第二章 15
「な・ん・で・だ・よ?!」
ちらっと眼の端で姿を確認して、男は頭を抱えて苦悩していた。こんなはずではなかった。そういう思いがあふれ出ている。
「だって・・・買ったら一度は洗濯しないといけないし・・・・・今日はこれで我慢して・・・ね?」
対する少女は男に見られる恥ずかしさを自覚してからは、わが身を腕で抱くようにして少しでも肌を隠す。それにまたそそられるのが男という動物だというのに・・・・
「我慢の意味がおかしいが・・・まあいい。今日はコタツで寝るから、お前が布団を使え」
明後日の方向を向きながら、男がコタツムリへと成ろうとしたところで少女が口を挟む。
「だめよ! ちゃんと毛布使って寝ないと風邪ひくわよ?!」
「それをお前が言うか?」
「わたしはいいのよ・・・貴方とは身体の作りが違うのだから・・・・」
「虚弱で悪いな。というかな、昨日一緒に寝て、寝具にお前の香りが移っていて眠れないんだよ」
「え・・・っ?」
「ああ、いや違うぞ?! クサいとかそんなんじゃないからな? むしろめちゃくちゃいい匂いだから、興奮して―――」
誤解を避けるため思わず少女のほうへと向けば、踏み荒らされていない新雪のように綺麗で、ふわっとして柔らかそうな肌が晒されていた。
「ぁぅ・・・っ!」
少女が身じろぎして肌を隠そうとする行為が、確実に男の本能をそそる。
「悪い! ってか、俺何言ってんだよ?!」
男もこれまでとは違う少女の反応にどうしようもなく感じるものがあり、すぐさま顔を逸らす。初めはさして思わなかったのに、今やそういう風に見てしまうのだから感情というものは恐ろしい。
「う、ううん・・・貴方は悪くないわよ? むしろ、わたしも少しうれしい・・・し・・・・・貴方に・・女として見られてるんだって・・・・思うと・・・」
男の理性は限界点ぎりぎりのところで踏ん張っていた。
「お前な~・・・・そういうこと言うと襲われるぞ?」
「忘れたの・・・? わたし、貴方になら襲われてもいいって・・・そう言ったわよ? むしろ・・・・わたしじゃ・・・抱きたくならないの・・・・・?」
「そんなわけあるか!! ○か×かで言えば、文句なく○だ!!」
「じゃあ・・・抱いて・・・・・いいのよ?」
「だがな、何か違う! 何か違ってるんだよ!! こんな本能としての刺激だけで行動するのは、何か違う! 俺はそれを許すわけにはいかない!! 俺は・・・お前を! ・・・大切にしたいんだよっ!!」
「・・・・・!」
男の言葉を理解できずとも、想ってくれていることだけは理解できた。
「あの・・・その・・・・ごめんなさい・・・・・」
少女が背後によって来るのが分かった。すぐ近くまでくると、少し躊躇っている気配を感じたが、思い切って少女が後ろから抱きしめてきた。
男が僅かに身体を強張らせる。
「・・・ありがとう・・・・・大切にしようとしてくれて・・・・・・大好き」
強く抱きつかれ、少女からの温もりを強く感じて身体が緩まる。そういう意味ではないと分かったからだ。
「・・・ねえ、一緒に寝て? 昨日貴方と寝たとき凄く寝心地がよくて・・・・・凄く・・落ちつけたの・・・・」
甘えてくる声音に女の色はなく、離れたくないという純粋な気持ちだけがあった。そんな感情を断れるような男ではなかった
「・・・・やれやれ。添い寝職人になるくらいならいいか。飽きるまで安眠道具になってやるよ」
男は諦めて、素数を数える覚悟を決めた。
これ以上話を長引かせると、切りどころが見えなくなるからだ。
少女に身体を解くようにと手で伝えると、すぐに解放された。人肌の温もりが離れるが、すぐにまた戻ってくることになる。
「じゃあ、寝るか?」
「ええっ、お願い」
寝る準備が終わって布団に入ると、思った以上の問題はなかった。
柔らかい、暖かい、いい匂い、かわいいがそろった少女が身を委ねてくるが、それは何のことない、子供のようであり、そんな少女に男の毒気が抜けていった。
毒気だけでなく起きている力も抜けていき、男もいつ以来になるか、心からの睡眠を得るのであった。
そうして夜は更けていった。




