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10.どうしてこうなった…?

 ダンジョンのとある部屋、そこでは奇妙な三人組の冒険者パーティーが魔物達と戦っていた。


「…じゃあ…死んで?」


 黒い髪の女がそう言いながら両手を動かすと、部屋の中にいた三体のゴブリンの体は輪切りのようにバラバラになって崩れ落ちる。

 彼女の指からは細いピアノ線のような糸が伸びていた。

 この糸は魔鋼糸と呼ばれるもので、魔力を流すことによって硬さなどを調節できる。

 これを自由自在に扱えるよう特殊な加工を施し、黒髪の女は魔鋼糸を武器として使っていた。


「…おわり。」


 彼女はやりきった顔をして振り返る。

 その視線の先にいた男は、目を大きく開きながらまばたきをしていた。

 彼の横には、金色の長い髪が特徴的な女の剣士が立っていた。


「…どう…?」


 黒髪の女は男の下へ近寄って彼へ声をかける。


「どうしてこうなった…」


 まばたきをしていた男レオンは、黒髪の女アリアを見て疲れたような顔でそう呟いた。




 レオン達がダンジョンへと潜る数時間前。

 朝、レオンとノーラが支度を終えて宿を出ようとすると、入口の辺りでアリアと出会った。


「…おはよう。」


 彼女はレオン達の方を見て声をかける。


「ん?おう、おはよう。」


「………」


 レオンはアリアに挨拶を返すと、ノーラを連れてダンジョンへと向かう。

 相変わらずノーラは無言だ。


 するとアリアの行き先も同じ方角にあったのか、彼女は二人のすぐ後ろをついてくるように歩いてきた。

 なんとなく機嫌がよさそうにも見える。


「もしかしてアリアもダンジョンに用があるのか?」


 すぐ側にいるのに会話がないのも気まずい気がしたので、レオンは視線だけ後ろを向けてアリアに話しかける。


「…そう。」


 どうやら彼女もダンジョンへ向かうところだったらしい。


「ふーん、奇遇だな。俺達もこれからダンジョンに潜るとこなんだ。」


 そんな会話をしながらしばらく歩いていると、街の外に出る門の前までやって来た。


「よお、レオン!と、ノーラちゃん。今日もダンジョンか?」


 よく見知った顔の門番がレオン達を見つけ、声をかけてきた。


「ああ、マルコか。そうだな、これからしばらくダンジョンに潜るつもりだ。」


「………」


 マルコという名の門番にレオンはそう返し、ノーラは無言で小さく会釈をする。

 ダンジョンへ行く時に何度もこの門を使っているおかげで、ノーラもマルコの事を認識するようになっていた。


「そうか。」


 マルコはそう言うと、彼らの後ろにいる黒髪の女に視線を移す。


「いやー、しかしカワイイお嬢さんを二人も連れて、お前も隅に置けねえな!」


 レオンの肩に手を回してがっしりと掴むと、マルコはニヤけながら小声で耳打ちするように囁いた。


「いや…そんなんじゃねえから…第一、アリアは偶然目的地が同じだっただけだし。」


 呆れたような声でそう返すレオン。


「なんだ…そうなのか?」


 それを聞いたマルコはつまらなそうな顔になっていた。


「ああ、残念だったな…っと、そういえばアリア。お前、ダンジョンに行くってんなら仲間がいるのか?」


 アリアの話題になりそんな疑問がふと浮かんできたので、レオンは彼女に聞いてみることにした。


「…?…いるけど…」


 この人は何を言っているのだろうと不思議そうな顔をしたアリアは、首を傾げながらそう答えた。


 どうやら彼女にはちゃんと仲間いるらしい。

 パーティーを組むのであれば、冒険者ギルドなど街の中で一旦集まってからダンジョンへ移動するのが普通なのだが、アリアのパーティーは現地で集合するタイプなのだろうか。

 レオンは不思議に思ったのだが、他のパーティーの事情にあまり踏み込むのもよくないので、それ以上の事は聞かなかった。


「それじゃあな。」


「おう、がんばれよ!」


 いくつかマルコと言葉を交わした後に、レオン達は門を出て街の外にあるダンジョンの入口へとやって来た。


「さて、それじゃあ俺達はダンジョンを探索しに行くからまたな。」


 レオンがそう言うと、アリアはまた不思議そうな顔をして首を傾げた。


「…?何だ?何かおかしなことがあるのか?」


 そんな彼女の反応が気になったレオン。

 今のやり取りにそんな変なところがあったのだろうか?


「…あの…昨日よろしくって…」


 そう言ってアリアはレオンに訴えかけるような視線を送る。


「よろしく…?」


 彼女とは初対面だったので、先日の夕食でそんな挨拶をしていた気がする。

 だが、今の状況とそれが何の関係があるのかとレオンには謎だった。


「…そう、よろしくって言った…だから…私とあなた…たち…パーティー。」


「…は?」


「…え?」


「………」


 そこだけ時間が止まったかのように全員が黙った。


 よろしくって言ったからパーティー?

 昨日のアレはパーティーに入れてくれって話だったのか?

