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第二章 3

「そんな顔を見せられて、断われるわけないだろ?」

「そうなの・・・? わたしにはわからないわ。わたしに分かるのは、貴方がこの手をつかんでくれたことが・・・・『うれしい』ってことだけよ」

「・・・いくぞ」

 これ以上少女を見ていると、男の中で何かが壊れそうだった。それを避けるように、視線を前へと向けて少女を引きずらないようにして歩く。

「んっ・・・」

 離さないようにと握ってくれた手を、少女も握り返す。

 冷たい世界の中、確かに存在する温もりを感じながら、二人で目的の場所へとたどり着く。




 目的地へ着くと、そこはもうあれだった。

 女性のモノを買いに行くということは、つまりそこに男という存在は―――

(俺くらいだよな・・・)

 幸い下着売り場ではないので、まだ居心地の悪さはましである。

(肩身が狭いぜ・・・)

 周囲の女性客の視線が気になってしまう。特になにも感じなくても、見えない何かが息さえもしづらくする。

 少女は今店員に頼んで、彼女にあった服を選んでもらっているところだ。

(外で待てたらよかったんだけどな・・・・)

 そういった時の少女の悲しげな表情を思い出す。

(あの娘は反則だな・・・昨日の朝の件まではとんでもなく固い娘だったのに、一旦ほぐれると一気に気を許し始めた。ツンデレも真っ青だ。まあ、嬉しいがな)

 淡々として業務的でつれない、感情を押し殺した少女。

感情をさらけ出した―――そして自惚れていなければ―――恋する乙女を具現化したような少女。その差がとんでもなく激しい。

(だが、それだけ辛い場所で・・・救われない世界に生きてきたってことなんだよな・・・・なんで、あの娘がああまでなっちまったんだ? なんで、あの娘の心が受け入れられる世界じゃないんだよっ?!)

 感情移入をした対象が救われないことに怒りを覚える・・・男の悪い癖である。どうしようもないということは分かっている。しかし、分かっていても憤ってしまう。世界の理不尽さと、それに対して何もできない己の不甲斐なさを呪う。

(お、とりあえず試着に入ったか・・・まあ、何着ても似合うのは目に浮かぶがな)

 試着室の前まで移動すると、店員が声をかけてきた。

「すごくかわいくて、日本語がお上手な娘さんですね! 知り合いの娘ですか? 歳は何歳はなれていらっしゃるんですか?」

(普通そう思うわな・・・あの娘は見た目で言えば日本人の高校生くらいで、おれは若く見えても三十前だからな・・・・)

「いや、彼女です」

「・・・・・」

(店員やっていくつもりなら、今後はそこで固まるなよ?)

 仕方なく助け舟をだす。少女が着替え終わった時に、怪しい目で見られるのが嫌だったから、仕方なくだ。

「海外じゃ、これくらいの年齢差は普通にあるみたいですよ? それに、日本人は若く見えるので、彼女から見て、外見の比較ではそんなにかけ離れた歳じゃないみたいです」

「そ、そうでしたか・・・・失礼いたしました」

 上品に頭をさげる。歳の割にはできた動作だった。

 店員は一応の納得はできていても、歳の差的にはどうなのよ? そういった雰囲気をかもしだしていた。だから男は言葉を続ける。

「それと・・・・驚くと思いますが彼女はもう大人で、俺とそう大差ない年齢ですよ?」

「・・・・・・」

(うん、この気持ちはよくわかる。この店員はあの娘より若い。なのに外見で見られると、どうみてもあの娘が若くなってしまう・・・・外見と年齢の不一致さという、不平等だな)

「あの・・・着替えたけど、どうすればいい・・の?」

「カーテンを開けたらいいんだよ。それとも開けようか?」

「あ・・・あけるから、少しまってて・・・・・!」

 男がすぐ前にいるということに戸惑いを隠せずにいる。

 やがて決心したようにカーテンが開かれる。

「ど、どう・・・かしら・・・・・?」

 飾り気のない簡素な黒のワンピース―――そんな普段着とは真逆の、フリルを重ねた純白のティアードワンピースに身を包んだ少女が現れる。

 その長いスカート丈と袖口は肌を覆い隠して清楚さをアピールする。また、それらに重ねられた、着る人を選ぶフリルの華やかさ。それを少女は難なく着こなす。むしろ、それすらも少女の持つ可憐さを引き立てるわき役にしかすぎなかった。純白なそれが少女の白い肌、白くて長い髪に金色の瞳と相まって、どこかの美術画から抜け出てきたかのようで、目の前に異次元の世界が降臨していた。

「・・・・・」

 男は心すら超えて、魂まで奪われてしまう。思考だけでなく、呼吸すらも自然と停止してしまった。

言葉が出ない男に代わって、店員が答える。

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