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第六章 18

 気が付けば、雪はとっくのとうに止んでいた。夜空に輝く星へと近づいていく。

「月が綺麗ね・・・アナタ」

 上昇するときに視界に入った月をみて、思わず少女もそう男へと言ってしまう。返事がないのは分かっていた。でも、それでも何故か言いたくて仕方がなかった。

 天地の星々の間に挟まれ、闇夜を飛んでいく。変化の光を纏う少女は、闇夜を切り裂く流れ星のようであった。輝く片翼をはためかす度に、残光の羽根が地上へと舞い降りていく。受肉が終わりつつあるので、物質的な羽根が抜け落ちていく。徐々に本来の透き通るような、純白の翼へと姿を変えていく。

 急いで少女は男を部屋へと連れて帰る。上手く人払いもされていたようで、いつも洗濯物を干していたベランダへと降り立つ。鍵は開けておいたので、そこから部屋へと入っていく。

「よかった・・・まだ余裕があるわね」

 靴を脱がせ、身なりを整えられる限り整えて、男を布団へと寝かせる。寒がりの男の為に、きちんと布団をかぶせていく。最後に前髪を整えると、その頭を撫でていく。頬を撫でていく。受肉が終わり、触れられなくなるその時まで丹念に撫でていく。男の感触を忘れないように、最後の触れあいだった。

 やがて、完全に受肉が終わる。もう男には触ることはできなかった。だというのに・・・

「服がそのまま・・・? 指輪も・・・どういうこと?」

 いつもの死神のような黒い服ではなく、男が買ってくれた服のままだった。

「・・・それだけ感情が込められていたんだよ」

 声をしたほうへと振り向けば、あの時二人を引き裂こうとした男がいた。

 人払いを頼んでいたので、少女は驚くことなく男をみる。むしろ、その声に反応して少女の服から魂が出てきて、二人の間に入り込む。それは、少女を守ろうとしているかのようだった。

「まったく、末恐ろしい男だよ。君が愛した彼は生まれ変わったら、もっと凄い人物になるだろうね」

 威圧感を出しながら漂う魂を一瞥する。殺されてもなお、少女を想い続ける愚直さには、流石にこの男であっても認めざるを得なかった。

「・・・そんなことよりも、次は幸せな命を過ごして欲しいわ」

 そんな魂を少女が抱きしめる。それだけで男が感じていた圧力は霧散した。

「・・・それは神のみぞ知ることだ。さあ、もどろうか」

「一人で・・・ううん、この子と一緒に戻るからだいじょうぶよ。むしろ先に帰ってもらえるかしら?」

「・・・君には振られ続けているな。寵愛を受けた・・・彼が羨ましいよ」

 男の呟きは少女には聞こえなかった。そのまま部屋をすり抜けて一足先に帰っていく。まだ死後の処理があるから、それをしないといけなかった。

「・・・・」

 部屋を見渡して色々なことを思い出していく。その全てが色づいていた。色褪せた世界に、再び光の景色を取り戻してくれた。

 暖かい世界を作ってくれた。壊れた世界を建てかえてくれた。他にも、たくさんのものを男からもらった。

「最後と思っていたけど、やっぱりもう一度・・・・・」

 男の寝ている布団の側へと座り込み、おやすみなさいの口づけを交わす。それは触れることのできない、形だけの交わり。それで十分だった。これで最後の言葉が言える。

「・・・おやすみなさい。アナタ」

 一ヶ月という短い時間、男とかけがえのない思い出を作った部屋へと、最後の別れを告げた。




 この日、とある町では天使の羽根が降ってきたと騒ぎになった。そして、その日その時間に亡くなったと診断された男は、天使に連れて行かれたという話が生まれた。

 男の死因が不明であったこと、男の死に顔があまりにも安らかであったこと、なによりも・・・・・男の寝ていた布団に、町で降ってきたのと同じ羽根があったことが決定的であった。

 それから人の間で、クリスマスになると天使が迎えに来る町と言われることとなった。

 その町では、その日に天使に夢の国へと連れて行かれ、そこで一生を過ごすだの。そのまま天国へと連れて行かれて人生が終わるだの。二次元嫁が迎えに来て、二次元の世界へ精神が行ったのだと、様々な憶測が飛び交っていたが・・・・・そこにある二人の物語を、誰も知ることはできない。




 元の世界へ戻ると、回収した魂をこの世界の管理者へと渡す。それが、最後の仕事だった。

「・・・これが彼の魂です。どうかこの傷を癒し、次は幸せな世界で過ごさせてあげてください」

 男の魂を世界の管理者へと差し出す。優しく少女の手に包まれていたそれを、管理者はどうでもいいように乱暴に掴み取る。

「っ! これ以上、この子に傷をつけるようなことはしないでくださいっ!」

 傷に傷を重ねるような扱いに、口調こそ丁寧だが少女は怒りを露わにする。

「黙れ。どうでもいい存在にそこまで熱を上げるな」

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