第四章 17
今度は向きを変えて、男の膝をまたぎ正面から抱きつくようにして座る。
「まて、この姿勢もおかしいだろ?」
「何がおかしいの?」
「女性が足を開いて男の上に座るなって・・・はしたないと言われるぞ?」
「・・・誰に? 貴方以外の人にはしないからいいでしょ?」
「なんでそう押せ押せなんだ?」
「やっと二人になれたのよ? だったら、その間に一杯・・・・いちゃいちゃしましょう?」
「いつの間にそんな言葉覚えたんだ?」
身体をくっつけ、体重ものせられて、男は動くことができなくなってしまう。思い切り突き飛ばせば逃げられるが、そんなことできるわけがなかった。
「貴方の本にそんなこと書いてたわよ?」
「・・・それより、外を見るんだよな?」
「そうね」
そういって外を共に眺めていても、男の頭には少女の身体の柔らかさ以外なにも認識できなかった。押し付けられる胸部が、のしかかる臀部が・・・密着するすべての部位が少女の持つ女としての柔らかさを男に伝える。
「・・・そういえばあの子から何を貰っていたんだ?」
何か意識をそらすことをしなければ、男はもう我慢ができそうになかった。
さっきの子供が、別れ際にお礼といって何かを渡していたのは見ていたが、なにを渡したのかまでは分からなかった。掌に収まるくらい小さなものだということだけ分かっている。
「・・・これよ」
ポケットからモノを出す時に身体が離れる。それがこれほどありがたいと思ったことはなかった。
「アメか・・・なんというか子供らしいお礼だな」
「そうね・・・でも、うれしいわ。わたしにもあの子を喜ばすことができて・・・・」
穏やかな笑みを浮かべる少女に、男も高ぶっていた感情が少しずつ薄れていく。不思議なことに、こういう純粋な少女をみると、そういう気分がなくなっていく。もしそうでなければ、自分は何度少女を襲っていたか分からないくらいだ。
「・・・食べる?」
「お前が貰ったんだから、お前が食べたらいい。疲れているだろうから最適だろ?」
「でも、それは貴方もだし・・・・」
「一個を二人で食べるのは無理だろ?」
「・・・そう・・なのかしら?」
少女が少しだけ考え込む。すると答えは出なかったのか、大人しく飴玉を口へと含む。
「・・・甘いわ」
口内に広がる甘さで、目を細める少女が可愛らしい。そんな愛くるしい姿に男も上手く毒気が抜けて言ってくれた。保護対象として見られる内は、そんな感情が出てくる隙間などはなかった。
「そうか・・・よかったな」
だから男は、子供にするような感覚で頭を撫でてしまった。
「なぜかしら・・・いまわたしが子供扱いされている気がするわ・・・・・」
それに少女は敏感に反応する。不服そうに男を見る。
「そんなことないぞ? いつもこんな風じゃないか?」
「ほんとうに・・・? だったら、キスしてくれる?」
「・・・今日だけで何回キスしたと思っているんだ? あまりし過ぎると唇荒れるぞ?」
「だったら、それは恋人の印よ? それでも、して・・・くれないの?」
「・・・やれやれ。お互いキス魔だな」
「ふふっ・・・それだけ好きなのよ?」
本日何度目か不明の・・・少なくとも10は超えている、口づけを飽きもせずにする。
互いの口が重なり合うこの状態で、少女はふと思いついた。だからそれを実行する。
男を逃がさないようにと腕を回してしがみ付き、男も自分を抱きしめてきたことを感じると、そっと―――
「ん、んんっ・・・」
少女の行動に男が驚きで目を見開く。思わず背中を引いて逃げようとするが、元々後ろなどはなかった。そんなうちに男の口に甘い味が強く広がっていく。それを感じると少女が顔を離して、息もかかる距離で男を見つめてくる。
「・・・どう? 甘いでしょ?」
それは、どこか妖艶な女の顔であった。
「こうすれば、一緒に食べられるわよ?」
「だからって口移ししてまで食べさせるか?」
「恋人なんだから、それくらい普通でしょ? 『Fragment』でもそんなシーンがあったもの。だから、今度は貴方がわたしにして?」
返事も聞かずに口を重ねると、すぐに少女がノックしてきてせがんでくる。拒めば無理やりにでも入り込んでくるのは目に見えていたので、大人しくアメを少女へと移す。そして、少女がある程度味わえば、次は男へと移す。それを何度か繰り返すうちに、アメは溶けてなくなっていった。
そんな行為が終わるころには、観覧車は頂点から下り始めていた。
「ん・・・っ」
糸を引いて離れる口と口。それが切れて落ちる前に、少女は器用にもティッシュで受け止めていた。
「拭き取るから、じっとして・・・ね」




