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12.討伐隊

 パルケアの南側にある門の前には、冒険者と騎士で構成された七十人の討伐隊が集まっていた。


「おい、レオン!…お前、ホントに大丈夫なのか?」


 心配そうなにレオンへ声をかけてきたのはマルコだ。

 彼は騎士や冒険者ではなく街の警備のための衛兵なので、討伐隊には参加しないのだが、南の門の門番としてこの場に居合わせていた。


「ああ、任せとけって!」


 レオンは堂々とした顔つきでそう言った。


 自分にはノーラとアリアという頼もしい仲間がついている。

 それにゴブリンやオークが通常の個体であれば、自分一人でもある程度対処は可能だ。

 不安がないわけではないが、レオンは今回の討伐に関してようやく自分も活躍できるかもしれないと意気込んでいた。


「お前ら!そろそろここを出るから一旦集まれ!」


 街の門の側にいたバルドスが冒険者達へ大声で呼びかける。


「お、ようやくか。それじゃあ行ってくるわ。」


 レオンはそう言うと、マルコへ背を向けて冒険者達が集まる場所へと歩いて行く。


「あ、おい!…無理はすんなよ。」


 その声が彼に届いたかどうかはわからないが、マルコは去っていくレオンの背中を見送った。




「諸君、よくぞこの討伐隊に参加してくれた!私がこの討伐隊を預かることになったパルケアの筆頭騎士のロイ・ウェズリーだ!」


 一際目立つ装備を身に着けたロイという男が、集まった冒険者や騎士の前に出て名乗り出た。

 彼はこの街の領主に仕える筆頭騎士だ。


「私は騎士になってからこの街で十数年生きてきた。愛する妻に、二人の子供に、苦楽を共にした仲間達に…ここには私が守るべき人々が数多く暮らしている。君達にも、この街で生きる家族や友人がいることだろう。なればこそ、この街を魔物どもに荒らされるわけにはいかん!皆の者!このパルケアを守るべく、この先の平原にて魔物どもを迎え撃つ!行くぞ!」


