第三章 6
「え、ええっ・・・そのつもりよ?」
「凄く赤いぞ?」
「それは、その・・・・もしもを想像しちゃって・・・・・・」
「・・・本当にすまん。ついイライラしてお前に甘えた―――というよりも当たっちまったな。悪い」
「べつに、それはいいのよ? わたしが蒔いた種だもの。むしろ、わたしの認識が甘いってわかったわ・・・・ごめんなさい」
「うーん、お互いそういうことでいいのか? 実際としては違うんだが・・・・」
「それでいいの。そうして・・・ね?」
「・・・わかった。そうする」
「それより・・・はい。貴方の分とったから食べて」
二人はあれから慌ててコンロの火を止めて後処理をした。幸いにも食べることには影響がなかったので、少女が会話をしながら菜箸で男の分をとっていたところだ。
「ああ、頂きます。というよりもだな・・・・」
「?」
少女が自分の分を取りながら、不思議そうに隣にいる男を器用に見る。
「ああいったことされて、言われて・・・なんで平然と隣に座る?」
「貴方の分をとった時に渡しづらいじゃない。そしてなにより、好きだからに決まっているでしょ?」
「もうな・・・お前凄い奴だよ。お前のような女はこの世にいないと断言する。俺にあのまま押し倒されていたらと思うと、普通引くか逃げるかくらいすると思うぞ?」
「それならそれで・・・・貴方にされるなら・・・・・・いいかもって、今は少し・・そう思ったりしてる・・・・」
「先に言っとく。悪い。お前頭大丈夫か?」
「・・・・とっくに・・・貴方に狂っているわよ。こんなこと言うくらいにね」
目の前の少女が、赤くなりながらも誇らしげに宣言する。恥ずかしくないわけではないが、それ以上に男を想えていることが嬉しくてたまらないといった風だ。
取り分けた具を一口少女が食べる。熱いはずのそれも、少女から出る熱さの前ではぬるいようだった。
男はもう何も言えない。この少女は男がすることを全て受け入れるつもりだと理解した。ある意味、だからこそこうやって本音で喋れる訳なのだが・・・・
「なんというか・・・お前男にとって都合が良すぎだぞ・・・・・」
「そうかしら?」
「そうだよ・・・って、熱っ?!」
それは二人のいちゃつきの間、必要以上に煮詰められていた具材からの復讐であった。噛んだ瞬間熱された煮汁が男の口内に溢れる。しかし、吐き出すわけにもいかず、ここは根性で飲みこんでいく。男の言葉に反応して、少女はすぐに水を渡してくれたので、事なきをえた。
「貴方・・・猫舌?」
「いや、これは熱いだろ」
「そうなの?」
交互に器を見る。熱を持っていることを主張する湯気が双方から上がっている。けれど、男にはそれが熱く、少女には普通であった。そこから少女は考えて―――
「ふーっ、ふーっ、ふーっ・・・はい」
―――息を吹きかけて冷ました具を男に差し出す。そして、この状況で読んだばかりの漫画の内容を思い出してしまった。
「『あーん』・・・・・・・」
火が出そうなくらい恥ずかしいと思った。漫画さえ読んでいなければ、そういう意識なくできていたはずだったことが、今はこれほどにも恥ずかしかった。
「んっ、ありがとうな」
だからか、男はさしたる抵抗もなく素直に少女の箸をくわえて食べていく。素直に、言うとおり、思うままに・・・・それを見て、少女が男をかわいいと思ったのは言うまでもない。
二回目もしようと思ったところで突然来訪者を告げる音がする。夜の時間の非常識な行為に男が何かを察する。
「まさか・・・」
そうつぶやいて男が玄関の方に行く。その顔は少女が見たこともない表情をしていた。
少し何かのやり取りがあった後、誰かが上り込んでくる音がした。
ドアを開いて、知らない女と知らない男・・・・そしてその後ろにはこの部屋の主人がいた。その表情は諦観のそれだった。
見ず知らずの二人は少女を見るや、この間の女店員のように少女の容姿に興奮していた。そして、そのまま何の遠慮もなくコタツに入るやいなや自分たちも食べたいなどとのたまう。男が何か色々と道理を説いていたが、なんで?どうして?と、二人は細かいことはいいから食べさせろの一点張りだった。男は一度少女を見て、しばらく悩んだのちに折れた。
「・・・食べたら帰れ」
そう言って男が二人に割り箸と器を渡す。そして少女の隣りに戻る際
「・・・ごめんな」
少女にだけ聞こえるように謝ってコタツへと入った。
―――どうして謝るの? そう聞く前に二人からの質問攻めにあう。
「しかし、彼女さんはどうして先輩を好きになったの? 愛想もよくないし、面白くもないし、つまらないし・・・・あるのはお金くらいだし?」
この質問には少女も心穏やかにはいられなかった。男を貶められる言葉に、激情にかられる。




