第四章 11
「それは・・・何度謝っても謝りきれないな」
「ううん・・・あなたは悪くないわ。わたしが感情的に相手のことを否定してしまったから・・・・だから、わたしが同じことをされてもしかたないの・・・・・・・・」
「・・・らしくなかったな」
「それは・・・その、貴方に抱いてもらえたのが羨ましくて・・・・」
「嫉妬したのか?」
「・・・そうよ? だって、今はわたしが貴方の恋人で・・・・・貴方の・・女なんだから・・・・・」
少女が飲み欲した紅茶の缶を、男は手を伸ばして隣にあるゴミ箱へと入れる。そして自分も冷えたコーヒーを一気に飲み干す。冷たい液体に身体を冷やされ、少女の温もりを求めて抱き寄せる。
「いま俺が好きなのはお前だぞ?」
「だったら、今晩抱いてくれる?」
抱かれた女への嫉妬からそう言っているのは明白だった。いくら待つと言ったとはいえ、違う女の話をされたのではたまったものではない。男もそこは理解できたが、それでも言葉は変わらなかった。
「・・・それはまだ早いって言っただろ?」
「どうして?」
「そういう行為をしたから相手を勘違いさせたんだ。だったら、はなからしなけりゃいい」
「・・・・っ! わたしのこと・・・好きじゃないの?」
「好きだ。好きだからお前の涙だけはみたくない。泣かせた後に言うのもあれだけどな」
「だったらどうして・・・・? わからないわ・・・・」
「俺はな・・・愛するってことがよく分からん。だからお前にも、好きだとは言っても愛していると言ったことはないはずだ」
「じゃあ・・・わたしが愛していると言っても、届いていないの・・・・?」
「いいや。お前の言葉だけは特別だ。素直に心から信じられる。だから俺も嘘はつかないようにしている」
「特別なら愛しているということにはならないの?」
「特別だから愛していると言えるのか、愛しているから特別なのか・・・そう割り切れるものだとも思えないんだ。少なくとも、お前を抱いておきながら、結局愛しているか分からないと言うのは・・・残酷すぎると思わないか? お前は純粋に愛してくれているのに、当の俺はそれを貰いながら、自分からは返せない・・・・それがお前を傷つけるのは目に見えている」
「・・・それでも、抱いてと言えばしてくれるの?」
「いいのか? 愛するわけじゃなく、ただ抱くだけだ。男の欲望に利用され、その後は空しくなるだけで・・・・・それでも俺に抱かれたいのか?」
「・・・嘘でも愛してると言ってくれたら、わたしはそれで―――」
「偽りの言葉が欲しいのか? 心のない。そんな飾りだけの言葉をか?」
「・・・・いじわる。こんなにも好きにさせて、愛してくれないの?」
それ以外もうなにも言えず、身体を密着させて訴えかけるように男を見上げる。
「・・・悪い。けど、お前を好きなのは嘘じゃないぞ?」
「・・・貴方って意外と酷い人なのね。Likeは120%なのにLoveは不明だなんて」
もちろん本心から言っているわけではない。これくらいの皮肉くらいならいいだろうという考えだ。
「そうだな・・・だから、あれ以降俺は女と付き合えなくなっちまったよ。貴方の考え方は重すぎてついていけないってな・・・・お前も流石にこんな情けない男には呆れるだろ?」
軽い口調でそういいながらも、男は無意識に少女を離さないようにときつく抱きしめていた。なんだかんだいいながら、少女を失うことを恐れていた。恐れていながらも、嘘で塗り固めたり、誤魔化したりすることもなく、素直に少女と向き合っていた。
迷路の時の少女と同じく、男も独りに戻るのはこりごりだった。失くした温もりを、見失った光を、再び手に入れた時からその気持ちがあった。
「わたしが・・・・そんなことで貴方に愛想を尽くすと思うの?」
どこか突き放すような男の言葉と、それに反対して抱きしめて離さないと言う行動の意味を、少女は自分なりに解釈していた。男はいま迷子になっているのだと。色々と考えすぎて、色々と信じられなくなって、どれが本当なのか分からなくなっている。想いやるココロが強すぎて傷つけることまで考えてしまい、優しさが柔らかくなりすぎて、断ち切ることができないままでいる。
男の行動は雄弁に物語っていた。愛したいと。そう感じとった少女はおもむろに男へと顔を近づけ、外だというのになんの躊躇いもなく唇を重ねる。自分なりの愛情表現を伝えた。わたしは貴方を受け入れますと、その行為がいっていた。
「わからないのなら・・・一緒に考えましょ? 一緒に・・・育みましょう?」
まっすぐに、どこまでもまっすぐに男を見つめる。その純粋すぎる眼差しは、迷うことなく男を愛していると、嫌でも思い知らせる。
「・・・お前にはかなわないな」
「それはわたしが貴方に思っていることよ?」
「そうか?」
「ええ、そうよ? もう貴方に骨抜きにされて、こんなにも夢中なんだから・・・・んっ」
二度交わらせる。もはや外とか周囲など関係なかった。
「好きよ。大好き・・・貴方を、愛しているわ・・・・・」
最も優しい声で伝えられるまっすぐな言葉を・・・・そのあまりにも綺麗すぎる言葉が、男には眩しすぎて直視することができなかった・・・いや、その資格がないとすら思えた。だから顔をそらそうとするが、それを少女は両手で頬に触れ、三度交わす口づけで防ぐ。
「そらしちゃダメ・・・ちゃんと・・・・受け止めて? わたしの想い・・・・」
熱く潤んだ瞳に吸い込まれる。女の顔を見せる少女を前に、情けない覚悟を決める。




