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砂雪姫  作者: 凪沙一人
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第6話 ルリとハリー

「水晶窟からお前たち2人以外の声がしたからな。3人でシートに座るには狭かろう。どうしたハリー? 早く乗るがよい。我は関せずだ。申し開き在らばサンディにするがよい。」

「こ、今度の名前はアイゼンか。申し開きって… いや、そうだな。そうするよ。」

 アイゼンに、なんとも歯切れの悪い返事をしてハリーは側車に乗ると膝にルリを乗せた。何やら事情がありそうだが、フィアーには興味の無さそうな話しのようだった。フィアーは構わずアクセルを回した。アイゼンの能力を動力としてはいるが、速度も方向もフィアーが操縦をしている。ゼノヴァに到着すると憂鬱そうなハリーに比べてルリは御機嫌だった。

「フィアー、面白かったぁ。また、乗っけてねぇ。」

 どうやらアイゼンのお蔭でフィアーはルリの中でお前から名前呼びに昇格したらしい。

「フィアー、暫くその子の相手してて貰える? あんたはきっとこっち。」

 可哀想になるくらいハリーは項垂れて店に入っていった。

「パパ、大丈夫かなぁ? 」

「大丈夫。パパは強いんだろ? 」

「うんっ! 」

 フィアーも子供の相手が得意という訳ではない。だが、流れ歩いていると大人たちがフィアーを見るだけで隠れてしまうのに、幼い子供たちは大人が目を離した隙に近づいて来る事もあった。最初の頃は面倒臭くもあったが、自然と扱いに慣れてはきた。相手ではなく、あしらう感じではあるが。一方、店内ではハリーがサンディから質問… というより詰問を浴びせられていた。

「あんた、どうやったら水晶窟に行って父親になるの? 」

「父親って… 」

「あの子、あんたの事、パパって呼んでたわよ? 」

 矢継ぎ早なサンディからの質問にハリーも萎縮しているようだった。

「あんた、まさか人間と… 」

「ないない、それはないっ! 」

 サンディが何を言おうとしたか察したハリーは全てを言われる前に大慌てで否定した。

「冗談よ。当たり前でしょ。生物でもないあたしたちに子供が出来る訳、ないじゃない。」

「冗談に聞こえませんよぉ… 」

 項垂れるハリーだが、サンディは気に停める様子もない。

「それで、どうしてあんたが父親なの? その姿になって2、300年は経つでしょ? 物心ついた人間が間違えるとも思えないんだけど? 」

「あの子が物心ついてからなら、そうかもね。」

「? 」

 サンディは一度、首を傾げ少し考えると、それから二、三度軽く頷いた。

「なるほどね。さしずめ幼いあの子をあんたに預けて両親は逝っちゃったてとこね。でも、なんで否定しなかったの? 後で傷つくのは、あの子でしょ? 」

 老いないハリーと成長していくルリ。いずれルリもおかしい事に気づくだろう。

「いつかは話すさ… 」

「何? 父性に目覚めちゃった訳? まぁ、人間の祈り聞いて、この町を半世紀も守ってるあたしが言えた義理じゃないわね。これであんたは戦力外かぁ。当てが外れたわ。」

 今度はハリーが首を傾げた。

「どういう意味かな? ルリが居ると戦力外ってのは。ちょっと心外だよ。」

 ハリーも決して好戦的ではないが実力には自信があった。盗賊程度ならルリを守りながらでも戦えると。

「最近、この辺りに盗賊たちが集まって来てるのは知ってるでしょ? 偶然だと思う? 」

 サンディが、こう訊いてくるという事は、偶然ではないと言っているようなものだ。

「誰かが糸を引いていると? 」

「そ。多分、何処ぞの金持ちが、ここに火薬工場でも作りたくて、幾つかの盗賊団を金で雇ってるんだと思う。その狙いに気づいた大きな盗賊団も先にここを押えて交渉材料にしようとしてる。鉄砲玉から採掘まで今の時代には必需品だからね。」

「なるほどね。サンディ姉さんとしては、長年守ってきた町を見棄てる気にはならないか。」

「え? お姉ちゃんってパパのお姉ちゃん? 」

 唐突に店に飛び込んできたルリが不思議そうにサンディとハリーを見上げた。見た目だけで言えば、どう見てもハリーの方がサンディよりも歳上に見える。サンディは仕方ないという感じで後から入ってきたフィアーに視線を送った。フィアーが幼女の相手をするには、そろそろ時間的に限界だと思っていたのだろう。

「えと、いや… パパのお姉さんの娘… かなぁ。」

 ここで「かなぁ」と言うのもどうかと思うがルリは気にしていなかった。

「じゃ、ルリの従姉ちゃん!? わーい! ルリ、お姉ちゃんが欲しかったのっ! 」

 咄嗟の事とはいえ、知り合いくらいにして措けばいいものを、従姉にされるとはサンディも思っていなかったが、無邪気にはしゃぐルリの様子に怒る気にもなれなかった。

「せっかく来て貰ったけど、もう行きなさい。でないとルリちゃんを巻き込む事になるわよ。」

「なぁ、珪砂は供給して貰えるんだよね? 」

 サンディの忠告にハリーは予期しない質問を返してきた。珪砂とは石英を成分とする砂であり、石英がなした自形結晶の中でも特に無色透明なものを水晶呼ぶ。

「あんた、あたしの言った事、聞いてたの? 」

「もちろん。でも僕も、そろそろルリを他の人間と接した方がいいと思っていたんだ。いい機会だろ? 」

 ハリーの答えにサンディは大きな溜め息を吐いた。

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