第三章 2
続くのかと男は思ったが口には出さなかった。しかし、なぜか少女にはそれが伝わっていたようで、途端に不安そうに見てくる。
「・・・貴方はいや?」
「・・・すいません。嫌じゃないです。はい、喜んで続きがしたいです」
「・・・うんっ。ありがとう」
満面の笑みを浮かべてお礼を言われたら何も言えなかった。
少女は一度強く抱きついてから離れ、料理を再開していく。二人の熱さとは反対に、火を切られて放置されていたフライパンは静かに冷え切っていた。
そこからはいつものように男は服を着替え、少女との穏やかな時間を過ごすことになる。
もし隣人の独身男性が二人のやりとりを見ていたら、血の涙を溢れさせながら男に対して石を投げつけ、滅びの言葉を投げかけること確実の時を過ごした。
甘い時間の最後に、男へ手作り弁当を渡した少女は、普段のように作業をこなしていく。その後は日課になった読書という名の漫画タイムに入る。
(『Blessing ~カミアガリ~』の続きは・・・・あったわ)
残り少なくなった巻数を引っ張り出して読んでいく。
―――『カミアガリ』それは人が死した後、神に成り上がることをいう。
魂が天へと帰り、神としての責務を果たすことになる。
心通じ合った巫女がカミアガリしてしまい、主人公もそれを目指す。
主人公はさまざまな試練を乗り越え、遂にはかつてその巫女を狙っていた禍津神の穢れさえも払いきるまでに成長した。そして本当に最後の試練―――
この世界の主。それは物語の初めから主人公に指示を与え、時には稽古をつけて鍛え上げられたこともある存在。その主を超えることが最後の試練であった。
(・・・これくらいなら意外性は少ないわね。初めから怪しかったもの・・・・)
もちろん主人公は後には引けないので主へと勝負を挑む。カミアガリした巫女との約束を果たすためにも止めることはありえなかった。
戦いが始まると初めは一方的な展開だった。主が主人公を満身創痍になるまで叩きのめし、動けなくなったところで脅す。主人公が終わればカミアガリした巫女も終わると言われ、死力を尽くして絶望と戦い続ける。そのうち、受け続けた攻撃が見えてくるようになり、力の入らない身でありながらも主を捉えはじめる。しかし、決定打に後一つ欠ける。
(前の作品で思うのだけれど・・・・どうして初めに終わらせないのかしら? わざわざ力を出し惜しみして・・・・結局負ける展開よね・・・・?)
そこで主はさらなる言葉を告げる。自分を滅ぼすことができなくても、カミアガリした巫女は終わると。その理由を聞かされ、主人公は主を打ち倒すのではなく、打ち滅ぼすことを決意した。全身全霊最後の力を以って、悪しきモノを滅する為だけに許された技を行使する。
秘奥義――直日霊――への繋がりを最大にして我外真我の極致へ至り、必滅の技――天滅神去――を放つ。
いかなるモノをも屠る技の前に、主といえども抗えず容易く貫かれる。頭、心、腹の三点を打ち抜かれ、鎮守の森へと吹き飛ばされていく。致命的な一撃を三つも受け、消滅は確実だった。それを感じながら主人公は意識を失う。
(この主は何を考えているの・・・? わざわざ相手に全力を出させるようにして、自分を敗北に追い込むなんて・・・・・正気じゃないわね・・・・・)
少女は正直、男が読んだ本でなければいますぐにでも閉じたかった。しかし、男を理解したい思いと、男のこの作品に対する言葉が少女にページを進ませる。
吹き飛ばされた主へとコマが移り、薄暗い鎮守の森に砕けたお面と、その側に仰向けに倒れた主。これまで晒されることがなかった主の素顔が今明かされる。
(え・・・っ?! これ・・・主人公の彼よね?! どういうことなの・・・?!)
読み進めると、倒れた主に近寄る女性が二人いた。
一人はいつも主に付き添っていた巫女―――名は『くろみ』
もう一人は―――カミアガリしたはずの巫女、名は『あやめ』
少女が状況を理解しようとことさらゆっくりと読み進めていく。
「やっぱり、主さまでしたのね・・・・」
「・・・やはり、気づかれてましたか」
「どうしてこのようなことを?」
「・・・あなたを救いたかった。といえば聞こえはいいですが、ただの自己満足ですよ。誰も救えない自分が嫌で、一人でもいいから助けて自己満足に浸りたかったんですよ」
「自己満足で・・・・八百万もの回数をやり直していたんですか・・・・? ご自身が滅ぼされ、未来の結果を変えて・・・私を救うために・・・・・っ!」