 七十人の戦士達が一斉に鬨の声を上げる。

 ロイの演説により士気を高めた討伐隊は、迫りくる魔物の群れを討伐すべくパルケアから出発した。


 討伐隊が平原にたどり着くと、先の方から三人の斥候風の人間がやってきた。

 三人は討伐隊に合流すると、ロイに近づいて何かを報告する。

 するとロイは討伐隊の足を止めさせた。


「先遣隊が魔物どもの群れを確認した!奴らはすぐ近くまで迫っている!我々はこの場所を拠点にして、魔物どもと戦うぞ!」


 大きな声でロイが討伐隊に指示を飛ばす。

 討伐隊の面々はその場に腰を下ろして体を休めたり、今一度装備の点検を行うなど、各々魔物と戦うために最後の準備を始めた。




「来たか!」


 一時間ほど経って、討伐隊が歩いてきたパルケアとは反対の方角からやってくる魔物の影が現れた。

 ゴブリンとオークの群れだ。

 前情報に会った通り、ゴブリンの方が若干数が多く見える。


「とうとう魔物どもがやって来た!皆の者、行くぞ!」


 ロイが出陣の合図を出すと、騎士の中でも実力のある者や高ランクの冒険者達から先に前線へ出る。

 大剣を持った男が一体のゴブリンを叩き斬ったのを皮切りに、激しい戦闘が始まった。


 ここ最近の活躍で冒険者のランクがDに上がっていたレオン達だが、討伐隊の中には彼らよりもランクの高い冒険者が多かったために、後ろの方からの出陣となった。


「俺達の担当は群れの左側にいる魔物だったな。ノーラ、アリア、準備はいいか?」


「………」


 レオンの言葉にノーラは無言で頷いた。


「…おーけー。」


 アリアからの返事も確認したところで、レオンは自分が戦う魔物の群れを見据える。


「よし、それじゃあ俺達も行くぞ!」


 三人は自分たちの持ち場へ向かって走る。

 すると、群れを飛び出してきた三体のゴブリンに出くわした。


「………」


 それを確認したノーラが一瞬でゴブリンへ接近すると、手にした剣を一振りして三体の首を斬り落とした。


「…むぅ。」


 ゴブリンを見てすぐさま魔鋼糸を構えていたアリアだったが、先にノーラがゴブリンを倒して自分の出番がなかったことに、不満そうな声を漏らす。


 レオンはというと、ノーラとアリアのスピードについて行くのに必死だった。


「ハァ…ハァ…」


 別にレオンの足が遅いわけではない。

 むしろ魔法使いであることを加味すれば速い方であると言ってもいい。

 だが、ノーラとアリアの足が速すぎた。

【身体強化】という魔法を使って身体能力を向上させてはいるが、それにしても速い。

 それに、彼女達はものすごいスピードで平原を駆けながらも息一つ乱していなかった。

 まさに規格外の身体能力とスタミナだ。


 三人は平原を休むことなく駆け抜け、あっという間に自分たちの持ち場へと辿り着いた。

 レオンはかなり息を切らしていたが、この場合はむしろノーラとアリアのスピードについていったことを褒めるべきかもしれない。


「ハァ…ハァ…」


「ブモオオオオオ!」


 レオンが息を整えていると、不快な鳴き声を上げながら魔物がやってきた。

 ゴブリンが三体にオークが二体だ。 


「…いた。」


 アリアは今度こそ自分が魔物を倒そうと、魔鋼糸に魔力を流す。

 彼女が腕を交差させるように動かすと、細く硬い魔鋼糸が三体のゴブリンの体を通り抜け、その体を真っ二つに切り裂いた。


 ゴブリンがやられている隙にオークがアリアに襲いかかる。

 しかし、そのうちの一体はアリアが軽く腕を動かすだけで、首と胴体が切り離された。

 もう一体のオークがアリアに殴りかかるも、彼女はその一撃をひらりと躱して魔鋼糸でオークをの首を縛り上げる。


「…はい。」


 オークはそのまま呼吸ができなくなり、完全に動かなくなったところで魔鋼糸が緩められると、ドサリと地面に倒れ込んだ。


「…!」


 今倒した魔物の奥から、息つく間もなくさらに数体の魔物が現れる。


「俺がやる!」


 三人から魔物までの距離がまだ遠かったため、呼吸を整えたレオンは自ら魔法で先制攻撃を仕掛けることにした。

 素早く鞄から呪符を取り出すと、魔法陣へ魔力を流し込む。

 レオンの前に三本の氷の矢が生まれ、魔物がいる方へと飛んでいく。

 矢はゴブリン三体の脳天を見事に貫いた。

 レオンが撃ち漏らした魔物が走って前に出てくるが、これはノーラが剣を横薙ぎに振るって斬り捨てた。




「…さすがに数が多いな。」


 そんな言葉がレオンの口を衝いた。

 変異種も含め、かなりの数のオークとゴブリンを倒したのだが、次から次へと魔物達をが押し寄せてくる。

 一向に魔物の波が途切れる気配がない。


「うわあああ!」


 そんな中、遠くの方から悲鳴のような声が上がった気がした。


「…!聞こえたか?」


 その声を聞いたレオンは、アリアとノーラにも悲鳴が聞こえたかを確認する。


