第四章 18
そうして男の口の回りを拭いてやり、それが終われば自分も拭いていく。少女は用意が良く、最後はウエットティッシュで綺麗に拭いていく。
「・・・やれやれ、なんか疲れた」
「あら? じゃあ、もう一回しちゃう・・・? 甘いものが足りてないのよね?」
「って、おい! なんでまだアメがあるんだよっ?!」
少女がポケットから飴玉を取り出して男に見せていた。それに思わず突っ込みを入れてしまう。
「うふふっ! 誰も一つだけなんて言ってないわよ?」
片目をウインクしながら、舌先をチラリと見せる。そんな可愛い女の子だけに許された行為を、可愛すぎる少女がするのだから、可愛くないわけがなかった。
「待てよ・・・お前『Fragment』で知っていたなら、わざと知らないふりしてキスさせたな?」
「・・・思いだしたのはキスしてもらってからよ? だから・・・わざとじゃないわ」
男に疑われたことに胸が苦しくなる。浮かれてしまって、また誰かから疑いをもたれることを繰り返してしまうのかと思うと、これまでの光景がフラッシュバックして泣きそうになってくる。特に、男にそう思われるのが一番辛かった。
「む・・・じゃあ、キスした俺のせいか・・・・・」
だから、少女の言葉を疑うこともなく、自らを省みる男が嬉しくて、何度だって少女は男へと抱きついて、唇を重ねてしまう。小さな音を立てて、飴玉が少女の手から男の側に落ちた。
「・・・好き、だいすき・・・・好きよ・・・」
口を離すと感情のままに涙を流して、少女が熱く男に囁く。溢れでる感情のように、水滴もぽろぽろと落ちていく。
「急に泣きだしてどうしたんだ?! また、俺が何か傷つけるようなことでも・・・・」
少女の急激な感情の爆発に、男も流石に慌てる。だから、好きだと言われているのに、涙だけ見て勝手に勘違いをしてしまう。
「違うの・・・っ! 貴方が・・・わたしを疑わないでくれたのが、嬉しくて・・・・!」
「なんでそこまで・・・」
「だって・・・・わたし、今までこういうことをしてしまって・・・ずっと、誰からも信じてもらえなかった! 意味を取り違えられて、勘違いされて違うっていっても・・・・誰も信じてくれなかったわ・・・っ! 誰も・・・わたしの言葉を信じてくれなかった! だって、わたしが―――ぅむっ!」
そこから先の言葉だけは、絶対に言わせるわけにはいかなかった。だから迷路の時と同じようにして口を塞ぐ。
「それだけは絶対に言うな・・・それは、お前のせいじゃないって言っただろ?」
「でも、でもぉ・・・・っ!」
いままで隠れていた感情が、簡単に引くことはなかった。
「お前は何も悪くない。俺は何度だってそう言ってやる。なんでお前が悪いなんてことになるんだ?」
強く抱き、頬に手を添えて自分の顔を見させる。男の目は少女に対する優しさを浮かべながら、その奥では少女を苦しめるモノに対する怒りが燻っていた。
「・・・・どうして、貴方はそんなに優しいの・・・・・?」
何度もした質問をまた繰り返す。それに男は嫌な顔も呆れることもせず、少女が分かるまで返事をしていく。
「・・・・好きな女に優しくするのは当たり前だろ?」
「・・・わたしの言葉を・・・・・信じてくれたのも?」
「ああ。そもそも、お前は嘘をつけないから苦しんでいるんだろ? だったら、そんな存在の言葉をなんで疑う必要がある? それも、好きな女の言葉を」
どこまでも男は理解してくれている。理解しようとし続けている。それでいて想ってもくれていて、そんなかけがえのない、唯一無二の存在だった。
「・・・・っ! ありが・・・とう・・・・ほんと・・・に・・・・・だいすき・・・よ・・・・・っ!」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、震える声で言葉を紡ぎながら、少女が笑顔を浮かべる。悲しみと苦しみの中に、嬉しさの混じった涙を流して笑顔を見せる。
「そういえば・・・『Fragment』だと、お互いにしていたよな」
男が飴玉の入った小さな袋を拾い、袋を破って中身を口に含むとキスをする。今度は男からだった。
先ほどと同じように少女の方にアメを移すと同時に、男はそのまま少女を求める。悲しみも苦しみも、全て自分の色で埋め尽くしてしまいたいと思ってしまった。
「んっ?!」
初めこそ驚いたが、すぐに少女は目をつむって男を受け入れた。何よりも求められたことが嬉しくて、少女からも男を求め返す。
荒い息と、飴玉を使って踊るダンスの音だけが、静かな観覧車に響く。
少女の頭はもう熱に浮かされ、ただ男だけを求めることに夢中になる。男も手加減をするつもりなど一切なく。貪欲に少女を求めていく。その激しさがますます少女を泥酔させていく。互いに強く抱き合って貪りあう行為は、観覧車のスタート地点に近づくころ終わった。
「はぁ・・・はぁっ! ん・・・っ!」
少女は荒く息をしており、すぐには呼吸が整いそうになかった。その瞳も蕩けさせられ、ふやけた視線を男に向けていた。一方、男も久しぶりの感触に尾を引いていた。もしもここが部屋だったならば、もう最後までしていた。ここから帰らないといけないということが、最後の一線を踏みとどまらせた。
「・・・きすって、こんなに・・・・すごいの・・・?」
「手加減しなかったから・・・・まあ、少し激しくし過ぎたかな?」




