第六章 4
「ネグリジェを買った時にサービスしてもらったの。それで、これは彼氏さんに見せる服と言われたわ」
「あの女店員・・・」
言葉でこそ悪態をついているが、本心は件の人物に感謝していた。着飾ることをしない少女の新たな姿を見られ、有難いことこの上なかった。
「・・・あの、男の人って・・・・本当にこういうのが好きなの?」
ひらひらしている服をつまみながら問いかける。似合っている自信がなかった。
「お前だから好きだ」
「はぅ・・・っ」
照れている少女を抱きしめる。風呂上り後の石鹸の匂いと、少女の甘い香りが頭を痺れさせる。そのまま唇を重ね合わせ、いつも以上に互いを求めあっていく。
「んぁ・・・はあ・・・っ! 続きは、水分をちゃんと摂ってからよ?」
口が離れれば、少女の小言が耳へと入る。それは至極ご尤もな意見であり、大人しく少女が用意してくれていた湯冷ましを・・・一気に呑んでいく。
「・・・少しずつ飲むんじゃなかったの?」
「こんなお前を前にして、一秒でもゆっくりできると思うか?」
手が身体に触れてきて、そのまま弄られていく。
「ん・・・っ! 飽きたり・・・しないの?」
「飽きるには毎晩時間が足りないくらいだ。それと、悪いが今夜は加減できそうにない」
「うん・・・貴方のすきに・・・して?」
はにかみながら、熱く濡れた瞳で愛する男を見つめる。こうやって少女は意識せずとも、毎晩容易く男を陥落させていく。だから、男は毎晩少女を求めずにはいられなかった。
それは、少女の身体だけではなく、心にまで自分を刻み付けたいからかもしれなかった。
それとも、ただ本当に少女を抱きたいだけの、欲望なのかもしれなかった。
本当のところは男にも分からない。分かる訳がなかった。こんな欲深い人間である自分に、そんな考えが本当にできているかなど。それでも、少女と混じり合いたいということだけは事実だった。身体だけではなく、心まで合わさりたいと思っていた。少女の中に、自分の存在を残したかった。
そして、それは少女の方も同じだった。少しでも多く求めて欲しかった。身体だけではなく、心にまで男の存在を刻み付けて欲しかった。そうすればずっと男を感じていられる。例え別れたとしても、刻み付けられてさえいれば、自分の中に男の存在を感じていられるはずだと思った。だから、溶かされたかった。溶けあって、欠片でもいいから男の心と混じり合いたかった。少しでもいいから、心の中へと男の存在を入れたかった。これから終わることなく続く悲しみに、打ちひしがれないようにと、男の心が欲しかった。
終わりに抗う、二人の夜はまだ終わらない。
「んっ・・・こんや・・は・・・・はぁっ・・・・すご・・・・ふうっ・・・・・かったわ・・・・・はあ・・・っ」
余韻冷め止まぬ中、息も絶え絶えに言う。
「悪い・・・」
「もう・・・どうして、あやまるの・・・・? 貴方に・・・それだけ求められて・・・・・うれしいわ・・・・・だから、あやまらないで・・・・ね?」
「・・・すまん」
「・・・もう、いってるそばから・・・・・」
困ったような顔をして少女が笑う。そして、男の頭を胸へと抱き寄せる。
「めっ、でしょ?」
理解の悪い子供に優しく諭す母親のような、慈愛に満ちた表情だった。
少女のこういった行為に、男の心は癒される。
優しく受容されることの有難みを噛みしめる。
「お前は・・・本当に優しいよな」
「貴方だってそうよ?」
男の頭を撫でながら少女が言う。
「貴方の優しさが、今のわたしを作ってくれたのよ? もし、貴方と出会わなければ・・・・わたしは今も、感情を壊しながら過ごしていたわ。こんな風に・・・・誰かを愛することもなく、ただ壊れながら・・・・時を流れて行くしかなかったわ。だから、ありがとう。壊れていたわたしに、優しさを教えてくれて・・・好きに、させてくれて・・・・」
ぎゅっと男を胸に抱きしめ、その存在を感じる。胸から溢れ出す感情が止まることは、片時もなかった。だから何度だって、繰り返して言ってしまう。
「愛してるわ。ずっと、貴方のこと・・・・これからもずぅーっと・・・・・」
「・・・ありがとうな」
嘘偽りのない言葉に心を打たれ、男は目頭が熱くなってしまう。何も信じられなかった世界に、少女の言葉が・・・・だた一人少女だけが、心の底から信じられる存在だった。救いようのない世界から、すくい上げてくれた存在に殺されると言うのなら、何も文句などなかった。
けれど、諦められるわけもなかった。こんな少女をまた孤独にさせることを・・・・認められるわけがなかった。
男は考える。例え自分の物語がここで終えようとも、別の物語があるはずだと。少女がまた自分と出会う、そんな物語が・・・・・・必ずあるはずだと。もし、その物語に届くのであれば、少女以外の全てを捨てても構わない。全てを失ってでもその道を選び、必ず少女へと辿り着いてみせると。そんな、都合のいい未来を思い描きながら、男は少女の優しさに包まれて眠りに落ちていく。




