第四章 13
いざそこから出てきて見れば、少女は身体を震わせながら、また涙を流して泣いていた。
「ひくっ・・・ううっ・・・・えっぐ・・・・おわり? ほんとうに・・・ひっく・・・・おわり・・・? もう・・・だいじょうぶなの・・・・・・? ぐすっ・・・・もう、いない・・・・?」
涙で滲む声をあげながら男に確認していた。
「もう外だから怖くないぞ? だから、目を開けて大丈夫だ」
優しく頭を撫でられ、よく耳を澄ませて聞いてみれば外の雑音もしていたので、心の底から少女は安堵して目を開けた。今まで怖くて開けられなかった瞳が開かれる。
ゆっくりと開かれていく金色の瞳は、夜空に浮かび上がってくる月のようである。涙にぬれて輝くそれは、天上の宝石であった。少女が怖くて泣いていたのに、不謹慎にもそれを綺麗だと思ってしまう。その輝きが男の目に射し込まれると、柔らかく細められた。
「・・・よかった。ちゃんと、貴方がいてくれて・・・・」
男の姿をみて落ち着く少女。恐怖心からありもしない幻聴を聞いているだけではないかと思っていたので、その眼で男を確認できて本当に落ち着くことができたので涙も止まる。
「ずっと抱きついていたのに不安だったのか?」
「怖くてそんなの分からないわよ・・・・」
ハンカチで本日三度目となる涙拭きをする。目元はもう見るからに赤く腫れていた。
入ってすぐに暗闇に脅え、仕掛けに驚いて少女は男にべったりとくっついた。ことあるごとに驚くと、その度に男にべったりとして、最終的にはもう離れるのもいやだからと、全身の全てを男に密着させた。
それはもう色々と柔らかくて大変だった。ことあるごとに腕を挟み、柔らかさをこすり付けてくる感触。身体に抱きつかれたら、押しつけて柔らかく形を変えたその感触を、男に幾度となく前後左右から味わわせた。そんな刺激を与え続けられていたので、男はずっと少女を見ており、仕掛けに驚く余裕などはなかった。
もう少し自分が若かったら間違いなく少女を襲っていた。というよりも、今この時点ですらその感情を拭いきれていないので、これ以上の刺激は勘弁してほしかった。
「・・・少し休憩するか? だいぶ精神的にまいってるだろ」
「うん・・・・慰めて・・・くれる?」
「・・・ああ、普通にな」
一瞬意味を取り違えてしまい、反応に少し遅れた。幸いにも精神が完全に落ち着いていないので、それに気づかれることはなかった。
今度は暖かな場所で休憩をとることができた。周囲には人目もあったので、過度なスキンシップも避けることができる。寒空でのキスシーンをしたり、されたりすれば今の男は暴発することを自覚していた。だから人目のある場所がありがたかった。
座ってコーヒーを飲みながら、肩に頭を載せて寝ている少女を見る。感情の起伏でかなり疲れているのだろう、こうして座っていたら気づくと寝息をあげていた。目をつむって身を預け、無防備極まりないその愛くるしい姿は、ある意味邪な目で見ることができない分、男としては助かった。
女としての顔を見せる少女には、もうそういった目でしか見られなくなっていたが・・・・思い返すと、そういった顔を見せたのは、今少女が着ている服を買いに行った日からだった。
(『恋人』以外の娘としての振る舞いをして、悲しませたから謝っていたら急にあんな顔をしだしたんだよな・・・)
世界が切り替わった瞬間は、今でもはっきりと覚えている。そこから一気に『恋人』ではなく、恋人になっていった。少女に好意や愛情を向けられて、そのココロに魅せられて・・・今に至っている。そんな創作物語のような関係だった。
(これが優しい物語なら・・・・ハッピーエンドなんだがな・・・・・)
ついだコーヒーを飲みきるとため息がでてしまう。生憎この世界は、そんな優しいものではないと身をもって知っているからだ。光のかけらさえ見えないこんな世の中で、どう希望を持てというのか。ただ絶望を味わう為だけに生きているようなこんな人生など・・・・
(ヤバいな・・・・この娘の前で暗い考えはしないように気をつけないとな)
自分の気を落ちつけようと、眠っている少女の頭を撫でる。いまや男にとって、最後に残されたかけがえのない存在だった。少女がいてくれるからこそ、自分は堕ちずにすんでいる。この娘が現れるまでの生活は、それはもう悲惨の一言に尽きた。
その髪は手入れがされているわけでもないのに、常に触る者にこれ以上はないと思わせる気持ち良さがあった。その心地よさに毎回癒される。飽きるまでこうしていたいくらいだった。
(・・・ちょっと連れまわしすぎたかな? 最後にアレに乗って、そろそろ帰るか)
そんなことを考えていると少女が目を覚ました。
「んっ・・・?」
「悪い、起こしたか?」
「・・・だいじょうぶだから、もっと撫でて欲しい」
「それしたらお前また寝るだろ?」
「・・・・・そんなことないわ」
その間で絶対に無理だと思ったから、素早く男は手を引く。
「疲れているなら、定番の締めに乗ってから帰るか?」
「・・・怖くない?」




