第五章 6
「・・・ふ、夫婦? で、いいの・・・? 今のわたし達・・・・」
「戸籍上では無理だが・・・俺たちにそんなの関係ないだろ? だったら、あの瞬間から俺たちはそうだ」
「~~~~っ!」
喜んでいたことも、冷静になってくれば恥ずかしくなってくる。男と家族になりたい。確かにそう思っていたが、まさか数日でそうなるとは考えていなかった。
「いきなりは落ち着かないか?」
「・・・そう、かも・・・・ごめんなさい・・・家族になりたいとか言っておきながら、いざそうなってみると・・・・実感がないというか・・・・現実味が薄いみたいなの・・・・・」
「そんなこと気にするなって。急な話だったからな」
頭を撫でられる。優しく、労わるように、丁寧に慈しんでくれる。
「だったら、今は婚約者ということでいいんじゃないか?」
「えっ?」
「指輪もまだ買ってやれていないし、それを買ったら夫婦ってことでどうだ? それなら切り替えられるんじゃないか? とはいっても、もう時間がないから既製品になるけどな・・・・」
「それだと、それまで家族じゃないの・・・?」
「この世界ではそうなるな」
「それは絶対イヤ・・・・わたしは、その・・・・貴方の家族でいたいから・・・・いまから夫婦・・・・・がいい・・・・」
小さな声でも男にはしっかりと届いていた。顔を真っ赤にしながらも、確かに少女は再び気持ちを伝えた。感情任せではなく、もう一度考えた上で、それでも男の伴侶になりたいと言った。
「そうか・・・だったら、今から俺たちは夫婦な。とはいっても、基本は今までと変わらな・・・・いや、同じか?」
「え・・・っ?」
家族になっても同じと言われ、少女に不安の色が浮かぶ。それを見られて、男に抱き寄せられる。
「だって、そうだろ? これからも、お前とこうやって過ごすんだ」
抱き寄せた少女を思い切り抱きしめる。
「飯の途中でなければキスしたんだがな・・・・」
「・・・しましょうよ」
「いいのか?」
「いいの。だからおねがい・・・して?」
目を閉じて差し出されたら、断れるわけがなかった。男は自分のしたいままに、少女はされるがままに、唇を重ねる。涙が混じった愛の味がした。でも、それはすぐに離れる。軽く重ねあう、あいさつのような感じだった。
「続きは寝る前な。今は飯を食おうぜ?」
「・・・楽しみは最後に、ってことね」
「嫌か?」
「ううん、待たされるのには慣れているわ。だから、ちゃんと寝る前にはしてね?」
「ああ。だから今は食事に集中しようぜ」
黙々と食べ進めていく。静かな部屋に食器の立てる音だけが響く。そんななか、男が空になった皿を持って立ち上がろうとする。
「片付けならわたしがするわ。貴方はゆっくりしていて」
「いや、おかわりだ。全力疾走してエネルギー使い過ぎたみたいだ」
「だったら、なおさらわたしがするわ。貴方は座って待っていて」
「いや、お前はまだ食べている途中だろ?」
「いいの。少しは奥さんらしいことさせて?」
「むぅ・・・わかった。頼む」
「ええ。少し待っていてね」
にっこりと嬉しそうに笑いながら、少女は男の皿を受け取る。おかわりを入れると、すぐに男の元へとそれを持ってきてくれる。
「はい、どうぞ」
笑顔を絶やさず、男の為に何かができて、本心から喜んでいる顔だった。
そんな少女の笑顔に癒されながら、男は少女の指を見て気づく。その指に刻まれたいくつかの切り傷を。少し血が滲んでいるその指は、料理が上手な少女では決してありえない傷だった。
「お前・・・その指」
「これ? その、泣きながら無理やり作っちゃって・・・途中で何度も指を切っちゃったの・・・・・下手くそでごめんなさい・・・・・」
恥じらう様に、舌を出しながらはにかむ。冗談めいた調子で言っているが、それはどれだけ少女が精神的に不安定な状態で料理をしていたのかを示していた。
「・・・痛かっただろ?」
その指を痛まないように握りしめる。男の口調は、その時の少女を見ていたかのようだった。
「・・・ええっ、貴方を失う痛みは・・・・とても・・・痛かったわ・・・・っ!」
思い返すだけでも涙が出てきてしまう。胸も苦しく、痛くなって呼吸がおかしくなりそうだった。でも、涙だけで落ち着く。
「でもね・・・・この服で作った、貴方との思い出が・・・・少しだけ苦しみを和らげてくれたの・・・・・だから、わたしは最後まで・・・・料理ができたの・・・・・・」




