第五章 8
「ぁ・・ぅぅ・・・・っ!」
目の前で見せられる間接キスに、か細いうなり声を上げる。無意識的に指が唇を触れる。普通にされるよりも恥ずかしかった。
「どうした? 顔赤いぞ・・・?」
「だ、だいじょうぶよ・・・?」
『貴方が何度も間接キスするからよっ! それだったら素直にわたしにしてっ!』とは言えなかった。
「それより・・・随分味わって飲むのね・・・・?」
「一気に飲むと胃がびっくりするからな。こういうのは少しずつ飲むようにしないとな・・・・・まあ、残りは一気に飲むが」
そう言って、少女の唇が触れた部分へと、また口を重ねて飲まれていく。
「ぁぅっ!」
最期は喉を鳴らされながら飲まれてしまい、蚊の鳴くような声が漏れてしまう。
「・・・なんでお前耳まで赤くなってるんだ? 風邪なら今夜は大人しく寝たほうがいいぞ?」
「それは絶対にイヤっ! こんなことされて抱かれないなんて、もう生殺しより酷いわよ・・・っ!」
「確かにずっと待たせていたからな・・・・ここでしないとなったら、お前も気がすまないよな」
「そ、そうよ・・・? ずっと、貴方が欲しかったんだから・・・・」
会話の内容は確実にすれ違っていたが、そんなことを指摘したら“恥ずか死”してしまうので、そういうことにしておく。
「最後に念のため確認するが・・・・いいんだな? 俺はもう我慢しないぞ?」
真剣な顔つきになった男が少女に問う。
「ええっ、貴方の・・・・女にして?」
男の身体に近寄ってもたれかかり、その身を委ねる。
少女を抱き上げて布団へと運ぶ。降ろすと視線が絡まりあい、互いが求めあうままに唇を――――
「夜分遅くに失礼するよ」
――――重ねることができなかった。
二人を引き裂こうとした男が、あろうことか初夜に当たろうとしている時に姿を見せたからだ。昼間に入って来たベランダのドアから侵入してきた。
「・・・あなた、何しに来たのよ」
いくら恥ずかしがりな少女でも、これには流石に怒りの方へと感情が向いてしまった。聞いたこともない声音を出した少女に男が驚く。
「・・・彼に関してはそんな声を出すんだね?」
「・・・あたり前でしょ。わたしがどれだけ想い焦がれていたと思うの?」
「お前、よくも顔を出せたな・・・」
怒りという意味では彼のほうが強いと言えるだろう。知らないところで少女を泣かされ、危うく失うところだったから、その怒りは烈火の如くだった。
「まあ、まだ全てを聞かせていないからね」
怒りを向けられた男は、そんなことは知らずとばかりに話しを始める。
「君は全てを聞く前に勝手に走り出して帰るから、これでもタイミングを選んだつもりだよ? 流石にあそこで出ていくほど無粋ではない」
「・・・嘘ね。今度は何を言って引き裂くつもり? またくっついて、そこを引きはがすのが狙いでしょ? 感情を効率よく集めようとすれば、そうするほうが早いもの」
声が震えるのを抑えながら、気丈に言う。昼間とは違って、ここまで受け入れてくれているという安心感が、少女を強気にさせていた。
「ぎりぎり間に合ったのも、お前の計算通りというわけか?」
「そこは違うね。まさか君がこれほどまでに、彼女に心酔しているとは思わなかった。おかげでまた感情が集まったよ」
「感情か・・・それがお前らのエサなのなら別にそこはいい。それが基本的に人間の苦しみや、悲しみとかの負のエネルギーであることもどうでもいいさ」
昼間、休憩中に現れた時に聞かされたことを思い出す。少女がやっていることはざっくりと言えば、人間が家畜の世話をしてそれを食べる。それと同じようなものだと。ただ、その立場は上位の精神体である存在が、家畜である人間に試練や悲しみなどを与えて、そこから引き出される感情を食べていると言うものだ。
苦しみや辛さなどによって磨かれた人間の最後の収穫。それが少女のやろうとしていることだった。
「だがな、そこにこいつの感情まで入れるなっ! こいつまで対象にするのはおかしいだろっ?!」
そう言って少女を抱きよせ、抱きしめる。最期には自分を収穫する少女を・・・・それを分かっていながら、彼は少女を腕に抱く。全てを知った上で、それでも自分を許してくれた彼に、少女は言葉では言い表せない感情で一杯だった。
「取れるところからは取っていく。それだけだ。おかげで昼間はいい感情が見られた。何せ、あの彼女が私に泣きながらお願いごとをしたのだから、初めての経験だったよ。それに関しては君に感謝する」




