあったある物が彼の目に留まる。
それはオークキングのものと思しき魔物の牙だ。
アレが本当にオークキングのものであれば、なんとかなるかもしれない。
そう思って彼は鞄から呪符を取り出し、そこに描かれている魔方陣を一枚一枚確認する。
ある魔方陣が描かれた呪符を見つけたところでその手を止めた。
「あった!これがあれば…」
そう言うとレオンは一枚だけ呪符を抜き取って、他は鞄へと戻す。
そして顔を上げると、意を決してロイ達が集まっている場所へと向かう。
「…仕方ない。不本意ではあるが、これから皆に撤退の指示を…」
「すまん。ちょっといいか?」
新たな討伐隊を編成するために街へ引き返す方針に決まりかけていたところで、突然現れた冒険者に注目が集まる。
「お前は確か…レオンだったか?」
バルドスはその冒険者の顔を見て、記憶の片隅にあったレオンという名前をなんとか引っ張り出す。
ギルド長という立場上ランクの低い冒険者と関わる機会の少ない彼は、パルケアで噂になっているとはいえ、低ランク冒険者であるレオンのことはあまり知らなかった。
「へえ、お前があの…それで何かあったのか?」
アレクは好奇心に満ちた瞳でレオンを見る。
「話を盗み聞きするような形になって悪いんだが…もしかしたら、オークキングの正確な場所がわかるかもしれねえ。」
「なっ!」
この場に集まっていた者達からどよめきが起こる。
「…続けてくれ。」
ロイは真剣な顔でレオンに話を続けるよう促した。
「ええと…その前に、そこにある牙はオークキングのもので間違いないか?」
レオンはアレクの近くにあった牙を指さす。
「ああ、間違いねえ。こいつは俺がオークキングから斬り落としたものだ!…つってもこの大きさだとなんの役にも立たねえけどな。」
オークキングの牙は、根元からではなく牙の真ん中らへんから斬り落とされていたため、小さすぎて素材として役には立ちそうにない。
そんなものを一体どうするのかとアレクは暗に問いかける。
「俺の呪符の中に、探し物をするための魔方陣が描かれているものある。そいつは対象の一部を魔方陣に解析させることで、本体を探し出すことができるってもんだ。つまり、その牙を魔方陣で解析すれば、オークキングを探し出すことができるんだ。」
レオンはそう言うと、一枚の呪符をこの場にいる者達に見えるように掲げる。
「マジかよ!そいつがあればこのまま討伐に行けるじゃねえか!」
アレクは仕留めそこねたオークキングと再び戦えると知って嬉しそうな声を出す。
「…本当にうまくいくのか?」
バルドスはレオンの呪符を訝しげに眺めていた。
レオンの魔法陣にすがりたい気持ちもあったが、この選択にはパルケアの存亡がかかっているため、ランクが低く実績の少ない冒険者の言うことをなんの確証もなくアテにするわけにはいかなかった。
「オークキングの居場所を探すだけなら。」
レオンがそう言うと、ここまで彼の話を静かに聞いていたロイがある決断を下す。
「バルドスの不安もわかるが、我々もなりふり構っているわけにはいかない。討伐隊の中から何人か選抜して森の中へ入る。バルドス、君は森に入らない者達を連れて街へ戻り、オークキングの討伐が失敗した時に備えて準備をしてくれ。レオン、君は私と共に来てくれ。」
どうやら少数精鋭で森の中を探索するようだ。
魔法陣という彼らにとって未知の力であり、不確定な要素を含むリスクを考えたら、かなり思い切った決断と言えるかもしれない。
それからの討伐隊の動きは速かった。
速やかに森へと向かうメンバーを選別すると、それ以外の者達はバルドスをリーダーとしてパルケアへと引き返していった。
「さあ、レオン。やってくれ。」
森の手前までやって来たところで、ロイがレオンに魔法を使うよう促す。
十数人になった討伐隊からの注目を集める中、レオンは呪符を手に取って魔力を流し込む。
そして地面に呪符を置くと、描かれている魔方陣の上にオークキングの牙を置いた。
オークキングの牙が宙に浮き、青い光に包まれたかと思うと、レオンの頭の中にオークキングの情報が流れ込んでくる。
「…よし、成功だ。」
魔法の発動には成功した。
オークキングが今どこにいるのかが手に取るようにわかる。
「よくやった。それじゃあレオン、君はオークキングのいる方私達を先導してくれ。」
ロイに指示されるまま、レオンは森の中へと入っていく。
レオンのすぐ後ろには、無理を言ってオークキングの討伐に参加したノーラとアリアが彼を守るようにして周りを警戒している。
そしてその後ろから、ロイを先頭にして討伐隊のメンバーがついて来ていた。
しばらく森の中を進んだところで不意にレオンが立ち止まる。
「どうした?何か見つけたのか?」
後ろからやって来たロイが何事かとレオンに問いかける。
「オークキングが近い。恐らくあっちの方に巣があるのかもしれねえ。」
レオンはそう言ってオークキングの反応がある方角を指さす。
「ふむ、なるほど。」
ロイはレオンの言葉を受けて少し考えた後、討伐隊に集合をかける。
「どうやらこの先にオークキングがいるようだ。ここで準備を整えた後、奇襲を仕掛けるぞ。」
ロイが今回の作戦を伝えると、討伐隊のメンバーは各々オークキング討伐の準備を始める。
レオンも討伐の準備を進めていると、ロイから直接声がかかった。
「レオン、君はここで待機していてくれ。ノーラとアリア、君達はレオンの護衛だ。」
「え?」
急に告げられた待機命令に、オークと戦うつもりでいたレオンが困惑する。
「もうオークキングを取り逃すつもりはないが、万が一ということがある。その時はまた君の力がいるから、できるだけ安全な場所にいてほしいんだ。」
どうやら自分達が信用されていないわけではなく、失敗した時のリスクを考えてのことらしい。
「…わかった。」
ロイの説明にレオンは納得したようで、首を縦に振った。
それから少し経って、ロイは皆の準備が整ったことを確認する。
「それではオークキングを討ちに行くぞ!」
ロイが号令を出すと、討伐隊はオークキングのいる方角へと歩いていった。
この場に残ったレオン達は、辺りを警戒しながら討伐隊の帰りを待つ。
すると、数十分も経たないうちにオークキングのいる方角から怒号と魔物の鳴き声が聞こえてきた。
恐らく討伐隊がオークの巣に突入したのだろう。
「始まったか。」
不思議なことに、普段よりも時間が経つのが遅く感じた。
それに自分が戦っていないからなのか、この討伐隊には精鋭が集まっているとわかっていても、根拠のない不安が込み上げてくる。
そんなことをレオンが考えていたら、ついさっきまで上がっていた怒号が急にピタリと止んだ。
静寂がこの森を支配する。
「…何があったんだ?」
レオンが呟く。
魔方陣からの情報だけでは、オークキングの生死まではわからない。
魔方陣から送られてくるオークキングの位置に変化がないということは、もしかして討伐が成功したのだろうか。
それとも、討伐隊が敗北してその死体を見下ろしているのだろうか。
討伐隊の状況がつかめないせいで、彼の不安はだんだんと膨らんでいった。
レオンが不安にかられていると、森の奥から小さな足音が聞こえてくる。
「…!」
「…来た。」
アリアとノーラが同時に同じ方を見た。
彼女達の視線の先から何かが現れる。
「おう、お前ら!やったぞ!ついにオークキングをやった!」
そこにいたのは、大剣を肩にかつぎ上機嫌でオークキングを仕留めたことを伝えに来たレオンだった。




