第二章 9
健気にも少女は男の望み通りにする。
「・・・ありがとう。じゃあ、行くか」
「・・・・う・・ん・・・」
そうして、手を引かれて少女は店へと入ることになった。
店に入ると事の顛末を見ていた店員が出迎えてくれた。
「いらっしゃい」
「すみませんが、彼女に似合う寝間着を一緒に探してくれませんか? なにぶん、お互いこういうのが苦手なもので」
「ああ構わないよ。でも、アタシが決めちゃっていいのかい? かわいい彼女さんの服を決めたくはないのかい?」
「それはもちろんそうですが・・・・」
「・・・・ああ、なるほど。それはつまりあれだね・・・・自分の趣味丸出しの服を着せると夜になったら大変ってやつだ。こんなにかわいい彼女のそんな姿をみたら、もう抑えられなくなるだろうね」
「よくもまあ、初対面なのに馴れ馴れしくそんなことをいいますね・・・・」
「店の前で突然ラブシーンを始められたこっちの身にもなって欲しいね」
「・・・・・・っ!!」
「あらまあ・・・さっきはあんなに積極的だった彼女さんだったのに、思いだして恥ずかしいのかな? 初々しくていいわね~。というより、よく入ってきたわね。その勇気というか、誰かにラブラブしてるところを見せつけずにはいられない意志には敬意を表するわ。ぶっちゃけ、むかつくけど」
「貴女は一体なんなんですか・・・・」
「紹介で来たなら聞いてるだろ? あたしのこの感じについてこれないなら、ほかの所にいけばいいと思うよ? あと、あんたも似合わない言葉づかいなんかしてないで、普通にしなさいな」
「・・・やれやれ、変わった人とは聞いていたが、それでよく客商売ができているな」
「趣味でやってるようなもんだし、嫌な相手には売らない主義なんでね。そんな奴に着られる服が可哀想で仕方がない」
「じゃあ、彼女は問題ないんだな」
さきほどから恥ずかしさに染まって、男の背中に隠れている小動物のような少女を目でさす。
「そりゃそうよ。かわいいは正義よ? かわいい娘がかわいい服を着ないのは両者に対する冒涜もいいもんってところよ」
「そうか・・・・じゃあ、かわいい俺の彼女に見合ったかわいい寝間着を頼む」
ほら出てこいよと、男が声をかけるとためらいながらも少女が出てきて姿を見せる。
「あらあら~、なあにこの超々弩級レベルの美少女は~っ! やばいやばいっ! かわいすぎてやばいってこの娘! なにこのアニメのようなかわいさは! 異次元的すぎるでしょ?!」
改めて間近に少女をみた女店員が興奮してまくしたてる。
軽口をたたきながらも、少女へ向ける視線は真剣そのものだった。
「あんたどうやってこんな美少女ゲットしたのよ?! なにか悪い手使ってない? 犯罪に手、染めてない? なんか上手く騙してない? なんであんた程度の男にこんな娘が手に入るのよ?」
「まあ、俺にはもったいなさすぎる彼女だという自覚はあるが、別に悪いことはしてないぞ?」
女店員の言葉に男はさして気も悪くせずに答える。今は興奮して思い浮かんだままを話しているだけだから、細かいところは気にする余裕がないのだと分かりきっている。
けれど、そんな中一人だけ納得できない者もいた。
「・・・・彼はそんなことしない」
黙っていた少女が男に対する言葉に、機嫌が悪そうに反論する。
「なにより・・・・彼を・・悪く言わないで・・・・・っ!」
「あ・・・ごめんごめんっ! 悪くいうつもりはなくて、ただつい信じられなくてね・・・・ごめんよ?」
静かながらにも、見えざる少女の剣幕さを感じて女が謝る。
軽薄な口調ではあるが、その顔つきは真剣そのものであり、少女もそこは理解できた。
「・・・謝ってくれたのならいいわ・・・・わたしも、感情的に勝手なこと言ってごめんなさい」
「え、いやべつに彼女さんは悪くないでしょ? あたしがつい調子に乗って悪口いっちゃったからだし・・・・」
「それでも、そういったことを考慮できないわたしにも落ち度があるわ・・・・彼ならそういって謝るはずだもの・・・・・そうでしょう?」
「俺はそこまでの人間じゃないさ」
「貴方は・・・無意識にそういうことができる人だから・・・そう感じるだけ・・・よ? だって、貴方は誰よりも優しいから・・・・・」
静かな激情を湛えていた瞳が、男を見るとすっかりと恋する乙女のそれになる。
「俺はそこまで信頼されるような男か?」
「信頼よりも・・・それ以上に愛しているわ・・・・・」
「お前・・・さっきからストレートすぎだろ・・・・・」
「だって、本当のことよ? 隠す必要なんてないわ・・・」




