第六章 11
「そうね」
「・・・帰りは一人で大丈夫か?」
「ええ、終わったら・・・その時はこの受肉も終わるから・・・・・」
自身が放った言葉に暗くなってしまう。終わりの時は、もうそこまで近づいていた。
「う、ううっ・・・・」
別れを意識してしまうと、涙が勝手に出てきてしまう。止めることなどできるわけがなかった。
「・・・先にたくさん泣いておけ」
持ってきた荷物から用意しておいたビニールシートを広げ、泣きだした少女を座らせるとすぐに抱きしめる。
電池式の照明道具も取り出して、スイッチを入れて辺りを照らす。その光は少女を抱きしめ、頭を撫でている男と、その少女の二人を照らし出すことが精一杯だった。
「こうやってやれるのも・・・・生きている間だけだからな」
「っ!!」
残酷な未来を告げられ、堰を切ったように少女が泣きはじめる。感情のまま涙を流していき、声を上げる。男は黙ってそれを聞きながら、彼女を抱きしめて優しく背中を撫でていく。
この一ヶ月間が楽しかったからこそ、幸せだったからこそ、その悲しみは深かった。それでも少女は男と過ごした日々に後悔はなかったし、本当に心から嬉しかった。だけど、別れを意識するとどうしても泣いてしまうのだった。
肩を震わせてしゃくり上げながら、男からの温もりを感じていた。それは、初めてもらった時から変わることのない、優しい暖かさだった。
男から、たくさんの初めてを貰っていたことを思い出す。
初めて誰かに理解された。
初めて誰かを理解したいと思った。
初めて感情をすくい上げてもらえた。
初めて本当に優しくされた。
初めて甘えさせてくれた。
初めて慰めてくれた。
初めて誰かを好きになった。
初めて愛することを知った。
初めてキスをした。
初めてデートをした。
初めて恋人になった。
初めて信じてもらえた。
初めて拒絶されず、心から受け入れてもらえた。
初めて抱いてもらえた。
初めて家族になってくれた。
初めて、これほどまでに誰かを殺したくない感情をくれた。
初めて、深い悲しみという感情を知った。
初めて、別れたくないと言う感情を覚えた。
「ひっく、ひく・・・っ! うぐっ・・・すきぃ・・だい、すきぃっ!!」
「無理して言わなくてもいいんだぞ?」
男の言葉に首を横に振り、言葉を伝えることに拘る。
「はあっ・・・だ、からっ! ぜ、ったい・・・! んぐっ、だれに・・・・も・・・・貴方を殺させない・・・・っ! ごほっ!」
「もういいから、無理して話すな」
それでも少女は嫌だと首を振る。
「貴方の・・・・ぐすっ! 命は・・・はあっ・・わたしがもらうのっ!」
もしも少女がここで男を殺さなければ、これから男は生きていることを後悔させられながら、徐々に苦しめて殺されていくことになる。かつて、自分が殺すことを止めた時に起きた、無慈悲なまでの結末を思い出す。
理から外れた命が迎える末路は悲惨に尽きた。それを知っているからこそ、少女は絶対に嫌であっても、男を殺さなければならなかった。愛しているからこそ、ここで苦痛を与えずに殺さないといけなかった。あんな悲劇だけはさせるわけにはいかなかった。何よりも、愛した命を誰かに奪われることが嫌だった。
「・・・誰にも、わたさないんだからぁあああっっ!!」
泣きながら嫌だと訴えているのに、それでも少女がした決断へと優しく声をかける。
「ありがとうな」
「あ・・・っ?」
「それが、一番俺にとっていいことなんだろ?」
「う、あ・・・っ」
「最後の最後に、お前に辛いことをさせて・・・・ごめんな」
「あ、うう・・・っ!」
「俺はお前だけが大切だ。だからお前が嫌なら、それで残酷な最期にあってもいいと思っていた」
「やだっ! そんなこと、ぐす・・・っ! ぜったいに、やだあああああっっ!!」
「・・・お前の気持ちが分からない男で、ごめんな」
「そんな・・・ことないっ! そんなこと・・・ないわっ!」




