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第五章 11

「それは『今』はだろ? だから『いつか』その時はお前をブッ飛ばす」

「そうですね・・・・その時は大人しくそうされますよ」

 ため息交じりにそう返事をして、踵を返す。

「普通ではないから、彼女を受け入れられたという訳ですか・・・・このことは上に伝えさせて頂きます」

「もう二度と来るなよ?」

「私もそうしたいです・・・・貴方と話していると頭が痛くなってくる・・・・・では、残り少ない幸せでも味わってください」

 そうしてようやっといつもの二人の部屋へと戻った。



 上を目指して浮いている男が、外の暗闇に溶けた状態で少しだけ止まる。二人きりになった部屋へと視線をむけるとそこから来るのは。

「人の不幸は蜜の味といいますが・・・・・これは、それを超える甘さですね。こんな甘いものを送られ続けたら、流石にそろそろ気分も悪くなると言うものです」

 そんなことをぼやきながら、また上へと目指していく。



「で、仕切り直しになったが・・・大丈夫か?」

 赤く固まったままの少女へと言葉をかける。

「え、ええ・・・むしろ、貴方こそだいじょうぶなの・・・・?」

「記憶や心が読まれていたとかいう奴か?」

「・・・ええっ」

 少女がゆっくりと起き上がり、男と少しだけ距離をとる。どうにも少女のほうがそれを意識してしまい、触れることに抵抗が出ているようだった。

「・・・半分はハッタリだ。記憶までとかは流石にわかんねーよ」

「えっ?! だったらどうしてあんなこと・・・・」

「ああいう奴は思い通りにならないとフリーズするからな。盤面を整える奴ほど不意の事態に弱い。それと、俺散々言っただろ?」

 半ばあきれながら男が少女を抱きしめる。若干の抵抗する感じも、力ずくで無理やり抱きしめる。あごに手をかけ、顔を上げさせてまっすぐに少女を見つめる。

「お前が好きだ。だからお前だけは諦めない」

「・・・・わたしが・・・気持ち悪くないの?」

「こんなにかわいいお前がどうして気持ち悪いんだ?」

 頭を撫で、髪を弄ばれる。それは不思議と子供の様ないじり方だった。

「だって、人の心を読んじゃうのよ? 心だけでなく記憶も・・・・知られたくないことまで知られちゃうのよ? それをわかっていながら・・・・触れているの?」

「日本にはな『お天道様が見ている』っていう言葉があるんだよ。だったら、なにか一つの存在くらいには、全て知られていてもいいんじゃないのか?」

 そういう男の笑顔の方が太陽の様だと少女は思った。全てを平等に照らそうとしている。

「まあ、あまり不甲斐ない記憶や恥ずかしい記憶で、愛想を尽かされると困るが・・・・」

「そんなことしないわっ! わたし、一度も自分から貴方の記憶や感情を見たりしていない! これだけはほんとうよっ?! ただ、流れてきたモノを読んでしまっただけなの!」

「そうか、だったら今の俺の感情を読んでくれた方が分かりやすい。そうしてみてくれ」

「いい・・・の?」

「言葉で伝えるより、そっちの方が楽だし早い。それで嫌われたら仕方ない」

「・・・どんな貴方でもわたしはすきよ? だから、そこは安心して?」

 ぎゅっと少女がしがみ付いてくる。目を閉じて、男の感情を読み取っていく。それは言葉などよりも明確に語っていた。少女だけが大事で、少女以外は捨てる覚悟で、常に少女のことだけを考え続けている。自分の命のことよりも、少女が笑顔で、幸せであることを望んでいる・・・・そんな、自分を見失った狂人のような感情だった。

「貴方・・・どれだけわたしに狂っているのよ・・・・っ!」

「・・・ドン引きしたか?」

「しない・・・そんなことしない。うれしい・・・うれしいもの・・・・っ! 誰かから・・・・こんなに想われたことなんてないもの・・・っ!」

「・・・綺麗なだけじゃなかっただろ?」

「そう・・・ね、どれだけ貴方が・・・・・わたしのことを・・・って・・・それだけ・・・・・したいのね?」

「ああ。引かないか? こんな汚らわしい欲まみれな存在を」

「引かないわ。だから、わたしを――――」

 男へと一度口づけて、熱く潤んだ瞳で続きの言葉を伝える。

「―――こんどこそ貴方の女にして?」

 それが合図だった。

 今度は男が少女に口づけ、そのまま布団に押し倒していく。もう止められないし、止める必要もなかった。男は貪欲に少女を求め、少女もそんな男を受け入れていく。これまで抑えつけていた感情が爆発していた。

 触れてくる男から流れ込んでくる感情が嬉しかった。自分の身体で悦んでもらえていることが嬉しかった。際限なく求められていることが嬉しかった。全てを知りながら、こんな自分を気持ち悪がらずに、触れてくれていることがなによりも嬉しかった。だから、もっと触れてほしかった。男に触れられてないところがないように、全てに触れてほしかった。そして、愛しているのにもうすぐ男を殺してしまう、こんな自分を滅茶苦茶にして壊してほしかった。

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