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第三章 9

「でも・・・」

「後片付けくらいならたまには俺がやる。だからお前は気にすんな」

「・・・わかったわ。これ以上迷惑をかける前に、貴方の言うとおりにするわ・・・・ごめんなさい・・・・・」

 自分でも冷静でないことは分かっていた。だから間をおくようにという男の言葉も理解できた。

「でも、その前に・・・・」

 少女が男に強く抱きつき、しばらくそのまま温もりを感じる。落ち着かない心がある程度治まれば自ら離れて風呂場へと向かう。それを見送り、男が一人何とも言えない気持ちを漏らす。

「・・・あいつに申し訳ないと思うが、ああいう感情を見せてくれるのも・・・嬉しいもんだな・・」

 初めの頃はどうでもよかったように振る舞っていた少女が、今や少しでも男を否定すると、それをかばう様に怒りを露わにする。その感情の変化が正直なところ嬉しかった。

「・・・さてと、とりあえず片づけていくか」




(・・・・・やっちゃったわ)

 男に買ってもらった寝間着――ネグリジェ――に着替え、寝る準備の整った少女が布団の上で女の子座りをして顔を真っ赤にしていた。

 あれから風呂場へ行くと、早く男に入ってもらおうとして淡々と身体を洗っていって素早く上がった。そして事件が起きたのは風呂上り。なんと少女は寝間着はおろか、下着すら持ってくることを忘れてしまい、バスタオルを巻いて上がるという恥ずかしいことになってしまった。

(あの時の彼・・・・コタツから起き上がるほど驚いていたわね・・・・)

 少女が下着を取ろうとして、コタツを少し早歩きで横切ろうとした瞬間、男が意味不明の言葉を上げながら、コタツから急に脱皮したのであった。その後は用意していた着替えを持って脱兎のごとく風呂場へと消えた。

 男からしたら、いつもと違う雰囲気の少女を心配して、そっちを見上げたところタオルの短い丈を翻しながらの急接近に、ローアングルからの角度がそれはもう大変なことになりそうだったので、文字通り必死になって頭を起こした。今、男は風呂場に残る少女の香りと、このことでのぼせていた。

(・・・タオル一枚で上がるのが・・・・こんなに恥ずかしいなんて思わなかったわ・・・・・・)

 間をとったおかげもあるが、このことで先ほどまで渦巻いていた感情がどこかに消し飛んでいた。

(でも、彼がどぎまぎするほどのことなのかしら・・・・? 一応、タオルで巻いて隠していたのに・・・・?)

 少女は男の苦悩を知らない。

(それにしても・・・何もせずに待っているのは暇だわ)

 男の片付けを信頼していないわけではない。それでもつい確認するようなことをしてしまう。鍋を開けると残りがあり、明日の昼の分として使えそうだった。食器も四人分が洗われており、お玉なども全て洗われていた。料理で出たゴミを確認してみると・・・

(おかしいわ・・・・)

 生ごみが鍋を作った分しか入っていなかった。軽く確認して、他にそれらしきものがないことを知ると、少女が閃く。

(・・・食べたの?)

 思い返すと良くない感情まで出てきそうだが、あの二人の残した分が綺麗になくなっていた。

(どうして・・・?)

 そんなことは分かっている。男が少女の作ったものを出されて残すことはなかった。残すくらいなら無茶をしても全部食べてくれることを知っている。

(だから、コタツで横になっていたの・・・?)

 普段食後横になるのは気持ち悪いからとしないが、どうしようもないほど食べた時は素直に横になる。初めの頃、男の食べられる量を把握するまで何度か見た光景だ。


『や・・やべぇ・・・・食い・・すぎた・・・・』

『そんなに・・・・なるまで、食べなくてもいいのに・・・・・・誰も全部食べて・・・なんて言ってないわ・・・・・・』

『なに・・・美少女の手料理を残すのは・・良くないことと相場は決まってんだよ・・・・・』

『貴方、ばか・・・なのね・・・・・そんなの、捨てたらいいのよ・・・・・』

『せっかく作って貰ったのに・・・・もったいないだろ・・・・?』

『・・・ばかみたい。どうせ私は―――』


(いやっ!)

 それ以上思い出したくなくて記憶を閉じる。

 出会ったばかりの頃、少女は男に対してきつく当たっていた。

(どうして・・・・少し前のわたしは、彼にあんな態度をとっていたの・・・・・?!)

 今では到底考えられないことだが、あの時は男に対する戸惑いがイライラとして表現されていた。理解できない男の行動に、正直嫌悪感に近いものを持っていたと思う。そんな少女に対しても、男は今と変わらない態度で接していた。接していたからこそ、少女もそれに感化され、すぐに柔らかくなっていった。

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