第三章 10
(なのに、今のわたしは・・・・彼が捨てずに食べてくれたことが嬉しい・・・・嬉しいって感じてる・・・・わたしの料理を捨てないでいてくれて・・・・嬉しいって・・・・・・!)
男の気遣いに胸が暖かいもので満たされる。
目頭が熱くなる。
(あんなこと言っておきながら、今はこんなに嬉しがるなんて・・・・自分勝手もいいところよね・・・・)
男の優しさに甘えるだけの自分に対してどこか自嘲の笑みが漏れる。もらってばかりで、何も与えられない自分が嫌になる。男に対してあげられるものを何も持っていなかった。
(何もない・・・? いいえ、一つだけあるわ)
決意を固めた少女は布団の上へと戻り、男が出てくるまでの時間を静かに待つのだった。
そうして風呂場から上がってきた男をみて開口一番。
「抱いて」
「はあっ?」
少女の寝間着姿に見惚れていた男がすっとぼけた声を上げた。
「おねがい、抱いて」
「いや、ちょっと待て。俺は今お前のネグリジェ姿をじっくりと見ているんだが?」
「じっくりと見た後は抱いて」
「だから少し落ち着け。そんな連続していうもんじゃないだろ」
「・・・もう見終わった? だったら抱いて」
「まだだ、もうちょい待て。あ、言っとくが抱かないからな」
そういって布団の上で女の子座りが似合う少女を見ていく。ネグリジェだけあってゆったりとした装いだ。少しフリルをあしらって、それとなく可愛らしさを出しているのも少女に合っていいが、少しばかり生地が薄いような気が・・・
「どうし――」
「なあ、なんか生地薄くないか?」
男の質問に答える少女の習性を利用して、質問を投げかける。
「・・・・貴方と一緒に寝るのだから、厚すぎないほうがいいでしょ・・・?」
ぽっと、頬を赤く染めながらそんなことを言う。
「それと、丈は短くしたんだな。なんでミニにしたんだ? 寒いだろ?」
「普段が長い丈だから、部屋でくらい脚を見せたほうが男の人も喜ぶって言ってたの・・・・わたしは別に寒さは平気だし・・・・・その、どうかしら・・・・?」
「ああ、綺麗な脚だ」
「そ、そう・・・?」
顔が赤くなっていく。こんな初な反応をする少女が、顔色を変えずに抱いてと言うのは、色々とおかしい。
「前まで下着姿で見ていたはずなんだが・・・・こうやって服を着て見せられると、強調されるような気がするな」
「・・・服を着たほうが迫るのに有効なのかしら?」
「だから、抱かないぞ? 一緒に寝るだけな。それより・・・お前そんなに胸あったのか?」
「・・・・っ!」
嘘の発言に少女が胸元を慌てて隠す。こんなことをしている辺り、本音で抱いてと言っているはずがなかった。
「お前な~。本当に抱いて欲しかったら、こっから普通たたみかけるだろ?」
「あ・・・っ。ち、違うわ・・・つい流れでそんな反応しただけで・・・・」
「無理すんな。ったく、何を焦ってる? お前らしくないぞ?」
少女の隣に座り、その頭を優しく撫でていく。それだけで少女はもう骨抜きにされる。
「だって・・・わたし、貴方に何もしてあげられていないから・・・・だから、身体くらいしか・・・・・」
「そんなことないさ。お前は俺に飯を作ってくれているし、一緒に居てくれている。なにより、あの時ショッピングモールでお前は―――」
思いだすのはショッピングモールでのこと。ミスをして少女を悲しませ、どうしようもなくただ抱きしめて、謝ることしかできなかった、そんな不甲斐ない自分に少女は言ってくれた。『ありがとう』『一人じゃなく、二人で背負いましょう』と。
誰からもかけてもらえなかった言葉を、ただ一人男の心に気付いた少女だけが口にしてくれた。
「―――俺を救ってくれた」
そういって少女を抱きしめる。もう自分もこの少女に狂っていた。狂っているからこそ、欲望なんてもので少女を汚したくなどなかった。
「お前はな・・・もう十分すぎるくらい・・・・俺にくれてるんだよ・・・・・だから、これ以上貰っちまったら罰があたっちまう」
「そんなこと・・・」
「あるんだよ。お前が気づいていないだけで、すでに両手に抱えきれないほどの物をくれた。そんなことを言ったら、俺なんてせいぜいお前を甘やかすこと・・・それすらロクにできていないんじゃないか?」
「そんなことない! 貴方はわたしに優しくしてくれた! 貴方はわたしに温もりをくれた! 貴方は・・・いつもわたしを想ってくれている・・・・っ! 見てくれているわっ!」
少女も強く抱き返してくる。
「俺は・・・普通のことをしたにすぎないぞ?」
「そんなの・・・わたしだってそうよ・・・・わたしのほうこそ、貴方に救ってもらったのよ・・・・・? 貴方だけがわたしの手を握って引いてくれた。愛しいという感情を思い出させてくれた・・・・貴方だけが、否定されるわたしを受け入れてくれた! さっきだって、貴方はわたしを守ってくれたっ!」




