第四章 5
「なに・・・あれ?」
「空中ブランコだ。乗れば分かるさ・・・んっ? この場合座ればか? まあ、どうでもいいな。それでどうする?」
「・・・貴方と離れないとだめなの?」
強く抱きついてくるその顔が一人になることを拒んでいた。悲しみを浮かべた表情をしてこられるとどうにも困る。
「外側は一人だが、内側は二人だから隣り合って座れば離れないさ」
その言葉を聞いた少女が一転して穏やかな顔になる。
「それなら・・・乗ってみたいわ」
「単純に俺と一緒なら言いとかいうなよ?」
「? それ以外の何が大切なの?」
「いや・・・普通にこの空気を楽しめよ」
「貴方は・・・わたしがいなくてこの空気を楽しめるの?」
「そんなの無理に決まってるだろ」
即答する。こんな恋人や家族といった、誰かといられて楽しいです空間に一人でいて楽しめるわけがない。むしろ惨めさから抑うつ状態になってしまうだろう。
「わたしも同じよ。貴方がいるからわたしの世界は色づくのよ?」
少し取り方を間違えているぞと言いたかったが、こんなことを言われては何も返せなかった。
大人しく中へと入り、二つ並んだ椅子に座って時間までしばし待つ。待っている間、少女の存在は抜群に目立った。黒や茶色といった髪の中で、少女だけが純白を持っていた。黒の瞳を持つ中で、少女だけは金色を持っていた。そんな唯一無二な状態で目立つなという方が無理だった。
恋人と楽しげに喋り、デートを満喫している乙女の姿は、他の人の目が思わずそちらを向く程であった。そんな少女を見ようとしてか、寒空だというのに席が全て埋まった。そして、そこにいる大多数の男が思った。あんな天使のような娘を彼女にしている男が羨ましい『爆発しろ!』と。
そんな内側の感情を知らない機械は、ゆっくりと回転を始める。その遠心力を以って外側へと人間を浮かべて押しやり、ただ自己の役割を果たすためだけに回っていくのだった。
「どう? おいしい?」
「いつものようにうまい。むしろ、お前の作るものでまずいものがあるのか?」
二人は園内に設えられた休憩所兼食事処でお弁当を食べていた。あれからいくつか乗ったりしたら寒さもあって空腹が訪れた。食べるついでに、暖かいところで落ち着く意味も込めてここへと脚を運んだのであった。もちろん、隣り合うように座っている。
「貴方はそういうけど、いつも不安なのよ? ちゃんと貴方においしいって、そう思ってもらえるかしらって・・・・・」
「少なくとも俺好みの味付だ。やっぱりあれか? 愛情が最大の調味料か?」
少女お手製のサンドイッチを食べていく。肉、野菜をまとめてとるのに向いていると思ったからそうしたとのことだった。肉のうまみ、野菜の瑞々しさ、チーズのコク、程よい香りと辛さを演出する香辛料、その全てが食欲を刺激する。
「もう・・・それを言うなら空腹でしょ?」
「愛情は入っていないのか?」
豪華さはないが、丁寧に作りこまれたそれは、決しておざなりにしてできるものではなかった。
「・・・入りきるわけないでしょ?」
頬を染めながらも律儀に返事をする。そんな少女を愛しく思う。
「・・・なあ、楽しいか?」
「どうかしら・・・? 貴方と一緒に居られるのが嬉しいからで・・・楽しいのかまでは分からないわ」
会話をしながら二人は食べ進めていく。
「なかなか難しいな・・・楽しむことができれば、少しは生きていてよかったと思えるんだがな・・・・」
「・・・貴方と出会えてよかった。それで十分よ?」
「だけどそれだけじゃ・・・」
「貴方との思い出があればそれでいいの・・・」
今にも泣きだしそうな笑顔で、そんなことを言われても信じられるわけがなかった。だけど、今の男にはそれ以上は何も言えないし、何もできなかった。
もしも自分に力があれば・・・そんな子供じみた考えをしていることが非常に腹正しく感じていた。
「・・・だったら、やっぱりたくさん思い出を作らないとな」
だから当たり障りのない言葉に逃げる。自分が何かをできるという、自己満足をするための言葉に。何もできない自分をごまかすために。
「そう・・・ね。それがわたし達の望み・・・よね?」
「当たり前だろ? 俺だってお前との思い出が欲しいから、こうしてここにいる」
「・・・うん、ありがとう。わたしと同じ気持ちでいてくれて・・・・」
少女は儚げに笑う。どこか諦めきった表情は見ていて苦しくなるほどだった。
「そりゃ、恋人だから当然だろ? お前のような美少女とだったらいくらでも欲しくなるさ。それに分かるか? 周りの男がお前をそれとなく見ていること? それぐらいお前は魅力的ってことだ」




