第五章 7
「ごめんな。すぐに帰ってこられなくて・・・・」
泣き笑いを浮かべる少女を見て、忘れかけていた殺意を思い出す。あの男だけは絶対に許せなかった。例え、神が許したとしても許せるわけがなかった。
「ううん、そんなことないわ・・・・・いつもより、早く帰ってきてくれたから、わたしは今もここにいられるの・・・・もし、もう少し遅かったら・・・・・・・わたしはここに居なかったわ」
「っ!」
少女が居なかった未来を考えだけで嫌になる。もしもそんなことになっていれば、男は自分が何をするかわからなかった。少なくとも、ロクな最期を迎えることはなかっただろう。
「だから、わたしを引き留めてくれてありがとう・・・・受け入れてくれて、ありがとう」
「・・・そんなの当たり前だ。俺たちは――――夫婦だろ?」
「・・・うんっ! だいすきよ、貴方!」
嬉しくて仕方がなくて、愛する夫に抱きつく。それが拒否されることもなく、当然のように抱き返される。男からの優しい温もりに包まれる。
「ほんとうに・・・・夢みたい・・・・諦めていたのに・・・・・・諦めさせられたのに、貴方はそれを戻してくれた・・・・・」
「俺は諦めないさ。お前のことに関してだけは、絶対に諦めない」
覚悟を決めた人間の顔つきで、決意をした瞳で愛していたい妻を見る。熱く潤んだ顔が愛おしく、食事中なのについつい唇を求めてしまう。早く、少女を食べてしまいたかった。
「・・・冷めるといけないから、早く食べないとな」
「ふふっ、そうね。キスはデザートと言ったところかしら?」
「お前も言うようになったな・・・・」
「感化されちゃったみたい」
照れながら言う姿が可愛らしい。
そんなことをやりながら、いつものように食事をしていく。けれど、その様子はこれまでと違っていた。互いに強く意識しあい、何度も視線を絡ませながら、重なる度に口づけをしていくという、バカップルに磨きがかかった姿だった。
(本当なら一緒に入りたかったけど・・・・)
ネグリジェを着た少女が、珍しく髪を櫛で梳いていた。綺麗な白髪が、櫛を通されるたびに淀みなく流れていく。湯上り後の少女の肌はうっすらとピンク色を帯びており、下地である白い肌がその色をより一層引き立てていた。
髪を梳かし終わると、身体を冷やさないようにコタツへと入っていく。そして、男が上がるまでの時間をそわそわしながら待つ。思い出すのは少し前の会話。長い食事が終わり、一緒にお風呂に入りたいと言ったが、男からの返事でそれはしないことにした。
「・・・お前の素肌は、今夜の楽しみにとっておきたいんだが・・・・ダメか?」
この言葉に、少女は身が熱くなるのを感じた。思いだした今も、身体の芯から熱が生まれる。
(今夜・・・してくれるのよね?)
その期待に胸がずっと高鳴っていた。あまりにも高鳴るので、手で押さえてみるがむしろ鼓動を強く感じてしまい、そっちのほうがおかしくなりそうだった。もうこの胸は、打ち鳴らした状態にしておくことしかできなかった。
早く男に来てもらいたい。でも、その前にできる限り整えていたかったので、珍しく櫛で梳いていたのだった。だが、それも終わり、待つだけとなったこの時間が非常に長く感じる。普段なら気づけば上がってくるのに、こういう時に限って時間というのは長くなる。
(これまで読んだ漫画でこういうシーンがないのはどうして? あれば少しはイメージができるのに・・・・)
それが正しい知識ではないことを少女は知らない。
(お風呂上りに、飲み物を用意したほうがいいかしら?)
じっとしていられなくなり、男のカップにお白湯を作る。出来上がったそれを、思わず自分が飲んでしまう。
「・・・違うわよ、もうっ! わたしが飲んでどうするのよっ?!」
なんだかんだ少女は緊張していた。それで喉の渇きに気付かずにいたが、本能的につい出来上がってしまったものを飲み干してしまう。
もう一度お白湯を作ってから、さらに気づいてしまう。
(あ、口をつけたのに洗っていないわ・・・・)
「早く洗わないと彼が上がってきて・・・・」
「どうした? 台所にいて」
「ひゃあっ?!」
完全な不意打ちに奇声を上げてしまう。振り向けば、風呂上りの男が髪をタオルで拭いていた。
少女が手に持つ自分のカップに気付く。
「・・・ああ、風呂上りの為の水分用意してくれていたのか。ありがとうな」
珍しく男が笑顔を見せる。それに胸がときめいてしまい、男からカップを取られたことにすら気づかなかった。
「お白湯か・・・・冷えなくて助かるよ」
手に持ったカップを飲みやすいように持ち替えると、それは少女が口づけた所と一緒になる。男が一気に飲まずに、少しずつ中身を飲んでいく。その度に男に口づけられ、味わわれてしまう。




