第二章 10
「そんなかわいいことばっかりしてどうするんだ?」
「貴方のかわいい女でいたい・・・それだけよ?」
「だからなんだってそうお前はかわ―――」
「あ~、うん。わかったわ。あんたらがとんでもなく熱いバカップルってことがね。さっさと買ってお帰り下さい・・・・・」
放っておけば延々と続きそうな、バカップル過ぎる会話に女は涙目になりながら言葉を吐き捨てる。
「バカップル・・・?」
「ああ、仲の良い恋人って意味だ」
「違うわよ! 頭の悪いはた迷惑なカップルの意味よ!」
「こいつ頭悪くないぞ?」「彼は賢いのよ?」
「迷惑なのは認めるが・・・」「たしかに迷惑かもしれないけど・・・」
二人の息はぴったりだ。
「・・・・服選びは彼氏さんも一緒に見ていく? それとも帰ってからのお楽しみにする? 申し訳ないんだけど・・・・できればこういう店だから男性にはなるべく居てほしくないのよね~」
ああ言えばこういちゃつく。こう言えばそういちゃつく。そんな二人のいちゃいちゃぶりを観察するのはこりごりだった。だからこそ、体よくそんなことを適当にいって二人を分断する。そうすればこの状況を打開できると踏んだからだ。
「まあ、そりゃそうかもな・・・・」
「・・・・・・・・」
「あ・・・なんだ、その・・・・・そんな目で見られても・・・な・・・・」
女の武器の使い方が見事な少女だった。どうすれば自分がかわいく見えるか。どうすれば男に言うことを聞かせられるか。どうすれば男が一番くすぐられるのかを、無自覚に心得ていた。しかも、無自覚であるからこそ、男は女に騙されているという意識なく従ってしまう。せいぜいが『あー、俺この娘に弱いな・・・』くらいの認識だろう。この少女ほどのかわいさで、自然と感じるいじらしさをされたら抗うことができる男はいないだろう。
「・・・・だめぇ?」
凶悪な殺し文句を告げる。
これはヤバいと思った。こんな娘にそんなことを言われて、首を横に振れる恋人は誰一人としていない。
「だめだめっ! やっぱり女性ものだから、他のお客さんが買いにくくなってしまうのは勘弁してほしいね!」
「お客さん・・・・他にいないのに?」
「入って来にくくなってしまうでしょ?」
「彼はわたしの『恋人』だから・・・・わたし以外は見ないわよ?」
「ラブラブなのはもう本当にうざったいくらいよく分かったわよ・・・・」
男が自分に夢中で、自分以外には興味がないと言い切る自信に、正直嫉妬を超えて羨ましさを覚えてしまう。そして、それが疑いようのない事実であるのがまた悔しい。相手の男の目には、この少女以外は入っていない。自分を少しでも興味ある目で見てこないのである。
女自身の容姿は悪くないどころか、正直美人といえる。それに身だしなみにも気を使えるので、そういう部分において少女が勝てる要素は一つもなかった。恐らく一目見ただけならば、普通の男であれば全員が少女ではなく女を選ぶだろう。だが、もしも男の気を引くのではなく、どちらが愛されるかと言う話になれば、それは間違いなく少女となる。それは男だからとかそんなものではなく、本能的なレベルで少女を愛したいと思わせる魅力にある。それは誰も少女に危害を加えようなどとは露程にも思わせない。思えないものだ。
女が少女に対して羨ましさを持ってしまうのは、跪かせるということと、跪きたくなるの違いを見せられているからだ。似ているようで両者は根本的に異なっている。だが、女は知らないし知ることはできない。なぜ、少女がここまで愛されるような姿をしているのか。そして・・・男がどういった人間なのかを。
「さすがに店に迷惑をかけるわけにもいかないし・・・・悪いがこの店員さんと話し合って決めてもらえるか? 分かるだろ?」
「えっ?」
女は男がこの少女の要求を断ったことに間抜けな声を上げてしまった。
「・・・そう・・ね。あまり我が儘をいって迷惑をかけるわけにもいかないわね・・・・」
少女の言葉に女は二度驚く。この少女は残念がってはいるが、それが自然であると受け入れている。これほどの美少女であれば、この程度の我が儘が通って当たり前だ。むしろ女がこの少女であれば、なぜ自分の我が儘が通らないのかと男に対して不満を隠せずにいるだろう。
「それに・・・お前のかわいい格好は楽しみとしてとっておきたいからな」
「・・・・うんっ。楽しみにしていて・・・ね?」
「あ、荷物は俺が持っておく。ずっと持っていると辛いだろ?」
「・・・ありがとう」
当たり前のように恋人らしい会話。さっきまでなら、そんな二人をみて歯がゆいと思っていただろう。けれど今は、二人の掛け合いがなぜか普通のように感じていた。
「じゃあ、悪いが頼んだぜ? 財布は彼女に持たせたから、会計の時呼ばなくてもいい。しばらくコーヒーでも飲んでくるから、ゆっくりと決めといてくれ」
言うが早い、荷物を持った男はすぐに店の前にまで出て行って・・・・・素早くそこから逃げ出した。今のいままで、女性関係の場所にいて恥ずかしかったからということが見え見えだった。
自分の恥ずかしさよりも少女を優先していた男に、女は僅かながら人としての好意を抱いた。




