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第五章 5

 少女を手放したくない。少女を失いたくない。少女を幸せにしてやりたい。そして何より―――

「お前を愛したいっ! お前だけを、愛していたいんだっ!」

「っ!?」

 想像もしていなかった男からの言葉に、少女が目を見開いて驚く。

 言葉が届いたことを感じると、男は熱く口づけた。

 突然の告白に驚いていた瞳はすぐに閉じられて、少女も男を求める。腕を背中に回して、服を強く掴んで離れないと・・・離れたくないと伝える。

 男も強く抱きしめ返し、少女を想いのまま飽きることなく求めていく。

 顔を離して、もう一度表情を見る。少女は未だ信じられないといった顔で男を見ていた。

「ほ・・とに?」

 興奮して声が上手く出なかった。それでも、懸命に言葉を伝える。

「ほんと・・・に・・・・わたし、は・・・いても・・・・いいの?」

「ああ、側にいてくれ。お前がいない日常なんてありえない」

「あいして・・・くれる・・の? こんな・・・人を苦しめてきた、わたしを・・・・? 貴方だって・・・! わたしは・・・・っ!」

「俺の命なんざお前にくれてやる。だから、俺はお前をもらう。それでいいか?」

「・・・・っ! うん・・・っ! うんっ!! わたしを・・・もらって・・・・? ほんとうに・・・もらってくれるの・・・・?」

 半信半疑な少女へと、男は明確な言葉で返事をする。

「俺と・・・結婚してくれ」

「あ・・・! っ! ~~~~っ!!」

 感極まり、身体が大きく震える。かつて求めていたもの、その全てが今男から与えられようとしていた。

「・・・はいっ!」

 笑顔を浮かべ、涙を滴らせる。失くしたと思っていたものが、何一つ失っておらず、さらに新しく増えたことに対する喜びだった。

 溢れかえる涙を手の甲で拭っていく。男の腕の中で、幸せの涙を味わう。

「うれしい・・・っ! うれしいわっ! うれしすぎて、もう何が何だか、わからないわ・・・・っ!」

 感情のままに泣いていく。これまで一度も流したことがない、流すことができなかったモノを。男だけが、孤独な少女にこの涙<<ココロ>>を与えた。

「すきっ! だいすきっ! すき、すきぃ!」

 涙を拭うことを諦めて、もう感情に任せて行動する。男の胸に手をあて、精一杯の笑顔で見上げる。そして、馬鹿みたいに単語を繰り返して羅列させる。

「だいすきっ! すきよっ! だいすきよっ! 愛してる! ずっと愛してる! いつまでも、ずっとずっと・・・貴方を愛していますっ! 愛し続けますっ!」

 誓いの言葉のように少女は言う。

「俺も・・・お前を愛せるように努力する。だから、『今は』お前を愛していたいという状態でもいいか?」

「うんっ! うんっ!! それでも嬉しい・・・っ! 愛してくれようとしてくれているだけでも、嬉しいわっ!」

「・・・ごめんな。まだお前を『愛している』と言えなくて・・・・だからせめて」

 少女の顎に手をかけ、涙を流し続ける瞳を見つめながら言う。

「残りの時間をかけて、お前を幸せにする。そして、愛させてくれ」

 それだけを言うとまた口づける。

 何が何でも幸せにして、いつか必ず、少女に愛していると伝える・・・誓いの口づけだった。だが、少女はもう幸せだった。なぜなら、男は気づいていないだけで、もう自分を愛してくれていたからだ。こんな自分のことを知って、これほどまでに想ってくれていることが、何よりもの証だった。

 閉じた瞼から零れ落ちていくモノがあった。これまで奥深くに潜んでいた暗くて冷たいモノが、男からの想いで満たされ、少女の世界から押し出されていた。

 男という命のかがり火が、絶望の闇を照らす。その命は輝きを放ち、光を生み出して闇を切り裂き、散らしていく。生み出された光は七色へと分かれ、世界を色づける。優しさで満たされた色彩が、色褪せた世界に再び色をつけていく。壊れた世界が、こうして瞬く間に蘇っていった。追い出された孤独が、閉じた瞼から落ちていく。

 孤独な世界が終わりを告げた。男の想いが、少女を孤独から救ったのだった。




「・・・夢みたい。貴方と、またこうしていられるなんて・・・」

 いつもよりは早いが、出来上がったシチューを二人して食べていた。

「今日のは少し違う味がするな・・・・」

「ごめんなさい・・・涙で味がわからなくて、味付けの確認ができなかったの」

「・・・泣きながら作っていたのか?」

「・・・最後に、貴方の好きなものを作ってあげたくて、無理やりに作ったの・・・・・やっぱり、おいしくなかった・・・・・? 残し―――」

「誰が残すかよ・・・・ありがとうな。そんな状態でも、飯を作ってくれてさ・・・・俺はいい妻をもらったよ。それと、最後ってのは無しな。これからも作ってくれ」

「あ、ああのっ?! 妻って、その・・・っ!? えっと、だから・・・・っ!」

 突然の男の言葉に少女は慌ててしまう。確かにプロポーズをされてそれを受けたわけだが、いきなりそういう風に振る舞う心構えが、まだできていなかった。

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― 新着の感想 ―
何が待っているのか、少女と謎の男が何なのか、全く分からないんじゃが、とにかく別れが迫っているんじゃな。でも結婚をきりだして無事結ばれて、よかったのじゃ!妻と呼ぶ男が素敵じゃ!ここからどんな別れが待って…
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