第二章 7
「貴方・・・・」
この言葉に少女は悟った。この男は相手が傷ついてしまった時、自分にかすかでも落ち度があると感じたならば、それを全て自分の責にするのだと・・・そんな、不器用な生き方をして苦しんで、傷ついてしまう人間なのだと。それは見方を変えれば、優しい心を持っているといえるだろう。
優しいから傷つく。
優しいから気にしてくれる。
優しいから背負おうとしてくれる。
優しいから守ろうとしてくれる。
優しいから寄り添ってくれる。
優しいから受け入れてくれる。
優しいから理解してくれる。
優しいから慰めてくれる。
優しいから『 』
少女は抱えていた袋を床に落とし、腕を自由にする。
(彼が苦しんでいるのに、こんなものを持っている場合じゃないわ・・・)
そこには酷く冷静に考えている少女がいた。
(わたしが彼に甘えすぎたせいでこんな顔をさせてしまった・・・・)
自由にした腕をそっと・・・・・男の背中に伸ばして強く抱き返す。自分という存在を強く認識させるために。少しの間、男の胸に顔をうずめて考える。
こういった時、自分はどうしたかったのか。かつて、自分は何をしたかったのか。そもそも、どうして自分は『今』彼の側に居るのか。それを少しでも示したかった・・・・示せないといけなかった。
(ごめんなさい・・・何度そう言っても、貴方がくれた優しさにはとどかない・・・・甘えるばかりで、何も気づいてあげられなかったわたしだけど・・・・)
自分がすべきことを見つけ、抱きしめていた腕を解き、上へと持ち上げてそっと・・・・優しく両手で男の頬に触れる。
(貴方の心を・・・少しでも軽くしてあげたい・・・・!)
優しく・・・限りなく優しく口を動かしていく。
「ありがとう・・・・こんなわたしを・・・これほどまで『想ってくれている』のは・・・貴方、だけよ・・・・」
男は少女の言葉と表情に驚く。
今の少女は慈愛に満ちたまなざしと、全てを許した笑顔を浮かべていた。
そのまなざしは聖母。その笑顔は女神。
普段は見られない、自分を抱きしめている男のあっけにとられている顔を、少女は妙に愛おしく感じていた。
瞳に映る自分の姿を見て、ふと先ほど男に言われた言葉が急に蘇る。
『ありがとう。それだけ思われて、俺は――者だ』
(ああ・・・そっか・・・・わたし・・・・・・『幸せ』で・・・・・だから、こんな顔をしているのね・・・・)
胸の中からあふれ出てくる想いがあった。
これまでの少女では絶対に、持つことができなかった『感情』。
一人では、決して気づくことができない『想い』。
だけど、今は違った。
『今』は違う。
少女は独りではなかった。
共に寄り添ってくれる存在がいる。
『想ってくれている』。
だから思いだせた。
『うれしい』
だから気づけた。
『幸せ』
だから抱くことができた。
抱いたそれは抑えきれないほど強くて、抑えきれるものでもなかった。
とまらない想いに突き動かされる。
少女が踵を浮かせて指先で立つようにしていき、背を伸ばしていく。
男の顔が近くなってきて、やがてすぐそこまで来ると瞳を閉じ――――




