交流と嫌がらせと、それから……
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ジェイドと仲良く(?)なったおかげで、他の護衛対象と交流するようになった。護衛しやすくなったことにしよう。
あ、もちろん、ココこと、ルクスとも。約束通り、初対面したが。
(こんなに早く、ルクスと会うとは思わなかったね)
「おはよう、ミラ嬢、リリー嬢」
「ごきげんよう、殿下」
「おはようございます」
カトリーヌの婚約者であり、このサンサール帝国の皇太子レオナルド殿下。婚約者のことを心配して、『カトリーヌをよろしく』と言ってきたほど。笑顔のその目に浮かぶ険しい目つきは今も忘れられない。呼び捨てで呼んだのはきっと、わざとだろう。
(まぁ、でも、陛下からよく聞く殿下の溺愛っぷりは本当のようだねぇ)
仲がいいのは良いこと。帝国の安泰を身に沁みて感じた。
「何、ニヤついてんだ?」
「あ、おはようございます、オーディス様。そんなにニヤついてました?」
「ああ」
「殿下とカトリーヌ様の仲の良さに微笑ましく覚えてしまって、つい」
「……あっそ」
顔は似てないのに、どことなく、父親に似てるね!血筋かな!
席が隣のためか、宰相の息子、オーディス・フォーネスはよく話しかけてくる。護衛対象の中でも話しかけてくる方だと思う。表立っては噛みつかないが、心のなかではいつも通り。本人ではないのに。
「ねぇねぇ、ミラちゃん!これ、可愛くない?」
「おはようございます、ナミ。そうね。結界系統の魔具かい?」
「そうなの!魔具ってさ、見た目、ダサいじゃん」
イカれた野郎こと、魔法庁長官の双子の娘、ナミ・ネシス。息子の方はロイというらしい。彼女もよく話しかけてくる。
彼女は可愛いもの好きで、魔具のデザイン性の良いものに改良するほど。もちろん、得意分野らしい魔具の開発も同時進行している。
「否定しないね。でも、機能性の方はどうだい?」
「たぶん、大丈夫、な、はず……」
「……さては、試していないな?放課後、一緒に試そうか」
「いいの?」
「もちろん。リリー、どうした?」
「あの、私も参加してもいいですか?結界なら色々勉強してますし」
さすが、聖女様。結界のことも勉強しているのね。そういえば、治癒魔法も詳しかったわね。
「本当にいいの⁉もちろんよ!カトリーヌ様もご一緒にどう?」
「私が居てもお役に立てないかもしれませんが……。少し気になりますね」
「じゃあ、場所借りてくる!」
ナミの行動力はどこか、学生時代のナンネールに見えた。
(彼女も突然、思いついて行動してたなぁ。懐かしい)
こんな感じで、護衛対象と交流するようになった。また、各婚約者の方とも仲良くなったのは、念のため。
(訴えられたくないしね)
かわいい女性に囲まれるのは同性のミラでも悪くないと思っている。むしろ、嬉しい。暗部ではこういう女性の多くは任務のため不在なのだ。
ロイは必要なとき以外は声をかけてこない。庶民出の彼女達と仲良くしたくないのか、それとも、元々口数が少ないのか。女性が苦手という話は聞いたことがなかった。
(まあ、私はどうだっていいけどねぇ)
それと比例して、ミラとリリーへの水面下、いや影でのあたりが強くなった。注意という名の悪口はまだいいもので。ペンが消えたり、物が減ったり、教科書やノートが破られてたり……。
(さて、どうしようか)
「どうかしたか?浮かない顔だけど」
「いや?どう落とし前をつけようか考えてたところです」
「だから、なんの?」
「オーディス様には関係ありませんね」
「へぇ?ま、何かあるんだったら、相談しろよ?」
その前に方を付けるから平気です。
流石に言えないので、ミラは笑って誤魔化した。オーディスに呆れた目を向けられたのは無視しておこう。
とある日の放課後。リリーがパタパタと自身の机の引き出しやら、下やらを漁っていた。
「どうしたの?何か失くした?」
「うん。大事なペンが……」
「もしかして、これのこと?さっき拾ったの」
「ありがとう!」
ポケットからペンを一本、取り出す。濃い青の軸に銀の装飾がついているものだ。しかも、その装飾、三日月に星。この装飾がつくのはこの国に一つしかない。
「ねえ、もしかして、ヴィハイン家からの?」
「そ、そうなの。よく面倒を見てくれててね。心配だからって、色々持たされたの。ドレスとか服とかアクセサリーとかも」
ヴィハイン家。この国の伯爵家だが、教会や孤児院に資金提供しているので有名である。元々ヴィハイン領出身のリリーがヴィハイン家の援助を受けているのは、納得できる。
「愛されているんだね」
「ち、ち、ち、違うって!ぜ、ゼールス様は!そそそ、そんなんじゃなくて!」
「はいはい、そういうことね〜」
「だから、違うって〜!」
ゼールス卿は若いながらも、ヴィハイン家のご当主だ。顔も良いので、社交界でも人気があるが、女性に興味がないと噂されている。
(興味がないのは、リリーがいるから。きっとそうね)
自分よりも遥かに若い人間たちの恋にミラは心が踊った。その恋が実ることを願いながら、落とし前の決行時間を決めた。
ターゲットを見つけたミラは潜入の要領で気配を消して近づく。
「こんにちは、お嬢さん」
「だ、誰よ!」
「この学園の関係者と、申しておきましょうか。アリスト男爵令嬢」
声色を変え、口調も変えて話しかける。もちろん、幻術をかけてあるため、姿も見えない。
「物を取ったり、壊したりするのは良くないかと。この学園では、身分を傘に着るのはご法度のハズですが?」
アリストは何も言えずに、口を紡ぐ。
「わかったいるのであれば、私から申し上げることはございません。証拠の方は私の方で預かっております。次、同じことをなさっているところをお見かけしたときは……」
アリストは縦にコクコクと頷いた。
ご令嬢は脅しに慣れていない。あんまり、やりすぎるのは可愛そうだと、そう思ったミラは満足した足取りでその場を離れていった。