第二章 14
部屋へ戻れば日は暮れてもまだ夕方。晩御飯の準備には早いし、だからといってどこかに行くには遅い。中途半端な時間を二人は有意義に過ごしていた。それは、朝の約束である『帰ってきたら頭を撫でる』であった。
二人していつもの席でコタツに入り、寒い季節を吹き飛ばすかのように甘い空間が展開されていた。
「なあ、そろそろよくないか?」
「・・・あと少しだけ・・・・ね? やっと頭撫でてもらえたんだから・・・・あと少しお願い・・・・・」
「そうだな。それを俺は何回聞いたんだろうな?」
「まだ五、六回のはずよ・・・? だから、ね・・・?」
それだけすれば『少し』ではなかった。しかし、男も強く言うことができなかった。
「かわいいってのはそれだけで得してるよな・・・・まあ、その分相応の面倒くささもあるわけだが・・・・お前はそういうのとは無縁そうだな」
「ふぇ~・・・っ?」
ぼんやりとした声を出して、眠たげな眼をしはじめた。
「眠たいならやめるぞ」
「ん~・・・いじわるぅ・・・・・」
「寝ても覚めてもかわいいとか、お前本当に超すらこえるかわいさだな」
「えへへ~っ。うれしい・・・っ!」
あどけない笑顔がこれまた愛らしい。
ころころと表情を変える少女にも男は慣れてきた。
「キャラ崩壊してんぞ・・・・まったく、昼間のあの凛々しいお前はどこに行ったんだ? かわいいからいいけど」
「ひるま・・・? そういえば・・・・」
少女が何かを思い出したかのように男に近づいてくる。
「んっ? わざわざ隣に移動してどうした? もう撫でなくて―――」
「ん~っ」
「って、なんで抱きついてくるんだ?」
少女の柔らかさを服越しに感じる。冬服だからこそ生地が厚くて弱いが、それは確かに感じられた。
「このままなでなでして・・・・」
「はいはい。分かったよ」
「・・・・・」
「・・・・・」
無言で頭を撫で続けることしばらく。
「貴方って暖かいわよね・・・」
「ん? そういうお前もな」
「もう・・違ってはいないのだけど・・・今はそういう意味じゃないのよ?」
子供のかわいい間違いを指摘する母のような声と、笑顔で見上げてくる。
また変わる少女の表情に・・・男が焦る。
少女が時々見せる外見不相応の――年上や同年代に感じられる――表情には弱いみたいだ。
「でも、そんな貴方はどこか可愛いから・・・・それでもいいのかもね・・・・・」
そういって、淑女のように少女は笑う。
「・・・なあ、お前ってある程度人格でも変えられるのか?」
「そんなのわからないわ・・・・ただ、そういう風になってしまうだけだもの・・・・」
「少しは安定してほしいな。さすがに俺の心臓に悪い・・・」
「ドキッとしちゃう?」
「ああ、ドキッとするからだ」
「うふふっ! そう・・・・貴方をドキッとさせられるのね・・・・・」
「・・・普段は子供みたいなところもあるのに・・・・本当に不思議だよ」
「もしかして・・・時々子ども扱いしているのかしら?」
「お、怒るなよ・・・子供みたいでかわいいって意味でだな・・・・・」
「・・・本当かしら?」
「ほ、本当だ・・・・」
「・・・そういうことにしておくわ」
少女が急に離れる。男はなんとなく終わりだなと感じ取った。
「・・・いっぱいなでなでしてもらったから、今夜も頑張ってご飯作るわね?」
「ああ、頼む。俺は飯作るなんてやってられないから、お前には迷惑かけるな」
「いいのよ・・・その分、昨日から貴方にたくさん甘えさせてもらってるんだもの・・・・・」
「じゃあ、食材買いにでも行くか?」
「そうね・・・・荷物持ちお願いするわね?」
「それくらいなら任せとけ」
そうして二人で買い物に出かけ、おばちゃんズのつまみにされて帰ってくることになった。そこから少女は素早く調理に取り掛かり、男はそんな光景を眺めながら仕事関係の本を読んだり、スケジュールの確認などをしていく。出来上がったものを二人で食べていき、少な目の会話で食べることに集中する。食後は食器を片づけ、少女が洗いものをしている間に男は風呂に行く。上がれば少女が入れてくれたコーヒーがなくて、今日は昼間に飲みすぎと言われたので、少女と同じホットミルクが用意されていた。それを飲みながらまた仕事関係に時間を使い、その間に少女が湯浴みを済ませる。そして、上がってきた少女は昼間に買った寝間着を着ていなかった。




