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第六章 13

「はい、どうぞ」

「最後の最後に飲むコーヒーがミルク入りか・・・・」

「だって、今夜は食べないのでしょ? それならブラックはお腹に良くないわ」

「まったく・・・良妻だよ、お前は」

「えへへ・・・っ!」

 呆れながらも頭を撫でてもらえ、少女は嬉しかった。こんな時でも男は自分に気を遣ってくれている。もうすぐ、本当に終わるのに・・・・なにも取り乱さずに普通にしていた。

「・・・静かね」

 男の肩に頭をのせて甘えると、肩を抱かれた。それが当たり前であるように、男はそうしてくれた。

「そうだな、まるで世界に二人だけになった気分だ」

「・・・二人だけだと、なんだか寂しいわね」

「じゃあ、子供でも産むか?」

「こど・・・っ?! えっ??!!」

 久しぶりに少女が耳まで赤く染める。考えていなかった言葉に、完全に慌ててしまう。

 相変わらずそんな反応がかわいいなと思いながら、男はコーヒーもどきカフェオレを飲んでいく。

「そういや・・・そもそも産めるのか?」

「そ、そそそそんなの・・・わか、わからないわよっ!!」

 面白いまでの慌てっぷりだった。

「まあ、冷静に考えれば無理だよな。肉体を持つのは一ヶ月だけなんだろ?」

「・・・あうっ」

「すまん、地雷踏んだな」

 残っているのを一気に飲みほして、すぐに少女を抱きしめて慰めていく。思った以上にへこんでいるようだった。

「悪い、そこまで落ち込むとは思っていなかった。できるできないは置いておいて、欲しいのか?」

「ええ、とても欲しいわ。だって、貴方に『家族』をあげられるんだもの。それに、わたしも貴方の子供をもらえるのよ。そうなったら、もうわたし達は独りじゃないわ。『家族』という世界になれるのよ。それは・・・とても幸せなことじゃないかしら?」

 夢見る笑顔で話す少女はとても輝いていた。

 そんな未来がもしもあったのなら、そこはきっと楽園なのだと思わせる笑顔だった。

「お前なら・・・いい母親になれそうだな」

「そうかしら? それなら貴方だって―――」

 いつものように惚気あっていく。でも、今回は一つだけ違っていた。子供という存在を意識した会話であった。どっちに似るか、どっちが欲しいか、成長した時の反抗期がどうかなど、今はそんな時ではないのに当たり前のように会話をする。そんな未来がまるでこれから待っているかのように、二人で家族の物語を紡いでいく。

「で、俺としてはお前似のかわいい娘が欲しいわけだが」

「あら、わたしは貴方似の男の子が欲しいわ。小さな時の、かわいらしい貴方を見てみたいもの」

「勘弁してくれ・・・」

「ふふっ」

 そうして、笑顔で物語を終わらせる。

 会話が終わると脆弱に包まれる。何かなかったかと少女が考えていると、ふと思いだしたことがあった。

「ねえ・・・膝枕させて?」

「どうしたんだ急に?」

「だって、よく考えたらしたことなかった気がするから・・・・いつもコタツに入っていたばかりでしょ? 寒さは・・・」

 少女が着ていた上着を脱ぐと男へと渡す。

「これをかけて頂戴。少しはましになるはずよ?」

「・・・・」

「・・・貴方? どうしたの? まさか、また見惚れていたの?」

「・・・ああ。なにせ光を背にしたお前が綺麗すぎて、現実の世界とは思えなかった」

 男が見たのは夜空に浮かんだ月のように、少女が闇夜に在る星を天地に渡って従えているかのような光景だった。

 天には大いなる星が輝き、地上には遠くから見える、人間の知恵から生み出された星の輝きがあった。そして、その中で何よりも大きく輝く『月』。微かに照らされる光を反射するかの如く、白銀に輝く『月』があった。色褪せることがない永遠の瞳を持ち、身に纏うは何にも染まっていない天使の衣、そこに流れるようにかかるは衣よりも白き純白の川、そんな男だけの『月』があった。男が生きてきて掴まえることができた、たった一つの星だった。

 少女を中心とした幻想的な世界は、まさに天衣無縫の美と言ってよかった。

「もう・・・それで、膝枕はさせてもらえるの?」

「あ、ああ。むしろ喜んでしてもらうさ」

 男がそういうや、少女は正座をして早く頭をのせるようにと、膝を手でゆっくりとたたいていた。それに遠慮することなく、寝転がって頭を載せる。寒さはもうどうでもよかった。

「うふふっ。これで恋人らしいことは全部できたかしら?」

 自分の上着を男にかけると、膝にある男の頭を撫でていく。最後なので、そのままずっと撫でていく。

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