第三章 12
「いや、まあ・・・うん、色々とそうかもな」
普段見下ろすことのない男の顔が、視線を変えるだけで幼く感じてしまう。それとも雰囲気の問題だろうか? でも、別に少女にはどうでもよかった。どうでもいいから次の行動をとる。
いつも自分がされるように頭を撫でていく。優しく、丁寧に、ゆっくりと愛おしんでいく。
「なんつーか、恥ずいな」
「そう・・・なの? わたしはいつも嬉しいのだけど・・・・・」
「されている状況を想像するとな・・・・・いい歳したおっさんが、美少女に頭撫でられているとかおかしくないか?」
「? 貴方はそんな見た目じゃないから大丈夫じゃないかしら・・・それに、誰も見ていないから恥ずかしがることもないと思うの」
「まあ、そうか・・・今は二人きりだから・・・・いいんだよな・・・・」
「たまには、わたしもこうやって貴方を甘やかせてみたいから・・・いいのよ。少しは、貴方を労わることくらいさせて・・・・」
そこから会話はなく、男はされるがまま少女の柔らかさと温もりを味わう。
その温もりはもしかしたら赤子の頃の母親のそれかもしれないし、男と女の・・・恋人としてのものかもしれない。けれど、どちらかなのかは分からない。男を慈しむ少女の表情が聖母のようでもあり、聖女のようでもあるからだ。ただ、間違いなくいえることは、少女が男を愛しているということだ。
「・・・・なんか眠くなってきたな」
「このまま・・・・わたしの胸で寝ちゃう?」
「それじゃあ、お前が寝られないだろうが・・・・」
「ふふっ、本当に眠たいのね・・・・貴方のそんな声、初めて聞いたわ・・・・・」
「・・・寝るのは嫌いだ・・・・が、お前と一緒に寝ると・・・・不思議と寝心地がいい気がする・・・・・」
寝ぼけているのか、男が素直に話していく。普段では聞くことができない、弱音に近い言葉を吐く。
「じゃあ、今夜も一緒に寝て・・・いい?」
眠たくて仕方ないのか、少女の胸の中で頭を動かして返事をする。
男を離し、二人で布団の中へと入ると、また同じように少女が男を抱き寄せる。男はそれに抵抗することなく、すんなりと胸の中へとおさまった。どうも心地いいらしく、少女の心音を子守唄代わりにして、すぐに男は寝息を上げる。
「んっ、少しくすぐったいけど・・・・寝心地いいのなら、このままで・・・・」
眠りに落ちる前に、少女は抱きかかえるようにして、男の頭へとそっと口づける。夢の中まで心地よくあって欲しいという願いと、溢れかえる愛おしさを込めて。
「・・・お休みなさい。わたしの・・・愛しい人・・・・・」
最後に一度だけ、思い切り抱きしめて男の存在を胸いっぱいに感じる。
「大好きぃ・・・っ!」
普段は悪夢しか見ない男が、この日は少し違った夢を見た。独り、闇の中で潰れている自分を、優しく抱き上げてくれる腕があった。傷を癒してくれる手があった。安らぎをくれる存在が、寄り添ってくれていた。
少女の愛情が、昨日に続いて男へと安らかな睡眠を与えたのだった。




