第六章 12
健気に鳴き声を抑え、頑張って言葉を紡ぐ少女が愛おしかった。
顎に手をかけて顔を上げさせる。涙で濡れた顔を確認したら、そのまま頬を撫でていき・・・・
「あ・・・んっ」
いつものように唇を重ねた。優しい触れあいに、少女は慰められていった。
それから数時間ほど流れて、少女がようやっと少しだけ落ち着いた。日は暮れて、世界は夜の帳に包まれていた。
「・・・ありがとう。いっぱい泣かせてくれて・・・・・」
「足りなかったらまだ泣けばいいぞ?」
「それは終わった後にするわ・・・今はもう泣くよりも・・・・・貴方に抱きついて、感じていたいわ」
「それもありだが・・・上を見てみろよ?」
「上?」
言われるがままに顔を上げる。すると、そこには
「・・・星が、綺麗ね」
満天の星空とまではいかなくとも、闇夜に浮かぶ明るい輝きが無数にあった。
強く輝く星から、僅かな点でしか光らない星まで、限りない夜空へと雄大に鎮座していた。
「空気のいいところには勝てないけど、近場ではここが一番星を見ることができるらしい。で、ここは隠れたスポットで、二人になるのにはぴったりだと、あの女店員が教えてくれた通りだな」
互いに抱き合い、吐く息を白く染めながら夜空を見上げる。
世界に等しく輝く星々の輝き。けれど、決して誰もそれを手に入れることはできない。ただ、見ることだけが許されている悠久の輝きだった。
「・・・貴方は星のことも知っているの?」
「いや、流石にそこまでは・・・・興味はあったがな」
「ふふっ、貴方でも知らないことがあるのね?」
「当たり前だろ? 俺は人間で、不完全な存在だ。天才でもなければ賢者にもなれない、ただの愚者だ」
明るく言いながら、暗さを感じさせる言葉が闇夜へと溶けていく。
もうすぐ一生を終える男の顔が、どんな表情をしているのか少女にはよく分からなかった。闇を照らす光は、そこまで届かなかったからだ。
「・・・でも、そんな貴方だからこそ、わたしは愛したのかもしれないわ」
「・・・そうなのか?」
「ええ、手間のかかる子ほどかわいいって、言うんでしょ?」
「ははっ、そうなると俺もまだまだ子供ってところか・・・・」
男はどことなく嬉しそうだったが、どんな顔をしているのかが見たかった。
「ねえ、顔を見せて・・・暗くて良く貴方が見えないの」
「んっ? どうした・・・?」
顔が降ろされ、その表情を確認すると、今度は少女から唇を重ねた。言いようもない感情から、そうしたかった。
「・・・星空の下でキスをするのも、どこかロマンチックじゃないかしら?」
「おま・・・っ」
適当な言葉を言いながら、もう一度重ねる。男の返事を聞く必要はなかった。その表情でもう理解できた。
これまで散々されてきたことを、今度は自分が行っていく。男の心に自分を刻み付け、それすらも超え、魂にまで届けたかった。確認させるために・・・・なによりも、忘れさせないように、たくさんのキスを送りたかった。
角度を変え、深さを変えられ、顔を離して暫く見つめ合ってはまた交わっていく。別れを惜しむように何度も何度も繰り返していく。
「はあっ、はあっ・・・うっん・・・・っ!」
「まだ大丈夫か?」
「う、んっ・・・もっと・・しましょ・・・・?」
大丈夫じゃなくても、止めることなどは有り得なかった。
もうこれが最後だから。
もう二人の明日はないから。
もうすぐお別れだから。
残り少ない今日しかないから、狂ったように求めあう。何も考えることなく、ただ互いを求めることだけで頭を満たしていたかった。互いの温もりだけで心を満たしていたかった。抱いている想いで、魂まで満たしたかった。
―――終わらないで欲しい。
―――ずっと触れあっていたい。
―――枯れることのない愛で、満たしてあげたい。
天に輝く星空の下、地上で創り上げた二人の世界が、少女の甘くて切ない想いで満ちていく。男の魂を包み込むように・・・・・・。




