第二章 2
「ふふっ・・・あったかいわ・・・・」
目を細め、小動物のような愛くるしさを見せてくる。少し前までの、感情や表情が凍りついた少女はもうどこにもいなかった。溶けた凍土から若草が萌えるように、少女も男へと感情を咲かせていく。
少女の上質な絹糸のような髪が手に馴染んでくる。撫でる側としても、ずっと触っていたくなる手触りだ。
「・・・・」
「・・・・」
「あ~、昨日言い忘れていたんだがな・・・・」
無言で続く撫でまわしに男が声を上げた。
「・・・なぁに・・・・」
目がとろ~んとして、今にも眠りに堕ちそうな少女が返事をする。
「今日は外にいかないか?」
「ふぇ・・・っ? お外で寝るの??」
「お前・・・なんで眠くなってるんだよ?」
「貴方の手が気持ち良くて・・・・落ちちゃいそうなの・・・・・」
「じゃあ止めるな」
「あうっ・・・・」
「そんな露骨に残念がるなよ・・・俺が悪いことしたみたいじゃないか」
「また・・・してくれる・・・・?」
甘えるような声でそんなことを言われては、断れるわけがなかった。
「帰ってきたらしてやるよ。で、今から外にいくぞ」
寒い外を歩き、電車に乗っての移動。色々とモノが集まる、近くで大きな場所へと出る。
「で、今回の目的なんだけどな・・・・お前の服を買おうと思っている」
「えっ?」
「なにせお前ときたら服は着た切り雀のようなものだしな」
「ちゃんと同じ服をもっているわよ?」
「それだとバリエーションがないだろ? だから適当に職場のやつに聞いてきたから、そこを回るぞ。金なら俺が出すから気にするな」
「え、ええっ」
男が歩き出したので少女もついていく。
「せっかくかわいいんだから、服もそれに見合ったものを選ばないとな」
ゆっくりと歩く、男の隣に並んで声をかける。
「・・・本当に、わたしってかわいいの?」
話しながらも、向かいから来る人とぶつからないように注意して歩いていく。
「当たり前だろ? だから色々とかわいい服を着てもらいたいっていう下心もあるわけだ」
こう言えば大人しく「貴方がそういうのなら」と、買ったものを着ると思った。それは外れてはいないのだが、今の少女には必ずしも当てはまっていなかった。
「わたしがそういう服を着たら・・・貴方は『うれしい』?」
「んっ? まあ、おまえの着飾る姿は見てみたいな」
「そうなの? ・・・・ふふっ! だったら、貴方が『うれしい』って思うような服を着るわ・・・・わたしだって、その・・・・貴方に・・・・いっぱい『うれしい』って・・・そう思ってもらいたい・・・もの・・・・・」
着飾った自分を見てみたいと言われ、少女から嬉しさが滲み出てくる。
さらに、ほほを染めながらそんなことを言われると、男も若干気恥ずかしくなってくる。
「なあ、お前ってそういう性格だったのか・・・?」
「そんなのわたしにはわからないわ。今はただ――」
少しの間をとり、はにかみながら続きを伝える。
「――――貴方の・・・・かわいい女でいたい・・・の」
照れながらも、男をまっすぐに見て微笑む少女にしばし言葉を失う。
「・・・もう十分かわいい女だよ。お前は」
ぽんぽんと頭をたたくと、少女は嬉しさを隠さずに目を細めていく。
「じゃあ、もっと・・・かわいい女に・・・なるわ」
「お前・・・昨日から拍車をかけてヤバいくらいにかわいくなってるな」
「・・・貴方がそうさせるのよ?」
笑みを絶やさない少女への愛おしさが、いやでも積もっていく。
そんな甘い空間を壊すかのように、固まった人の群れがこちらにやってきた。
「あ・・・っ!」
決して大きくない少女が人波にさらわれそうになる、その寸前。
「・・・間に合ったか。よかった」
男が少女の手を掴まえていた。そしてそのまま引き寄せる。
「ったく、歩行者は右側通行だろうが!」
周囲を見ながら男が毒づく中、少女は黙って握られた手を見ていた。その手の存在から、昔を思い出すような懐かしい感覚が呼び出される。
「だい――」
少女の様子を確認しようとして、かけた言葉が途中で消える。
幸せという感情が漏れ出ているような、破顔したその表情を前に、なにも言えなくなってしまった。
「・・・ねえ、このまま・・繋いだままで・・・いてくれる?」




