第二章 8
「ん・・・っ」
男と重なりあった。
時間にすれば数秒にも満たない触れあいだったため、男が状況を把握する前に少女は離れたことになる。それでも、少女は指先で触れた場所に、確かな感触が残っていることを自覚した。自覚すると、はにかみながら微笑み、抱いたこの想いを男へと告げる。
「愛してるわ・・・・だいすき・・よ」
まっすぐに男を見つめて、混じり気のない想いを伝えた。
「だから・・・貴方だけが苦しまないで・・・・? もしも、貴方が悪かったとしても・・・・それは半分だけ・・・・・・残りの半分は・・・・・・わたしが悪いの・・・・」
「おま・・え・・・」
「一人じゃなくて、二人で背負いましょう・・・? だって、わたし達『恋人』なんだから」
「・・・・ありが・・・とうな」
「・・・わからないわ。それはわたしが貴方に言う言葉よ・・・?」
「・・・・いい女だな、お前・・・・・」
「わたしは、貴方のかわいい女でいたいわ」
「・・・ああ、お前は・・・かわいくていい女だ」
「ふふっ・・・・うれしいっ!」
手を降して再び男へと抱きつく。男も強く抱き返してくる。
「・・・いいの? 今、わたし達すごく恥ずかしいことしているわよ?」
「そうだな・・・・でも、もう少しだけいいか? 今は・・・おまえをこうして抱きしめていたいんだ・・・・・・」
「ええっ・・・うれしいわ・・・・!」
周囲を気にすることなく、満足するまで二人は抱き合って、互いの存在を確かめ合う。
そんな抱擁もいつかは終わり、どちらからともなく二人は離れる。離れて互いに見合う。
少女は変わることのない目つきと笑みで、愛しい存在を見ていた。
男はそんな少女の表情に惚け、魅入っていた。
「・・・行きましょう?」
「・・・・どこにだ?」
男の、心ここに在らずといった返事に、少女がこらえきれずに声を潜めて笑う。
「もう・・・わたしの寝間着を買いに行くんでしょう?」
「ああ・・・・そういやそうだったな。悪い、おまえにすっかり見惚れていた」
「貴方が必要ないと思っているのなら、わたしはそれでも構わないのよ?」
少しだけ意地悪な言い方をする。男が未だ、はっきりとした顔をせずに少女を見ているからだ。
男は今の少女が下着姿になって、もしものことを想像してしまい・・・・どこかに飛んだ意識が流石に戻ってきてくれた。
「勘弁してくれ・・・・」
「だったら、早く行きましょう? わたし、早く帰って貴方と二人っきりになりたいの・・・・」
落とした荷物を拾い上げ、男へ満ち溢れた想いを口にする
「あ、ああ・・・そうだな。とりあえず行くか」
少女からの想いに押されていた男は、一連の行為と最後の言葉について深く考えることはせず、今は目先のことをこなすことに集中する。
「え~っと・・・・店の名前は・・・っと」
男が行先の店名を確認するためにメモを出して口に出す。
周囲を見渡していた少女はそれが聞こえた瞬間、思わず声を上げた。
「ここよ・・・」
「はっ?」
「そのお店・・・・目の前にあるここみたいよ?」
言われて視線を上に向けて店名を確認する。メモにかかれている店と完全に一致していた。
視線を降ろせば店内が見えて、さらにその奥に見えるレジには女性店員がいて、とどめにこちらをばっちりと見ていた。その店員が、さわやかで気持ちが良い笑顔を浮かべてこちらを見てくる。
「・・・ねえ、帰りましょう? 寝間着なんていらないから、早く帰りましょう? わたしは貴方がいればそんなのいらないわよ? 貴方に抱いてもらえば暖かいもの。だから抱いて寝ましょう? そうしましょう? ね? わたし、暖かいわよ? わたしじゃダメ?」
全身赤くなるような熱を持った少女が、一刻も早く逃げたがっていた。男の手を掴んで引っ張ってくる。酷い混乱状態で、言っている内容は滅茶苦茶だった。
「いや、だが・・・・寝間着姿のお前も見てみたいんだがな・・・・・」
卑怯だと思っていても言ってしまった。自分の要求したことに対して拒否することができない少女の想いを利用する。けれど、少女の寝間着姿を見たいのは真実であり、男の感情としても事実である。
「家だけで見れる・・・お前の寝間着姿が見れなくなるのは残念だな・・・・絶対にかわいいのに・・・・・」
「・・・・そんなにみたいの・・・・?」
初めて聞く、男からの我が儘という願いに、少女が反応する。それは嬉しさと恥じらいの混ざった反応だった。
「当たり前だろ? かわいい女の子にかわいい服を着てもらうのは男の夢のようなもんだ。だから買って着てほしいんだが・・・・ダメか?」
嘘偽りのない言葉。だがしかし、胸が痛い。文字通り、いたいけな少女の心を弄んでいる自覚があるからだ。
「・・・ダメ・・・・じゃない・・・・・だって・・・貴方の・・・・かわいい・・・・女で・・・・いたいもの・・・・・・」




