第四章 19
地上に着く頃なので、少女を横に座らせる。身体に力が入らないのか、回されていた腕が簡単に解けた。ぐったりと身体をもたれさせてくる。
「これで・・・すこし? これ以上激しくされたら・・・・ほんとうに、こわされちゃう・・・わね・・・・ふふ・・・っ!」
悦びの色を見せてくる少女に思わず喉が鳴る。このまま壊してしまいたくなる欲望が出てくるが、それだけは口に出して阻止する。
「それはまだ少し先だ」
言ってしまってから気づく。自分はもう少女をそうする気なのだと。もちろん、それに気づかない少女ではなかった。男が自分を強く求めていることを知る。
「そう・・・ね。まずは・・・このきすに・・・なれてからよね?」
色めいた笑みで見上げ、また男の口の端を拭いていく。少女との行為で掻いた・・・口からの汗を。
「・・・おいしかった?」
「それを聞くか・・・・?」
「わたしはおいしかったわよ? 貴方は・・・あんなに求めてきたけど・・・・どうだったの?」
男を拭き終わると、今度は自分の口を拭いていく。
「・・・まずいわけがないだろ」
「ふふっ、そうよね。だって、甘いものはおいしいわよね」
「・・・おい」
「でも、貴方の方がおいしかったわよ? それで貴方は・・・どっちがおいしかった?」
「そういうパターンかよ・・・・」
「うふふっ、ごめんなさい。嬉しくて、つい意地悪しちゃったわ。でも、初めて貴方に求められて・・・・ほんとうに嬉しいわ」
感情が高ぶって少女の瞳に熱いものが浮かぶ。それをまた拭き取って、男へと綺麗な笑顔を見せる。どこか不安そうだった表情がすっきりと無くなっていた。やはり心のどこかで、女としての魅力がないから、求めてくれないのではと考えてしまっていた。が、男が求めてくれたことで落ち着くことができた。それがいま、涙として現れたのだった。
「お前の方がいいに決まっている」
それを察した男が少女を抱きしめて、先ほどの言葉に答えた。間近に見つめあい、互いの心音を感じられるほど身体を密着させていた。
「ありがとう・・・」
少女が甘く口を開いた瞬間、静かにゆっくりと・・・・
「愛しているわ」
ドアが開かれていた。
「えっ?」
振り返ればバイトだろうか、若い係りの者が少女の言葉に顔を赤くしていた。
雰囲気に飲まれていた二人は、ドアの開く音にまったく気づくことができなかった。そのため、少女の最後の言葉が外にも聞こえてしまった。
「あ・・・その、お疲れ様でした・・・・・」
『何も聞いていませんでしたよ』風に装おうとしても、顔を赤くしていては無理だった。
「あ、あう・・・っ!」
同じように少女もすぐに顔を赤くする。男への想いを聞かれてしまったことで、羞恥心が出てくる。
「よし、降りるか。よっと」
「きゃっ?! 貴方、ちょっと何して・・・っ?!」
すぐに降りないと二週目に入るので、少女を抱きかかえて降りる。何も抵抗することができず、すっぽりと男の腕の中に納まった少女は、誰が見てもお姫様だった。目立つ格好で、尚且つ目立つ少女の外見もあって、すぐに注目の的になる。少女の愛らしい外見に周囲の人間が感嘆の声をあげ、それがさらに遠くの人間にも伝わって、視線が次々と二人に集まる。そんなラブラブバカップルよろしくな状態のまま、男は園内から出るまで少女をそうするのであった。
その間、少女は注目される恥ずかしさからしがみ付き、男だけを見るようにしていた。耳まで赤く染まり、それ以上に熱く男を見つめる姿は、恋する乙女という構図をはっきりと明示していた。この時の画像がネット上にアップされ、『女の子マジ天使!!!』『男マジ爆発しろ!!』というコメントが溢れたことは言うまでもなかった。
そんな二人を、遠くから別の意味で見ている者がいた。。
「今回はおかしい感情ばかりと聞いていましたが・・・・どうやら本当のようですね」
闇夜に浮かんだ・・・・男の姿をした存在が、ここ数日二人を観察していた。甘ったるい二人の感情を、これでもかといわんばかりにぶつけられており、どこか疲れた様子であった。
「全く・・・・大した役者ですよ。人間にああまでするとは・・・・だからこそ最期の感情が大きくなるわけですが・・・・・そこまで行く過程の感情が、これまでと違い過ぎるのが気がかりですね。やはり、一度接触する必要がありますか」
そう言いながら、現状報告の為に自分の世界へと戻る。次にこの世に来るときは、二人への接触の時だった。
帰りに食事をして、部屋へと帰ればすぐに寝る支度を整え、今日の疲れもあってすぐに眠りにつく・・・・と思ったがそうはならなかった。
「ねえ、寝る前に観覧車でしたキスしてくれる? デート最後のおねがいよ」
「その日が終わるまでがデートか・・・・」
「して・・・くれないの?」
「本気で涙を浮かべないでくれ・・・・」
「だって、あの時は求めてくれたのに・・・・・今は求められないのかと思うと・・・・・・ぐすっ!」
「分かった! 分かったから、そんな不安そうな顔で泣かないでくれ!」
「・・・してくれる?」
「ああ・・・ただ、優しくしかしないぞ?」
「・・・うん、慣れてきたら激しくしてね?」
「俺の理性が壊れなかったらな。壊れたらもう知らん」
「ふふっ、それはそれでいいかも・・・・んっ」
抱き寄せて、優しく重ねる。今度は配慮をしながら、ゆっくりと少女と交わっていく。
二人のデートが終わりを告げるのに、もう暫くの時間が必要だった。




