第二章 5
「・・・まあ、ちょうどショッピグモールに行くわけだったし、そこで先に昼飯でも食うか」
「ええっ、そうね」
「人が増えるから、ちゃんとついてこいよ?」
「・・・大丈夫。だって、貴方が掴まえてくれているから・・・・」
男を信頼しきった少女が、強くその手を握る。すぐに男からも握り返す感覚に、少女の笑みがこぼれる。そうして強く繋がった二人は歩を進めていくのであった。
「そういえば・・・」
「・・・なに?」
「次は何の作品読んでるんだ?」
注文を頼んだ後は時間をつぶす必要がある。そのため、男は昨夜に続いて同系列の話題を上げる。
「・・・主と巫女が出てくる話よ」
「ああ『Blessing』か・・・どこまで読んだ?」
「主人公がカミアガリの儀式を受けている所よ」
「だったらもうすぐ終わるな。あれの最後は衝撃的な展開だから、多分お前も驚くんじゃないか?」
「そうなの・・・? 貴方がそこまでいうのなら、期待しちゃうわね・・・・」
テーブル席に向かい合って座っている、少女の顔が穏やかに綻ぶ。男が感じたものを、ひょっとしたら自分も同じように感じられることを夢見ていた。
「その・・あの・・・ね?」
「ん?」
「あの本たちは・・・どういう順番で読んでいったほうがいいの・・・・・?」
「ん~、自分の好きな順番でいいと思うが・・・俺だったら、作者の書いていった系列順の作品から読んでいくな。あれだと『Fragment』、『創破神世』、『あの日の約束』、『創破新世』、『創破真世』、『お薬大戦バクテリア』、『Blessingシリーズ』、『QOL』、『短編集』かな?」
「そう・・・なの? わたし・・・いきなり飛んでしまったのね・・・・」
どことなくしょげてしまう少女に男が不思議がる。
「別に気にする必要ないだろ? 自分の好きに読めばいいんだよ」
「だって、わたしは・・・・貴方のことが知りたくて・・・・・それで・・・」
俯きながらつぶやいた、周囲の喧騒で消え入りそうな声がかろうじて耳に届く。
もじもじとしながらも言葉を繋げる。
「貴方が思ったこと・・・・感じたことを・・少しでも・・・知りたい・・から・・・・・だから、あの・・・・・・できれば、同じ順番で読んだ方がって・・・いいことに今きづいて・・・・でも、ちがちゃってて・・・・それで・・・・ぁぅ・・っ」
恥ずかしそうに、上目遣いでそんなことを言ってくる。最後は少女自身、言っていてよく分からなくなったようで、困ったように言葉が途切れる。
「あー、その・・・なんだ。一つ言うぞ? お前かわいすぎだろ」
「い、今・・どうして、そんなこと言うの??? 今は、わたしが貴方のことを理解したいって、ずっとそう思っていたという話しで・・・・」
思わず顔を上げ、相手を見ながら感情的に正直な気持ちを伝える・・・・伝えてしまった。そう言って、胸中を吐露してしまったことに気付く。ここまで言ってしまって、自分がずっと何を考えていたのか、頭の中を何で埋めていたのかを、男に知られてしまったと悟ると同時に、自身も自覚してしまう。
「~~~~っ!」
顔がすぐに熱を帯びて、思考は白く染まる。俯くことも、逸らすこともできず、男の顔を、熱に浮かされたかのように見ているだけだった。
「ずっとって・・・表情を殺していた時からか?」
優しく、穏やかに、少女が持った感情に寄り添うように問いかける。
「わたしにも・・・わからないわ・・・・・」
男の視線に絡め捕られたかのように、顔も目も動かすことができない。
顔を逸らしたい。こんな恥ずかしい顔を見られたくないから。
でも逸らしたくない。彼の優しげな顔を見ていたいから。
そんな相反する感情の中、唯一自由に動く唇だけが、今この瞬間自覚した想いを伝える。
「・・・でも、きっと・・・・・そうなんだと・・・・・思う・・・・・初めて貴方と会った時から・・・・ずっとわたしは・・・・・・貴方のことを・・・・・・っ!」
身体が小さく震える。
瞳も熱くぬれてくる。
感情が極まって、言葉が出なくなる。
それでも、男をみることだけは止めない。
金色に輝く瞳を熱く潤ませ、精一杯の微笑みを向ける。
「ありがとう。それだけ思われて、俺は幸せ者だ」
そっと少女の頭に触れて、労わるように撫でていく。
撫でながら男は思う。
こんな場所でなければ、少女を抱きしめていた・・・・抱きしめていたかった。
「んっ?」
不意に頭を撫でていた少女が席を立つ。周囲の状況を見て恥ずかしいからかと思ったが、どうも違うようでこちらの席へとやってくる。
「おい・・・どうし・・たっ?!」
少女が人目もはばからず抱きついてきた。驚く男の声が聞こえた、近くの人の視線が二人に集まる。




