第六章 14
「なんだか今さら過ぎて、気恥ずかしくないか?」
「そう? ふふ、かわいい・・・・」
「お前の方がかわいいに決まっているだろ?」
「もう・・・照れるとすぐにそうやって話をずらすんだから・・・・ちょっとだけ身体を起こして?」
「んっ?」
言われるがまま上半身だけを起こして身を返すと、少女から抱きしめられる。『ハグハグなでなでの刑』だった。
「ちょ、おまえ・・・!」
「ふふっ、こっちと膝枕だったら・・・どっちが恥ずかしくないのかしら?」
「まて、この姿勢は辛いから一度離してくれ!」
「あら、ごめんなさい」
一旦離して、男がいつものように座るとまた抱きしめる。このまま逃げようとしていたのが分かったからだ。
「悪かったから離してくれ! 大人しく膝枕される方を選ぶ!」
「うふふ、慌てている貴方もかわいい。でも、逃げようとしたのだから、少しだけハグハグなでなで・・・ね?」
少女の胸の中、頭を子供の様に撫でられていく。そんな間にも少女の匂いと柔らかさに興奮して、男の身体は熱を帯びてくる。もちろん、少女はそれを分かった上でそうしていた。寒さに対して熱を持てるようにと。
そして、少女は男を十分に愛でると解放して、今度は膝枕をしていく。
「~~~~♪」
鼻歌をしながら、膝にのせた男を見下ろして撫でていく。男は気恥ずかしさを隠しながら、少女のやりたいようにさせていた。
「・・・その歌、気に入ったのか?」
「ええ、時々洗濯物を干しながら歌っていたわ。もちろん小声よ?」
「そうか・・・おっ?」
「どうしたの?」
男が見上げる空へと少女も顔を向ける。
「あら、雪ね・・・だいじょうぶ? 寒くない?」
上着をかけているとはいえ、寒空の下では暖房器具などはなかった。熱さ、寒さに弱い人間に堪えるのではないかと心配になってしまう。
「・・・大丈夫だって。さっきあれだけ熱くさせられたから、むしろちょうどいい」
雪は軽く降っているだけで、横目で見れば地面に落ちると積もることもなく消えていった。
「ゆっくりと降ってくる雪の中でみる、夜空の光景もいいものだな」
「そうなの?」
「ああ・・・なによりも雪を背景にしたお前という・・・・」
自分を見下ろす少女と目が合う。丸くて愛らしい、金色の瞳が見つめ返してくる。そのまばゆいばかりの美しさに、勝手に口が開いて言葉を紡いでいく。
「月が綺麗だ」
「えっ?」
少女にはこの言葉の意味が分からなかった。どうして自分を月に例えたのかが分からなかった。
「・・・お前の瞳や髪がさ、ずっと月みたいに綺麗だと思っていた。だから、月が綺麗だって言っちまったのさ。気障だったか?」
「いいえ、うれしいわ。わたし・・・貴方のお月様になれていたの?」
「ああ。夜に優しく世界を照らす月のように、俺を照らしてくれたよ。ありがとう、お前に出会えてよかった」
少女へと手を伸ばしていき、その頬に触れて撫でていく。いつまでもその感触を忘れないようにと、この手に覚えさせるように触れていく。
「そんなこと言ったら、わたしだってそうよ・・・?」
「・・・俺達って、本当に似ているんだな」
「そうね・・・うれしいわ。貴方と同じ・・・心を持てて」
浮かべる涙を拭っていく。それを少女はくすぐったそうにしながら笑う。本当はまだまだ泣きたいのに、それを隠してまで笑う。もう今日が終わるから、最後は笑顔を見せていたかった。
「ねえ、もう終わるころだけど・・・最後に二つおねがいしてもいい?」
「なんだ?」
「貴方の・・・名前を教えて? 初めて会った時は教えてくれなかったけど、今ならいいわよね?」
「ああ。それで、もう一つは?」
「わたしに・・・名前をつけて? 名前を・・・・ちょうだい?」
「・・・そんなことしていいのか? 名前と言えば、呪術的なことと関係あるだろ?」
「ふふっ! だいじょうぶ。そんなことないわ。わたし達に名前がないのは、そんなことをしなくても個人として認識できるからよ? 必要がないから、名前をつけないだけなの」
「そうか・・・じゃあ、先に俺の名前だけど」
起き上がって少女を抱きしめ、そっと耳に囁く。自分の名前を彼女へと伝えた。
「それが・・・貴方の名前?」
「ああ。変な名前だろ?」
「そんなことないわ。いい名前よ? 名は体を表すというのなら、貴方はきっと・・・・ううんっ、こんなわたしを受け入れてくれたのだから、凄い人よ。凄く強くて優しくて、暖かい人よ」




