第四章 2
男にどれだけ優しくされたか、どんなに気を使ってくれているか、以外とかわいらしい一面とか、そんなことを延々と言われ続ければ、嫌でもちょっかいは控えるようになる。初な反応が楽しかったのに、それがなくて幸せそうな少女をずっと見るのは嫌ではないが、楽しくもないので、構うことは必然と減ってしまった。最近は影で『とんでもないバカップル』と呼ばれていることを男は知っている。
「・・・ずっとくっついていて、暑くはならないか?」
「そんなことないわよ? 暖かくて・・・嬉しいもの」
「そうか・・・・そろそろ駅前で人が増えるから、手を繋ぐことにしような? 腕組んだままだと邪魔にもなっちまうからな」
「む~っ」
離れたくなくて、少女が不満を隠さない声をだす。
そんな姿がどうしようもなく子供の様であり、女性の顔つきをしている時との落差に苦笑してしまう。先日に女性としての包容力を見せられたと思ったら、今度はこの姿だ。少女には天真爛漫と言う言葉が似合っていた。
「向こう着いたらまた組めばいいだろ?」
「・・・してくれるのね? だったら、それまで我慢するわ」
そんなやり取りをして、駅に着き、乗換を幾度か行って小一時間ほどかけて目的の場所を目指す。道中、少女のもつ雰囲気と容姿が人の目を引き、その都度人に見られる。中には振り返ってまで見てくる男もおり、名もなき男たちの視線を楽しませる。もちろんその後は男へと視線が行き、嫉妬のこもった目で見られることになる。恋人握りをしているのを見れば、誰しも二人が恋人だということに気付くからだ。
『なんであんな男があれほどの娘と・・・』『あの男のどこが・・・』『羨ましいっ!』
少女が男にはにかんだ笑みを向けたり、嬉しそうに身を寄せたりすると、それはもう視線の矢となって男に突き刺さる。
『『『リア充爆発しろやっ!!』』』
そんな心の声を男はひしひしと感じていたし、それを甘んじて受け入れるつもりだった。
それくらい思われても仕方がないまでに少女はかわいいし、愛らしい。それに女性らしい身体も備えており、ある意味男の理想的な女の子像でもあるからだ。
そんな存在が一人の男だけを見て、身体を預け、夜にはそういったことをしているのだろうかと想像すると、そんな存在がいない男たちは自分が酷く惨めに思えてくる。だから、そういった目で見られることは仕方のないことなのだと、そう男は受け入れていた。夜のそういったことだけはないが・・・・
「お前って、本当に美少女だよな・・・・」
「?」
急な言葉にきょとんとした顔で男を見る。そういったことすらもかわいらしく、遅れて来た嬉しげな微笑みが、すれ違う男たちの心を奪う。同時に男への視線も厳しくなっていく。
そんな視線に刺されながらも、ようやっと目的地へと辿り着く。そこはやはりと言うべきか、12月ということもありイルミネーションなどのクリスマス仕様の飾りつけなどがされていた。普通の家族連れ以外にも恋人たちが来ており、ここでならそういったことをしていても浮かないどころか、そうしないと逆に浮くことは必定だった。
いちいち一回毎に券を買うのも面倒なので、フリーパスを購入してさっさと園内へと入っていく。
「広いのね・・・・」
「そりゃ、そういう場所だからな。で、何乗りたい? それとも乗り物以外か?」
「・・・えっと」
少女がどうしたらいいのかわからないと言おうとしたとき、絶叫系で悲鳴とも歓声ともとれる声が耳に入り、思わずそちらを向いてしまう。派手な音を立てて勢いよく動く機械に少女の顔が蒼くなる。
「とりあえず、絶叫系はなし・・・っと」
「べ、別に貴方が乗りたいのならわたし・・・・」
「無理するな。ああいうのは合わないと本気で気持ち悪くなるからな。それに、俺も絶叫系は好きじゃない」
「そうなの・・・? 意外ね・・・・」
「何を好き好んで危険のある物に乗りたがる? ああいった事故で死人が出ることだってごくごく稀にある」
「なのに乗りたがる人はいるのね」
「そういったスリル込みで楽しんでいるんだろうな。っと、そういえば・・・」
「あっ・・・うんっ!」
家から出た時と同じように少女と腕を組む。そうなると密着度が強くなり、互いの温もりを感じることができて落ち着く。
「まずは園内全体でも見ていくか? その内お前が気になるのが出てくるだろう」
「外で貴方とこうしていられたら・・・もういいかも・・・・」
「おいおい、それじゃ来た意味がないだろ?」
「・・・それもそうね」
園内を歩いて適当に空いていそうなものを見ていく。すれ違うのは家族、恋人がほとんどで、時にマゾなのか勇者なのか、一人きりの男を見かけたりもする。恋人率が高いこの時期に、独り身を味わってどうするのかと疑問に思うが、そこは人それぞれだと流しておく。とにかく、普段とは違った世界に浮ついている感じがあるのは確かだった。時間のある限り楽しもうと、全力で走っていく子供に振り回される親。思い出を記録に残そうと写真をとる恋人や家族。私たち楽しんでいますという空気を出す恋人。とりあえず、独り身の人間からしたら地獄ともいえる様相を呈していた。男も少女と出会わなければ、二度とこんなところに来ることはなかった。が、運命の悪戯か、なぜかこんな煩わしい季節に、もっとも似合わない場所に自分がいることがおかしくて仕方がなかった。




