第三章 7
感情的に噛みつこうとした時、手に触れる暖かいものが少女を抑える。男が手を握ってきていた。思わず握られた手を見ると、男が手をなぐようにして伝える。気にするなと。
それでも少女は納得できず、感情をなるべく抑えて答える。
「・・・優しいからよ」
「ん~、確かに優しいとは思うけど・・・・それだけで好きになんてなる? やっぱりお金かしら?」
「お金と人間性は別でしょ?」
「あらあら~、お金の重要性を理解できていない辺り、まだまだ子供なのね。というより、こんな子供に手出すなんて先輩犯罪者じゃない? それともロリコン? 先輩ってこういう子供が好きだったんですね」
「彼は―――」
「こいつを好きでいることがロリコンなら、ロリコンでいいさ。それでこいつがいてくれるならそれで構わない」
少女の感情が爆発する前に男が言葉をかぶせる。
「・・・どうしたの? 先輩ってそういうキャラじゃないですよね? キモイですよ? もしかして・・・酔ってます?」
女の言葉に少女の中でふつふつと煮えたぎるものがあった。顔を上げていると何をしでかすのか分からない感情が渦巻いてくるので、下を向いてやり過ごそうとする。
「お前らの酒気にあてられたのかもな・・・」
男が再び少女の手を握る。目の端で少女の悔しそうな顔が見えた。それはもう泣き出しそうな顔だった。 今すぐにでも抱きしめて、なだめてやりたかった。が、状況はそうはいかない。
「それより・・・彼女さんはあまりしゃべるのが得意じゃないんですか? あまり会話に入ってこないですが・・・・」
もう一人、女と一緒に来た男が会話に入ってきたからだ。元々二人はある程度食べてきていたのか、取った物を少し食べて後は残していた。
「まあ、そうだな。あまり人と喋るのは慣れていないな」
「だったら余計どういったことで付き合うようになったのよ? やっぱり先輩がうまく騙したとか? こんなにかわいい娘だったら男なんてひっかえとっかえできるものね・・・・羨ましいわ~」
「彼はそんなことしないわっ! それに、彼以外の人なんていらないっ!」
そういって男に抱きついて女を睨みつける。もう我慢なんてできなかった。ありもしないことを適当に言って、男の名誉を傷つける行為に黙っていられなかった。
「冗談よ、冗談。そんなに怒らなくてもいいじゃない。日本的な空気を読めるようにならないと疲れるわよ?」
「お前はその空気をブッ飛ばすがな」
「それにしても先輩の彼女さんはかわいいですね~」
男に抱きついている少女を見て片割れが喋り出す。
「それに髪とか目も綺麗ですし・・・・女性に興味がなさそうな先輩でも振り向くわけだ」
「おいおい、見た目だけでここまで好きになるかよ・・・・」
そういって少女を抱きしめて、腕の中にしまう。互いの精神を安定させるためでもあり、二人に見せつけるためだ。
「美少女を抱きしめられるとか羨ましいです」
「うわ、キモっ。あんたもロリコンなの?」
「いえ、彼女顔つきは確かに幼いですが、体つきは大人ですよ。いわゆる童顔女性じゃないですか?」
そういって二人がじろじろ少女の身体を見ていく。その視線がどこか不愉快で少女が身をよじってしまう。
「う~わ・・・・見た感じ、アタシよりいい体してるとかまじで羨ましい~」
「それと話し方も女の子喋りでかわいいし、本当に先輩が羨ましいです。変わって欲しいくらいですよ!」
「・・・・・っ!」
少女が憎しみに近い感情でその言葉を発した存在を見る。しかし、少女のこういう表情は慣れていないと読み取りにくいものであり、愛しい男の前かそれとも男のことを考えている時以外では、そうそう変えることはなかった。だから、その視線は都合の良いように解釈される。
「えっ? もしかして、僕に脈ありとかですか?」
「渡さんぞ?」
少女を抑えるように抱きしめ、なだめるように頭を撫でていく。
「ですよね~。でも、彼女さんが僕の方に来たら別ですよね?」
「安心しろ。そんなこと絶対にないから」
「絶対なんてありませんよ。もしかしたらがあるじゃないですか。ね?」
見られる視線が気持ち悪く、顔を逸らして男に抱きつく。もうこんな存在は見たくなかった。
「あ~あ、もうお熱いわね~」
「僕は羨ましいです・・・凄く綺麗な髪を撫でられるとかズルい」
「そういえば、二人とも付き合っているんなら・・・もうしたの?」
「絶対してますよ。僕だったらこんな娘が彼女ならその日のうちにしますよ。我慢なんてできませんよ」
「よし、お前ら帰れ。それとも追い出されたいか?」
「えっ・・・? まさかしてないの??」
「そんなはずないですよ。先輩も男ならこんな娘を前にして我慢なんてできるわけないです。ただ、恥ずかしいからそう言っているだけですって」




