寄り道
「なあ、野薔薇姫ってどっち方面?」
下駄箱でローファーに履き替えながら聞いてくる。
ローファーの踵に指を突っ込んで靴べら代わりにして、まだまだ硬いローファーを穿いて答える。
「んーっと、まずチャリ通で駅と真逆」
「あー」
そう言うと悩む様な相槌。
「どした」
「俺は徒歩なんだよなー。方向は一緒っぽいけどさ」
距離的に優の家の方が学校寄りにあるって事だろう。
「……歩くか」
「2人乗りしよっ!ねっ!」
自転車を駐輪場に取りに来て優の鞄をカゴに入れながら歩いて一緒に帰ると言えば、2人乗りしたいと言う。
しかし、その行為には賛成できない重い理由がある。
「……出来ないんだよぉ。バランス取れなくてさ」
「俺が漕ごうか?」
何となく悔しくて拗ねたような言い方になった。
優はそんな俺にお構い無しに、ならばと2人乗りの漕ぐ方に立候補してくる。
想像してみても完全に男女逆転だと思ったし、何よりカッコ悪いので、当初の予定を推すことにする。
「……歩こう」
「ま、それも良いね。ショッピングモール行こうよ」
駄々こねるかと思ったけど案外あっさり引いてくれた。
からかっただけなのか。
それよりもサラッと放課後デートみたいな提案をしてくるあたり、陽キャだなーと思ったりもする。
まあ、見た目完全にそうなんだけど。
「家に行くんじゃないのか?」
「えっ、そんなにも家に来たかったの?」
俺がそう聞けば、優はパチくりと大きな目を数回瞬きさせて、ニンマリとそう言った。
何だか、照れながらもワクワク?した言い方だ。
「その言い方は変じゃない?」
「はぐらかした!」
兎に角一刻も早く優の家に行きたい人みたいになった。でも、完全に間違いじゃないかもしれないから、否定的な感じを出して否定しなかった。
完全にお見通しだったみたいだけど。
「あーー!ほら、行きたいとこ付き合うから行くぞ!」
「はーい」
優の顔をまともに見れなくて自転車を引きながら乱暴にそう言うと、優は務めて明るく返事を返してくれたのだった。