「…ええ…」


「…悲鳴。」


 どうやらノーラとアリアにもはっきりと聞こえたらしい。


「なら俺の気のせいじゃないな。どうすっかな…アリア!ここはお前に任せても大丈夫か?」


 ピンチに陥っている者がいるかもしれないので、できれば救援に向かいたいレオンは少し悩んだ後、アリアに問いかける。


「…任せて…らくしょー。」


 アリアは自信ありげな顔でレオンの方を見てそう答えた。


「よし!ならノーラは俺と一緒に今声がした方へ向かうぞ!アリア、もし危なくなったら俺達の方へ逃げてきてくれ!」


 レオンはそう言うと、ノーラを連れて悲鳴が聞こえてきた方角へと駆け出した。


 近くに寄って来るゴブリンやオークを倒しながら二人がしばらく進むと、魔物と戦う三人の騎士の姿を発見した。

 騎士の一人をよく見ると腕がおかしな方向に曲がり、血を流している。

 オークナイトが二体に、オークメイジ、ゴブリンアーチャーという変異種四体を前に、騎士達は窮地に陥っていた。


 オークナイトが前に出て暴れている間に、ゴブリンアーチャーが弓を引き絞る。

 騎士達はオークナイトの猛攻を防ぐのに必死でそれに気づいていない様子。


「危ねえっ!」


 レオンは咄嗟に風の魔法陣が込められた呪符を手に取り魔力を流す。

 突如発生した突風がこの場にいた四体の魔物を吹き飛ばした。


「何だ!?」


 目の前にいたオークキングが突然吹き飛ばされたことに困惑する騎士達。


「ノーラ、今吹っ飛ばしたオークどもを頼む。」


 レオンはそう言うと、騎士たちの下へと近寄る。


「これしかねえが、何もしないよりマシだろ。」


 彼が取り出した一枚の呪符に魔力を込めると、怪我を負っていた騎士の体が優しい光に包まれる。


「…これは…?」


 折れた骨は元に戻らなかったが、傷口が塞がって流れていた血が止まった。


「一旦血だけ止めといたけど、骨は治せないから後で他の奴に治癒魔法をかけてもらってくれ。」


「あ…ああ、ありがとう。助かった!」


 傷口が塞がって痛みが和らいだことに騎士が礼を言う。


「ブオオオオオ!」


 その時、レオンが魔法で吹き飛ばした魔物が立ち上がり、大きな雄叫びを上げた。


「ッ!そうだ!アイツは…!」


 その声に騎士達が慌てて魔物の方を見る。

 するとそこには、剣を振りきってゴブリンアーチャーの首を斬り落としたノーラの姿があった。


 そのノーラにオークナイト二体が手に持った剣を振り上げて襲い掛かるも、彼女は自分に迫りくる刃を軽く受け流し、横なぎの一閃でオークナイト二体の腹を切り裂いた。

 瞬く間に三体の魔物を倒し、残る魔物はオークメイジ一体だけだ。


 オークメイジは他の魔物がやられている間に魔法の準備をしていたようで、ブツブツと何かを呟いたと思うと、オークメイジの前に炎でできた球体が出現した。


「…!」


 ノーラの肩が強張ったように見える。

 その瞬間、レオンはガーゴイルと戦った時の事を思い出した。


 あの時は確か、ガーゴイルが炎を吐いてからノーラの動きが急激に悪くなっていた気がする。

 前回は運よく無傷で切り抜けられたのだが、、今回は攻撃を受けてしまうかもしれない。

 そんな予感がしたレオンは、慌てて鞄から呪符を取り出して魔法を発動させようとする。

 だが、オークメイジはすでに魔法を発動させているので間に合わない。


 炎の球体はノーラに向かって発射された。


「…ッ!」


 彼女は大きく横に跳んで炎の球体を避ける。

 ノーラはものすごい勢いでオークメイジの前に突進すると、その勢いを利用して喉笛に鋭い突きを放った。

 首を貫かれたオークメイジは、糸が切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちる。


「ハァ…ハァ…」


 幸いなことに、レオンが危惧したような事態にはならなかった。

 少し呼吸が乱れているが、無傷でこの場を切り抜けたノーラに、レオンはホッと胸をなでおろす。


「…オオオオォォォォォォ…」


 すると、かなり遠くの方からオークの唸り声のような音が聞こえてきた。

 その声を聞いたオークやゴブリンはその場に立ち止まったかと思うと、踵を返して走り去っていく。


「…?何だ…?」


 自分達に襲い掛かろうとしていた魔物達が突然逃げ出してしまい、何が起こったのかわからず呆然とするレオン達。


「…ここも?」


 彼らの下にアリアがやって来たのだが、彼女のいたところも似たような状況らしい。


「ああ…よくわからねえが、一旦戻った方がいいのか?」


「…すまない、君達。拠点に戻るのなら私達もついて行っていいか?」


 戦うべき敵が消えてしまったので、レオン達は騎士達と共に拠点へと戻ることにした。

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