 言葉足らずなアリアの発言からレオンがその答えにたどり着くまでに、数秒の時間を要した。


「え…いや、アレそういうことだったのかよ!」


 驚きと困惑で思わず声が大きくなってしまう。


「ハァ…いきなりそんなこと言われてもなあ…」


 どうしたものかとレオンは天を仰ぐ。


「…ダメ…?」


 アリアは悲しそうな顔でそう訴えた。

 そんな彼女を見て、ここまで一緒に来たのにいきなり追い返すのはかわいそうな気がしてきたレオンは、今回だけでもアリアをパーティーに入れようかと思い始める。


「どうする?ノーラ。」


 とりあえずノーラへと伺いを立ててみることにしたらしい。


「………」


 レオンに話を振られたノーラは目を瞑ると、黙ったまま自分の意志を示すことはなかった。

 イエスでもノーでもないということは、レオンの判断に任せるということなのだろう。


「…しゃあねえな。じゃあ今回は一緒に行くか。」


 こうしてレオン達はアリアと共にダンジョンへ潜ることとなった。




 現在、ダンジョンの地下十階層のボス部屋。


「…えいっ!」


 アリアが斜めに両腕を振り上げると、彼女の指の先から出た魔鋼糸が数メートル先にいるオークを縛り上げる。

 魔鋼糸にさらに魔力が流されると、オークを縛っていた糸がさらにきつく食い込んでいき、その体をバラバラに切り裂いた。


 その周りにいたゴブリンナイト達が怒りをあらわにしてアリアへ襲い掛かろうと一歩踏み込むが、その瞬間前に出した方の足の先が切れて落ちる。

 アリアが事前に張っていた罠が作動したのだ。


 彼女はこのボス部屋に入った瞬間、魔物達の足元に細くて硬い魔鋼糸を張り巡らせていた。

 魔鋼糸によって足を斬り落とされたゴブリンナイト達は、うまくバランスが取れずに勢いよく前へつんのめる。


「…はい。」


 アリアが転んだゴブリンナイト達に魔鋼糸を押し当てると、その首を胴体から切り離す。


 これでボス部屋に生きている魔物はいなくなった。

 アリアは一仕事終えたような笑顔でレオン達の方へと振り返る。


「おう…お疲れさん…」


 レオンは疲れたような声でアリアを労う。


 ここ最近はノーラの体力温存も兼ねて、浅い階層での戦闘は彼が担当していた。

 だが今回はアリアが張り切ってここまで全ての魔物を一人で倒しており、レオンが魔物と戦う機会は皆無だった。


 ここから先出てくる魔物は、レオン一人では倒せないがノーラなら一人で難なく倒せてしまう。

 そしてここまでの戦闘を見る限り、ノーラほどではないがアリアもかなりの力を持っており、この先もしばらく一人で進めてしまうかもしれない。

 また自分の出る幕がなさそうだという事実にレオンは物寂しさを覚えた。


 その後地下十三階層を踏破したところで、三人はダンジョン探索を終えることにした。

 戦力的にはまだまだ先へ進めるのだが、いつもと違うメンバーなので、余裕があるところで引き返そうとレオンが言い出したからだ。

 ノーラは戦闘面以外では基本的にレオンに従うし、アリアも賛同したのでこの意見はすんなりと通った。




 彼らは特にトラブルに遭うこともなくダンジョンを出て冒険者ギルドへ行くと、手に入れた魔石や素材を換金する。


「やっぱりこれはお前が受け取るべきだと思うんだが…」


 レオンは金の入った袋をアリアへ差し出し、そんなことを言いだした。


「…いや。」


 それに対し彼女ははっきりと拒絶の意を示す。


「うーん…でもなあ…今回俺達はなんにもしてねえし…」


 今回のダンジョン探索で魔物とまともに戦ったのはアリアだけで、レオンとノーラは戦闘に参加する機会すらなかった。

 一応荷物持ちなどの仕事はしていたのだが、今回の成果はほぼアリアのおかげと言ってもいい。

 パーティーにあまり貢献できていなかったレオンは、自分達の取り分を減らすよう提案したのだが、アリアはそれを頑なに拒否していた。


「…パーティーだから…きっちり三等分。」


 どうやら彼女は金を受け取る気がないらしい。

 このやり取りがかれこれ数分間続いている。


「そうか…アリアは本当にそれでいいのか?」


 その問いかけにコクリと頷くアリア。


「…ならこれはありがたく受け取っておくか。ありがとよ。」


 埒が明かないので、レオンはアリアへ金を渡すのを諦めてありがたく受け取ることにした。


「さて…やることは終わったし、そろそろ帰るか。」


 そう言って体を軽く伸ばすレオン。


「…ええ…今回は楽しかった。」


「ああ。なんだかんだあったけど、俺らも楽しかったぜ。じゃあな。」


「………」


 別れの挨拶を済ませたレオンは、ノーラを連れてギルドを出ると、宿へ向かって歩いていく。

 アリアはその後ろをついてきていた。


 気まずい。

 完全にアリアと別れる空気でギルドを出たのに、彼女と同じ方向へ歩いているのがレオンには気まずかった。

 彼女はレオン達と同じ宿に泊まっていたのだ。

 アリアとノーラがそのことを気にする様子がないのが唯一の救いだろうか。


 その後彼らはしばらく無言のまま歩き続け、陽が沈むころに宿へと帰ってきた。


「…それじゃあ…また。」


 いい笑顔でそう言うと、レオン達に背を向けるアリア。


「おう、またな…ん?また?ちょっと待て!またってもしかして…」


 レオンが聞くよりも先に彼女は自分の部屋へ戻ってしまい、『また』という言葉の真意を聞くことはできなかった。


「なあ、これってそういうことなのか…?」


 その場に残されたレオンはノーラへと聞いてみた。


「………」


 彼女ははっきりとその問いには答えずに、無言でレオンの事を見つめていた。


「ハァ…これは仲間が増えて喜ぶべきなのか…?」


 ため息をつくレオン。

 普段なかなか喋らないノーラと一緒にいるおかげか、ここ最近察するスキルがとてつもなく上がっていた彼は、口数の少ないアリアから出てきた『また』という言葉の意味をそう推測した。


 こうしてレオンのパーティーに新しい仲間が加わった。

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