第六章 2
「それだと、貴方が約束を守れない人になってしまうわ。そんなのはいやよ。わたしならだいじょうぶよ? ただ・・・」
組んでいた腕が解かれ、そのかわり手を強く握りしめられる。
「この手だけは離さないでね・・・?」
「ああ。じゃあ、いくぞ?」
頷いたことを確認して、休憩所の扉を開ける。それに気づいた人物が誰よりも早く声を上げる。
「あっ! やっと来た!」
そうなると視線が男へと集まった。全員がテーブルの席についており、昼食をとりながら待ち構えていた。
「・・・こんにちは。わざわざ休みなのに、ちゃんと連れてきましたよ?」
そういうと口々に野郎連中から声が上がる。早く見せろだの、このロリコンがだの、昨日からクリスマス超えるまで有休取っているリア充のことなんざ知るかなどと、好き勝手に言われる。もちろんネタである・・・そのはずだ。
「分かってますよ。ほら、来ても大丈夫だぞ?」
その声を聞いて、婚約者である少女も姿をみせる。長い純白の髪に、見目麗しい容姿。その眼は闇夜に浮かぶ満月のように静かに輝き、儚くて美しい金色を滲ませていた。
息を呑むような、可憐さと美しさを備えていた少女の出現に、部屋の時間が止まる。
「あの、この度は・・・ありがとうございました」
ぎこちないお辞儀をする。不慣れなそれは微笑ましいものであったが、実際にみた少女の存在感に圧倒されていたため、誰も感情を現すことができないでいた。
「えっと・・・どうしたらいいの?」
無反応に困り、男へと助けを求める。そんな少女の頭を男が撫でてやると、ようやっと反応が返ってきた。
「・・・・人前でいちゃつくなよ」
「頑張ったから頭撫でることの、なにがいちゃつきなんだ?」
男がそれに返事をすると、それが合図であったかのように周囲からも声が上がる。
「うわ、無自覚とか・・・これは重症なパカップルだ」
「というよりも、写真で見た時よりも可愛いとか反則だろ?!」
「逆にかわいすぎて現実味がないわー」
「えっ? どっちかというと・・・雰囲気は美人じゃない?」
そんな感じで口ぐちに言いだす。
「はい、じゃあ・・・質問っ! プロポーズの言葉は何でした?」
「えっ? あっ・・・その・・っ?」
「落ち着けって」
急に話を振られて慌ててしまった少女。それに男は抱きしめて、頭を撫でてやることで対処した。途端に全員から様々な声が上がる。その言葉に少女だけが顔を赤くしていく。
「も、もうだいじょうだから・・・離れましょう?」
「そうか? だったら適当に質問にでも答えてやってくれ。俺は最近根掘り葉掘り聞かれたんでな」
言いながらあいている席を見つけ、そこに移動して少女と共に座る。そうして、質問に答えていくことになった。
「じゃあ、落ち着いたところでもう一回。プロポーズの言葉は?」
「・・・結婚・・してくれ・・・だったわ」
「あ~、なに? この可愛い生き物! これくらいで赤くなるとかピュアすぎでしょっ!」
「他に何か言われなかったの?」
「えっ? 他は・・・俺の命はお前にやる。だから、俺はお前をもらうって、言われたわ・・・・」
「「「ええっ?!」」」
全員が男を驚きの目で見る。
「なんだ? それくらいは普通だろ?」
「「「絶対普通じゃない!」」」
どこか人とずれている、おかしい、私だったら引くわ、そういった言葉に少女は胸が苦しくなる。男が否定されていることが辛かった。なのに、男はそんなことを気にするそぶりもなく、会話をこなしていく。元々の流れが普通ではないので、そういわれるのは仕方がなかったが、それでも好きな人を否定されていい気分になるものではなかった。
「ねえねえ、キスってあいさつ代わりにしたりしているの?」
「えっ? 別にあいさつじゃなくてもするわよ? 例えば・・・」
隣に座っている男の頬へと唇でそっとふれる。それを見て上がる甲高い声。
「したいときに、こんな風にするわ・・・・」
本当は口にするが、注目されている中でそれは流石に恥ずかしいので、今は頬で我慢しておいた。
「アツアツね~! なんというか羨ましい!」
「でも、それも初めだけだからね? 慣れてきたらすぐにマンネリ化するわよ」
この言葉には抵抗したくて、男の腕を見せつけるように抱きしめて返事をする。
「だいじょうぶよ? わたし、ずっと彼を愛しているから・・・マンネリ化なんてさせないわ。そうでしょ?」
最近身についてきた艶やかな笑みを浮かべた後、愛する男へと視線を送る。それに心を奪われない男などはいなかった。この瞬間、男性陣から羨望と嫉妬の混じった視線を受けることとなった。綺麗、可愛い、美しいと三拍子がそろった異性を娶れるなど、男目線としては最高レベルの勝ち組だったからだ。
「・・・と、未来の奥様は言っていますが、旦那としてどうなんですか?」
「あ? ああ・・・それは・・・・」




