表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/94

<<第一章~無愛想な少女がデレ始めた日~>>23

「ほら、起きなさい・・・」

 朝早く、ベッドで眠る男に抑揚のない声をかける少女。

 寒さが厳しくなってきた12月初め。澄んだ空気には夏のような淀んだものはなく、実に清々しい朝だ。その反面、寒さを携えた空気の中は容赦なくその身を冷ましていく

「ん~・・・はいはい。って、さむ・・・っ! 急に布団剥がすなよ?!」

「こうでもしないと、貴方は二度寝するから・・・ここまで一緒にいた経験でわかる。遅刻・・・してもいいの・・・・?」

「・・・よくないな」

 遅刻という言葉に反応して、男はすぐに服を着替える。カッターシャツを着て。ズボンをはき、ネクタイを締め、スーツ姿の一歩手前と衣を変える。冷たい服がさらに体温を奪うかと思いきや・・・

「あれ・・・? 温い?」

「貴方が冷たい冷たい言うから、コタツを使って温めておいたの」

 そっけなく、平淡に言い切る。そこに特別な感情はないと、暗に滲み出ている。

「そっか・・・ありがとうな」

 それでも男は少女がしてくれた行為にお礼を言う。むしろ、何の感情もこもっていないからこそ、そう言いたかったのかもしれない。

「コーヒー入れるから、コタツにでも入って待ってて」

「なんというか悪いな・・・すっかり嫁さんみたいなことしてもらって・・・・あ~、やっぱコタツは温いな・・・」

 コタツの中へと全身を滑らせ、そのままうつぶせになって頭だけをだす。寒さを最大限に避けるための姿勢、俗にいうコタツムリである。

「・・・別に、ほかにやることもないからだし・・・お礼なんて言わなくていいのよ。それに、わたしは貴方の『恋人』だから、これくらいは別に・・・・」

 話しながら少女は手際よくコーヒーを注ぎ、温めておいたミルクと、それを少し別に取り分けたものを盆へとのせる。

「むしろ『恋人』だからこそ、心からお礼をいうんだがな・・・」

「わたしには分からないわ・・・はい、コーヒー」

 話している間にもコーヒーをもってこられる。置くとすぐに少女もコタツへと入ってくる。それをみて、男はコタツムリから這い出て人の姿へと戻る。

「あ~・・・コタツムリしてたら、また少し眠くなってきたかも・・・?」

 そういってコーヒーに手を伸ばそうとしたところで、少女が口をはさむ。

「だめよ。ブラックで飲むのはお腹によくないと聞いたことがあるわ。少しはミルクを入れなさい」

 お盆を引き、男の手からコーヒーを遠ざける。

「俺はブラックが好きなんだが・・・」

「だったら何か食べる? トーストに目玉焼きくらいならすぐにできるけど?」

「いや、俺朝は食べない派だから・・・」

「だったら、なおさらミルクを入れないとお腹に良くないでしょう?」

 相も変わらず、淡々とした口調で話されると、真実味が薄い。

 本当に少女は男を心配しているのか? ただ単に、嫌がらせをしているのではないか?

 そう思われても仕方のない―――いや、そうとしか思えない声音だった。

「・・・やれやれ、毎朝『恋人』に心配されるツケということにしておくか」

 恋は盲目とでもいうのか、男は素直に少女の言葉に従うことにした。

 諦めて少しだけ入れて飲むことを決めたところで、また少女が口を開く。

「あと、少しじゃなく、できれば半分くらいは入れてね」

 できれば入れてという、命令ではなくお願いの言葉に男は―――

「・・・分かっているさ。せっかく、入れてくれたんだからな」

 そう返事を返して―――全部入れることにした。

 それを見て、少女の目が微かに・・・本当の僅かにだが驚きに開かれる。

「どう、して・・・・? あまり・・・ミルク好きじゃないんでしょ?」

 珍しく少女が質問をしていた。

「できれば入れたくはないな」

「だったら、なぜ?」

 少女の疑問に、かき混ぜながら答える。

「・・・お前が手間をかけて用意してくれたって、そう思ったら残せなくなっただけだ」

 混ぜたところで一口飲む。

「うーん・・・やっぱ苦味が弱くなるな・・・・」

「貴方は変な人ね・・・」

「んっ?」

「普通の人には、わたしの言い方をずっと続けていると『嫌がらせ』とか、『本当は心配していないくせに』と、いつも怒られてしまうから・・・きっと、貴方もそう思っているんじゃないかと考えていたの。でも、違うのね」

「そんなの思考が停止しているような奴らだろ? 少し考えたらわかることなのに、奴らはそれすら放棄する・・・生粋の馬鹿だ。救いようがない」

「え・・・っ?」

「悪い、お前が悪く言われていることを考えたら・・・正直ムカついた」

「別にいいのよ? わたしが悪いのだから・・・」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